葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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叙-12

 

「…………」

 

「…………」

 

翌々日。

休日を一日挟んだ休日。

色々と調べ物や交友関係……より具体的に言えば東郷の両親や乃木の両親との接触の後。

夕方からを友奈との相談の予定で埋めた、午前中。

 

「…………あー、()()()()

 

湯気が立ち昇る湯呑を前にして。

休憩室の端、物陰にも為り得る場所。

()()()()()、巫女服姿の少女と並んで座っている。

 

「…………ずっとお待ちしてたんです、よ?」

 

片手を湯呑の前へ。

もう片手を、中途半端な位置に置きながら。

ボソボソと、内容が漏れ聞こえない程度の音量で呟き続ける。

 

(……失敗したなぁ)

 

横に座る理由は単純。

向かい合うのではなく、そうしたいと望まれたから。

そして、周りから見て表情を気取られづらくする為。

……後者が意味を成すのかは正直微妙だと思うが。

 

何しろ、何とも言えない雰囲気に。

仮面の下から此方を伺う数がそれなりにいたから。

 

気付けばその姿は消えていたから、一過性だったと信じたい。

何しろ、こうして話すのも十回を超えている筈なので。

 

「…………悪い」

 

先に口にしたのは謝罪。

実際問題、ずっと待たせたのは事実。

 

来よう来ようと思っていても……というのは言い訳に過ぎず。

実際に待ち続けていた少女からすれば一日千秋にも感じたはずで。

俺自身、想いを口にしてくれた少女に会いたかったのは本当だからこそ。

そんな想いを、言外に口にする。

 

「…………許してあげません」

 

但し、返ってきた答えは否定。

ぷくり、と頬を膨らませながらの一見可愛らしい言葉。

 

「ええ……」

 

「……知ってるんですよ。 何してたのか」

 

聞いてるんですから、という言葉。

思わず胸元を見下ろせば、微かに動く編みぐるみ。

 

『言っとくけど、今の私は亜耶ちゃんの味方だよ?』

 

言ってくれれば夢の中でも呼んだのに、と。

軽々しく力を使うことを口にする。

 

簡単に使わせたくなかったから頼まなかったのだが、逆効果に働いたのか? これ。

 

「…………いや、どうしろっていうのさ」

 

どちらに対しても意味を成すように口にする。

今の今は全てが思惑が全て逆に働いている。

 

実際、今日の目的は二つあって。

一つは大赦の内部の変化や風先輩に関しての取っ掛かりを掴むこと。

もう一つは今の邂逅ではあったのだが、前者は諦めないと駄目そうで。

微かに息を漏らせば、彼女も同じように息を漏らす。

 

「……どうすれば、良いと思います?」

 

そして返るのは逆質問。

 

ちらりちらりと向けられるのは恐らく意思を伝えていて。

今の彼女が『巫女』でなく『ヒト』として在ることを示している。

 

つまり、要求しているのは少なからず()()()()()()で。

先ず間違いなく、こんなところで何か出来るわけもない。

それは当然のように、亜耶も理解している筈――――。

 

(…………あ、()()()()()?)

 

隣り合って座ったこと。

中途半端な位置の手。

視線。

 

其れ等を複合して。

彼女の目が再び何処かへ――――空いた手へ向いているのを見て確信する。

 

気付くのが大分遅くなったが。

不自然にならないように、そして偶然で済む程度に。

指と指だけが触れる程度に片手を置く。

 

少しだけ伸ばし、微かに触れれば。

頬の膨れは少しだけ緩み、彼女側から改めて伸ばされる。

 

「……遅いです。 ()()()

 

何処か嫌味を交えたように。

けれど、今までのような口振りへとほんの少し変化して。

これで正しかったのか、と内心で安堵する。

 

「……いや、分かりにくいよ?」

 

「……して欲しい事なんて、分かっているでしょう?」

 

精一杯の口での反撃。

けれど返ったのはちくりとした棘のある言葉。

 

何というか、大きく変わり過ぎと言うか。

()()()()()()()()()()()()()()()()

以前のような純真さが反転してしまっているような錯覚。

 

「…………おい、たかしー」

 

そんな考えへと結び付き。

一番怪しい人物へと声を掛ける。

 

びくり、と亜耶も振動したのが伝わってきた。

 

『わ、私は何もしてないですよ!?』

 

「嘘つけ」

 

だったら今のは何だよ。

嘘付けないっていうか嘘が超下手なのは友奈族の伝統か何かか?

 

「……いや、まあ。 俺がとやかく言えることじゃないけど。

 普段通りにしてくれる方が好きかなぁ、とは言っとく」

 

色々と感情を混ぜ込んで、そんな言葉を呟いて。

目の前の、少しずつ白い湯気が消えつつある飲み物を口にする。

 

自分で入れたわけじゃないから強くは言えないし、言わないが。

やっぱり、少し冷めると普段飲むお茶は露骨に味が強く出るなぁ。

そんな事を思い浮かべながら、半分程を飲んで机に置いて。

 

改めて隣の少女を見つめれば――――微かに、照れたような表情を浮かべていた。

 

「やっぱり、分かります?」

 

「分からないと思う?」

 

「気付いてくれるとは思ってました」

 

そりゃ、小悪魔というか人を誑かすような言動を急にするとは思えないし。

そんなことするなら本心から全部を吐き出すような子だろ、亜耶。

途中まで圧倒されて気付かなかったのは、彼女へは伏せておく。

 

「……でも、寂しかったのは事実ですよ」

 

「それは本当にすまん。 中学校が始まったりとか……。

 後はちょいちょい面倒事もあったから」

 

学年としては一つ下。

本来なら来年には同じ出来事を味わう少女。

ただ、大赦から外に出ることが在るかは不明な少女。

 

彼女には遠い物事なんだろう、と思ってしまえば。

少しばかり悲しみも湧き上がってくる。

 

「そんな顔、しないで下さい」

 

「……でもなぁ」

 

「私は、巫女としての役割がありますから」

 

それを当然のように。

けれど、微かに表情に滲むのは残念さか。

 

外部との連絡もまともに取れない少女達の……数少ない娯楽と言えば本。

其処から、思い描いているものもあるだろうし。

 

「だから……神樹様に、毎日祈っておきますね」

 

故に、そんな言葉は少しだけ意外だった。

何かを頼むような祈り、というのは彼女からあまり聞かない言葉だったから。

 

「何を?」

 

「ご安全と。 問題解決と」

 

微かにはにかみ、小さく零した。

 

「――――()()()()()()()()()()()

 

吐息に紛れ、湯気に消える。

白く棚引いた気さえする言霊は、宙に消えて。

 

「…………さて。 何か用事はありますか?」

 

次の瞬間には、身を取り繕って巫女として其処に在った。

 

……微かに苦笑いをしながら。

お互いにだけ、分かる言葉を口にした。

 

()()()()?」

 

今は、名家の一少年と巫女。

……先は、未だ分からない。




ちょっとだけ変わる日常。
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