葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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叙-16

 

廊下を走る音がする。

教室で何をするでもなく話していた複数名の視線が、自然とそちらに向いた。

 

『誰~?』

 

『放課後だってのに……部活とか?』

 

『学校内で?』

 

其処に残っているのは主に何もしない……帰宅部を選んだ学生と。

人を待つ用件を持つ学生……つまり俺達くらい。

 

自然と互いに距離を置き、雑談を続ける中で。

判断でも下ったのかね、と誰とも無くに呟いた。

 

「判断……?」

 

「昨日相談に乗ってくるって言ってたろ、そのことだよ」

 

「あー、言ってたなぁ」

 

だらん、と俺の机に凭れ掛かるそのちゃん。

自分の席で何をするでもなく肘を付いている銀。

そして、当時俺と並んで交渉していた美森ちゃん。

 

現状、このクラスで多少なりとも情報を得ているのはこの三人。

その中でも情報量に差があるのは……まあ、役割分担と言うか。

『他人に気付かれない程度に隠せる』かどうかを今までの付き合いで判断したところはある。

 

そういう意味では、せんちゃんにはメールを介して伝えてあるし。

同時にそのちゃんにも必要な部分のみ。

 

銀だけは……そもそも『隠す』事が苦手すぎるので、表面情報のみ。

というより、此奴は事前情報を得るよりもその場判断に任せたほうが優秀すぎるので。

 

「みんなー!」

 

そんな雑談の声を上書きするように扉を大きく開けたのは、まあ予想通りというか。

他にいないだろうなぁ、と思わせる友奈当人。

 

「廊下走るなよ」

 

「早くしないと帰っちゃうでしょ?」

 

「ならメールなりで連絡すればいいだろ……」

 

苦言に対し、何当たり前のことを……みたいな目で見返される。

これ、俺おかしいこと言ってないよな?

そう思いつつも、当然の連絡手段……中学にさえ持ち込む事を許可された携帯端末を指差す。

 

あ、そっか。

そんな言葉が漏れたってことは、最初から考えになかったな?

 

周囲の……俺達以外に残っていた連中は笑っている。

面白がって、というよりは()()()()()()()()を友奈が確保したから、というのもありそうか。

元々、同じ小学校から上がった連中もそれなりにいるのならある程度は性格も知っているだろうし。

俺達のように、外部からの連中が纏まったような不安定な立場とは違う。

 

勿論、女子は女子と……男子は男子と、それなりの付き合いは生まれている。

ただ、男子の中だけで話すと『どんな関係なんだよ』と最低一回は聞かれるのは辟易する。

 

三人……いや、友奈を含めて四人でなく。

既に最上級生の中でも静かな人気を集め始めているらしい、せんちゃんも同じような扱いらしいし。

 

五人に囲まれてどうなんだ、と言われても。

全員が俺の生命より大事、とはっきり言ってやれば良いのか……ちょっと分からん。

 

「……友奈ちゃん?」

 

「……あ、え、東郷、さん?」

 

で、そんな友奈に対して圧倒的に有利な立場にいるのが何故か美森ちゃん。

どうにも苦手な雰囲気と言うか、自分の事を思ってくれての指摘だからなのか。

恐らくはその複合のせいで、こうして叱られる時は絶対に勝てないとは当人談。

 

まあ、俺達も須美ちゃん時代の頃から勝てなかったし。

言いたいこととか、その感覚は分かってしまう。

 

「なんか懐かしいよね~」

 

「あー……やめてくれ、昔の須美を思い出す」

 

「ああ……カチコチだった頃の?」

 

多分、全員が似たようなものを思い出している。

 

二人は神樹館の頃を。

俺はそれ以外の時を。

 

少しずつ柔らかくなったとは言え、その面影は未だに影として染み付いているわけで。

 

()()()?」

 

多分何も知らない人間から見れば流し目、或いは魅力的な横顔。

但し良く識っている俺等からすれば『其処までにしなさい』という無言の指摘。

その通りに全員が押し黙り、それを見届けた上で。

笑顔を保ったままに友奈へと言葉を投げ掛ける。

 

「規則を守れる時はきちんと守りましょう、ね?」

 

「ひぇっ……う、うん。 次から気をつけます!」

 

(こっわ)

 

多分だが、全員の心は一つに纏まっていた。

遠くでニヤニヤしながら見ている連中は目の保養とか、面白がっているだけだろうが。

 

「あ、あー……友奈? それで?」

 

少しずつ涙目……というか沈み込み始めた?のを見兼ねて。

話の途中だったというのもあり、何と言われてきたのかを確認する。

もし俺達の想定通りだと、相手を待たせてる可能性が無くもないんだが……。

 

「……ぁ、うん。 例の部活、()()()()()()()

 

「そうか……結局そうなるかぁ」

 

まあ、事情を知ってる俺達を内部に入れるというのは先輩にとっても負担の軽減になるし。

表面上は人助けの部活に過ぎない以上、明確な否定理由がなくては中々難しいと思う。

恐らくその辺で悩んだんだろうなぁ、と思うのは……()()()()()()()()()()()()()()

 

前者は、『先代勇者』という情報も何もない車椅子の不自由な少女。

後者は、特に情報も残されていない……抹消された、けれど神具を常に持ち歩く不思議な少女。

内面を知ればそれだけ頼りにはなるが、表面上は本当に何でも無い。

身内人事と言うか、引き込む代償として加入するような感じ。

 

(まあ、それも間違ってないしな)

 

実際二人が入らないなら俺は入らなかったと思う。

分断されるとしたら、未だ勇者として活動できる可能性のある二人とそうでない二人。

ならば巫覡の一人として、後者の力になったほうが均等に力を発揮できるだろうから。

 

『満開』の事実を知る以上、規定以上の力は出せない制限は付くが……。

大赦側にどの程度まで明かして良いのか、もう一度全員で相談する必要も在る気がする。

 

「え、嫌だった!?」

 

「そんなに焦るな焦るな。 嫌とは言わないし、相談された以上は全力で対応するわ」

 

焦る友奈を落ち着かせようと。

そう言葉にしたら、机の下から指が二本ずつの合計四本。

親指と人差指が脇腹に触れて、ぎりぎりと強く摘まれた。

地味に痛いが、何をしてるんだ二人共。

 

「……うん、そうだよね」

 

それに対し、当たり前のようで――――少しだけ嬉しそうな顔を浮かべた気がするが。

多分気の所為だと思うので流して進める。

 

「……一回は挨拶行かないとな、と思ってただけ。

 銀、そのちゃん。 動く時間だよ」

 

ほら、だからその摘むのをやめなさい。

これから動かなきゃいけないんだから。

 

「…………園子ぉ」

 

「私達も苦労するよねぇ~」

 

…………更に力を込めるのをやめろ。

 

そんなこんなで――――。

動き出すまでに掛かった時間は、ほんの少し増した。

その内やる掌編

  • そのっち@小説絡み
  • 東郷さん@ぼたもち
  • 銀ちゃん@部屋でだらだら
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