葦原天理は巫覡である 作:氷桜
「お、来たわね」
がらがら、と部室(仮)の戸を開けて。
待っていたのは風先輩。
ただ、その表情は何処か不敵な笑みだったはずなのに。
俺を見て、怪訝そうな表情へと変わっていった。
「……大丈夫?」
「はい、まあ、何とも無いですよ……ええ」
脇腹に残る鈍痛。
地味に後に残るような捻り方をされたせいか、こうして少し時間を置いても痛みが引き切らない。
其処に片手を置きながら、微妙に顔に残りながらの顔出しだったからか。
恐らく、何も知らない風先輩には心配させて。
背後の、銀を押すそのちゃんは車椅子の上の少女と合わせて……少しばかり
良い罰、とでも言いたそうな美森ちゃんが一番いい笑顔をしているだろうと理解して。
そして、ここへと連れてきた友奈は何も理解せずに首を傾げている中。
はぁ、と露骨に溜め息を漏らしているのは代表したせんちゃん。
つまり今、この場に全員集まっているというわけで。
途端に部室の中が狭く見えるのは先程との比較による錯覚だろうか。
或いは、俺自身が背後から感じている圧力に似た何かに押し負けている結果なのか。
「……まあ良いわ。 深く突っ込むと泥沼になりそうだし」
「賢明ね」
それはどういう意味だいせんちゃん。
聞こうとすれば、普段はしないような極上の笑顔を向けている。
……駄目だな、やっぱり根本的に勝てる気がしない。
『己の女子に対してはそういうものじゃないか?』
『ワカ様?』
『ま、間違ったことは言っておらんだろ!?』
『相変わらず見てて面白いね、お二人共……』
わーぎゃーと途端に騒ぎ出す三柱。
以前に比べて声を掛けてくる機会は減ったが、これは純粋に作戦を三人で考えているから。
造反神……という言い方でいいのかは分からないが、あの同郷の神の試練を超えるため。
そして超えた後をどうするか、で検討を進めているからなんだとか。
……実際、情報が不足し過ぎていて出た所勝負にしかならないと思うんだが。
そう言い切っては駄目なんだろうか。
取り敢えず座って、と人数分の丸椅子。
これは今後の活動次第では在るけれど、椅子くらいはもう少し良いものを買っていいと思う。
長時間作業する上でも結構違いが出てくるものだと、俺は最近知った。
「じゃ、取り敢えずここにいる顔触れで部を作るわ。
……って言っても、其処まで堅苦しい形にするつもりもないんだけど」
「風先輩! そういえば聞いてなかったんですけど、何でこの部活作るんですか?」
じゃあ入部届書いてね、と紙を配ろうとした瞬間だった。
はい、と手を上げた友奈が謎の質問を投げ掛ける。
「理由? どうせ一回しかない中学校生活なら色々やったほうが楽しそうじゃない?」
そして、平然と応じる風先輩。
それは恐らく表立って考えていた理由の一つであり。
恐らくは、という二重の前提を踏んだ上だが……半分以上真剣に思っていることなのだと感じた。
つまり、今の彼女は本心である『楽しむこと』と。
何処か拒絶しながらも、何かの為にやらねばならない『勇者を集める』事を同時に熟そうとしている。
それ自体が――――自らの心にどれだけの軋みを与えるか分かっていながらも、尚。
(……やっぱり、この人の悩みが分からんとこれ以上は何も出来ないよな)
ただ、ヒントに近いものはある。
あの時、美森ちゃんが呟いた言葉に大きく反応を見せたこと。
そして、可能性に過ぎないとしても『勇者』というそれ其の物に近付こうとしていること。
あの目の色、或いは彼女の事情が知れれば突き止められるかも知れないが……。
それもまた無粋だし、下手なことをすればまた彼女達の機嫌を損ねることにも繋がる。
やるとしても全員に土下座した上で、だよなぁ。
「なら、私からも質問。
勇者部、なんてものを作るってのは
活動としてはどういった形で進めていくつもりなの?」
まーくん?と此方に目を向けられたが。
意識して無視して、質問に答えるのを待つ。
まぁ、何も考えてないってことはないと思うんだが……。
「取り敢えず手伝って欲しい内容を募集箱……部室の前に一つ設置するわ。
後は並行して、まだ届いてないけどパソコンでもサイトを運営したりするつもり。
この辺りは私は不慣れだから、時間掛かると思うけど」
それより前は校内放送とか、或いは口コミかしら。
そんな事を口にしながら向けている目線は友奈に対してで。
「……ああ、
「
私達の学年でも色々と話題になってたってのもあるわね」
誘った理由の一部分を拡大して、主目的に掏り替える。
目の前の女性は直ぐにそれを理解して乗るように口にし。
周囲の女性の幾らかは、そんな拡大した言葉の裏の事情を理解したように思える。
そうなるように言葉にしたつもりだったし。
事前に幾らか伝えた事情から、結び付けること自体は容易かったはずだ。
「ああ、後先に言っておくけど……少なくとも今年一年はこのメンバーで活動するつもり。
其処まで幅を広げられないし、実質ボランティア部みたいな部活だから。
そんなに参加する人数も増えないだろうしね」
はい、と一人だけ大きく手を挙げて応じる友奈。
今年一年、というのは……恐らく妹さんを加入させることを前提としてか。
つまりどこかしらで顔合わせはするだろうし、そっちの方向から探るのも有りかも知れない。
「他に質問ある?」
「あー、じゃあアタシから。
見ての通り今不自由な身体何だけどさ、定期的に病院行くから顔出せないときもあると思う。
そういう時は携帯電話で連絡すれば良いです?」
「或いは……昼休みでも良いわよ。 基本的に此処は空けるつもりだから。
機会があったらお昼とか一緒にどう?」
「ああ……良いですねー」
そんな幾らかの業務連絡。
ほぼ唯一事情を薄くしか知らない銀がいい感じに動いてくれている。
後で伝えるから、と心の中で深く頭を下げつつも。
……何でこんなに苦労せにゃならんのだ、と。
誰とも知らない何かに、そっと吐き捨てていた。
その内やる掌編
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