葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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叙-21

 

日も落ちた薄暗い道。

 

「なんかこういうのも楽しいよね~」

 

「……そう?」

 

人気も大分無くなり始めた道を、友人……()()と二人で歩いて帰る。

こうなった理由も、こうなってしまった原因もたった一言。

『猫のせい』で落ち着いてしまう。

 

「にしても、猫が暴れたってのも酷いな……」

 

「制服が破れちゃったから……流石にね」

 

鋭い爪が服の襟辺りから縫製の繋ぎ目部分を少し裂いてしまい。

大慌てで持ち主に返した後で、二人は自宅に戻ったのだという。

別に俺に持ってきてもらえば縫ったのだが……恥ずかしかったのだろうか。

 

「まあ致し方ないとは思うけどさ。 俺でもやれたと思うのに」

 

「破れた服とか見られたくない、って乙女心は分かってあげよう?」

 

まあ、うん。

それは分かるし納得もするよ。

 

身体の線が出てしまう学校の指定着の幾らかも俺達には目の毒だし。

その辺は顔に出さない技術くらいは身に付けてるけど、向こうも向こうの考えがある。

メールで『ごめん』と入っていた以上は深く聞かないし、納得する。

まあ明日、チクリと刺すくらいはするけれど。

 

「今はそのちゃんしかいないから言うんだって」

 

「え~……私、特別って思っていいの?」

 

「そのちゃんは十分特別だよ?」

 

かつん、かつん。

硬質な、跳ね返る音が街中に静かに響く。

 

「……捨てたりしたら一生許さないからね?」

 

「捨てられる訳ないじゃん……」

 

気付けば、片手に少女がそっと寄り添い。

それを当然のものとして、夜の街を二人で進む。

 

小さく響く言葉の幾らかは、俺達にとってはもう当たり前になったような言葉で。

けれど、以前の俺達が聞けば疑うようなものであったのも間違いない。

 

嫉妬。

願望。

欲望。

夢想。

 

そんな、生きていく中で心の中で留めるべきものが溢れ出るように。

そして、それを受け止めることを当たり前に求めて。

当たり前に受け止められるからこそ、俺は今こうして彼女の隣に立っている。

 

親の前では決して口にしないこと。

『勇者』という役割を担ったからこそ掴み取れたものでは有り。

そしてそれを、彼女は()()()()()()()()()()()()()()

その最も大きな点は――――多分俺自身と、親友の負った大怪我。

 

それがあるからこそ、彼女達とはある線を超えて触れ合わず。

それが解除され次第に、更に一歩進んでしまうと考えているのは互いに同じ。

 

今だから出来ること。

今しか出来ないこと。

 

其れ等を求めて、唯歩く――――その一つが、今の行動であると信じながらに。

 

「この後どうするの~?」

 

「なんか銀とせんちゃんの検査、長引いてるみたいなんだよねえ」

 

「何かあったのかなぁ」

 

「いや、単純に他の人の検査とも重なっちゃった結果らしいんだけどさ」

 

そっかぁ。

そうらしいよ。

 

その意味もなく。

深い意味を確認するまでもなく。

当然の事象として起きたことだけを口にする。

 

彼女の中でどう汲み取られたのか。

その全てを把握するのは、今の俺には到底できず。

出来ることは……彼女が、()()に旅立たないように押し留めること。

 

銀や美森ちゃんが言うには『園子/そのっちが天理/天理君の重しになってる』と言っていたが。

どう考えても逆だと思うんだよな。

 

「じゃ~……どうするの~?」

 

繰り返される質問。

 

「夕ご飯は食べて帰る、とは言われたかなぁ……」

 

だから自分の分だけか、或いは外で。

……正直、一人分だけ作るのは面倒。

 

余り外食は経験してこなかった、というのもあるのだが。

どうしても三人で一食前提の食料の考え方をしてしまうから。

中途半端に余ってしまった後を考えると億劫になる……のは多分中学生らしくはない。

 

「そっかぁ」

 

「そうなんだよねぇ」

 

ちらり、と露骨な目線が此方を見た。

手を引き、声を掛けてくれるのを待つように。

自ら名乗り出ずに、待ち続ける立場としての顔を彼女は見せて。

 

「……行く?」

 

「うん!」

 

その圧力に負け、望みの言葉を小さく紡ぐ。

途端に咲いた満面の花に、照れ臭さを抱えながら彼女の肩を掻き抱き。

どうしようか、と話す光景を見るのは遥かな天のみ。

 

「ん~……何処のうどんにしよっか……」

 

「あ、それは確定なんだね……」

 

「夜のお店ってあんまり見たこと無いし~」

 

まあ確かに。

良さそうなのがなければそのちゃん家にでも寄ってもいいし。

そう提案すれば、喜びの表情が更に増す。

 

今だから見られる表情。

嘗てでは、見られたか怪しい表情。

 

だからこそ、少しだけ感じるのは昔に対する郷愁で。

それを直ぐに感じ取り、擦り付けるようにするのもまた彼女。

 

「……ん?」

 

「ちょっと寂しそうにしてたからさ~」

 

「そう?」

 

「うん」

 

彼女がそう言うならそうなんだろう。

それ以上考えることもなく、少しだけ人通りが増してくる表通りへと脚を踏み出す。

 

そのちゃんの家……駅前のマンションの方へと足を向け。

まぁ、最低限……何があっても送ることくらいはするつもりで、唯歩く。

 

再びに始まる、幾らかの雑談。

 

「……ねえ、てんくん」

 

けれど、そんな中で浮かび上がった微かな相談。

 

「うん?」

 

「……()()()()()()()、ってなんだと思う?」

 

「岩?」

 

「うん、岩」

 

何をしようとしても動けなくて。

鎖のようなもので身体を巻かれて。

目の前に、大事な誰かがいるのに手が伸ばせない。

 

苦しくて、悲しくて、でも何も出来ない。

ぎちぎちぎちぎち、と鳴り続ける悲鳴代わりの鎖の音。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「たまぁ~に見るようになったんだけど……大丈夫、だよね?」

 

「大丈夫」

 

()()()()()()()

 

神樹サマの中で、神樹サマの見る光景として見たそれ。

それを、今そのちゃんが見ているのなら。

恐らくは……血の繋がり故なのだろうか。

 

「うん。 俺が護るから」

 

「…………うん」

 

精神を、魂を、存在を守り。

肉体を、命を、互いを守り。

 

勇者達と、巫覡はそんな不可分な繋がりで結び付いてしまったから。

 

「ず~~~っと、いっしょだもんね?」

 

「……そうだね」

 

――――離れられる時は、来るのだろうか。

――――離れてくれる日は、あるのだろうか。

 

そんな、不可能を証明するような疑問は。

将来の俺へと投げつけて……今の、限られた闇の中へと。

 

先が見えない幸福の中へと、再びに……脚を、進めたのだった。

 

だいすき。

 

おれも。

 

無言の言葉を、二人の間でだけ響かせて。




もうすぐ誕生日なので。
長くなったけど次から残り二人の救出を始める章です。

その内やる掌編

  • そのっち@小説絡み
  • 東郷さん@ぼたもち
  • 銀ちゃん@部屋でだらだら
  • ぐんちゃん@ゲーム
  • ずんずん@真面目な話
  • タマ先輩@アウトドア
  • 友奈ちゃん@お出かけ
  • 亜耶ちゃん@お祈り
  • たかしー@夢の中
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