葦原天理は巫覡である 作:氷桜
(取り敢えず完成するまでの試作品は持ってきたが)
翌日、イネス。
立っていても不自然ではない位置、入り口正面の柱の影。
かさり、と鳴る紙袋に
今作っているモノの試作品、だから働く力は極微量。
「昔で言うお守り代わり……ってやつだな」
完成さえしてしまえば。
神の与える力として性質が同じ以上、神樹サマの与えるお役目でも役に立つ筈。
時折時間を迫るようにヒメの見る目線が強くなるのだが。
未だに其処から情報を手に入れるのは出来ず、微かな不安感を覚えるだけ。
(もっと練習しないと…………っと、アレか?)
正面口が開き、神樹館の制服が入ってくる。
聞いていた通り三人組。
黒髪を纏めている……でいいのか? 確かにきっちりしていそうな少女と。
今一瞬眠りながら歩いて無かったか? と疑いたくなるふわふわした金の少女。
客達も、一度はそれに目をやるけれど。
分かる人達は少しだけ畏れに似た感情を顔に貼り付け、ゆっくりと別の場所へ移動していく。
「ほれ、此処がイネス!」
「おお~~!」
「色々と便利な場所そうですね」
まだ入り口なのにそんなハイテンションで良いのだろうか。
話しかけるのも一苦労なんだが……あー、一応メッセージ送りつつ合流するか。
俺:『今から行く。 周囲にもちゃんと目を配れよ』
送信、と。
向こうも端末から電子音がしたし、此方を確認しただろうし近付いていく。
特に警戒させたりされないように、無闇に近づかないように気をつけながら。
「銀」
そんな呼びかけに三人の目が向けられる。
一人は多分喜びに似た感じで。
残り二人は警戒とか、探ってたりする感じか?
ぽやぽやしてて何考えてるのかわからないから推測すら成り立たないけど。
「もう来てたんだ」
「此方からのほうが近いしな。 ……言ってた二人?」
どうもはじめまして、と一礼。
うんー、とか笑いながら呟くのはどんな意味があるのか。
「そ。 あー、一応紹介しとくな? 此奴が葦原天理。 アタシの……幼馴染で良いのか?」
「腐れ縁で良くないか?」
「全然意味合いが違ってくるだろ……」
そうかぁ?
まあ銀が言うならそれでいいか。
「で、此方の二人が鷲尾須美と乃木園子。 名前聞いたことある?」
「いーや。 ただ、名字からして察した」
そりゃ遠巻きにするしされるわ。
可愛い女の子だから男連中は話しかけたくても絶対行けないだろ。
その内手紙とか貰いそう。
「ご紹介に預かりました、鷲尾家の須美と申します」
「乃木さん家の~園子ちゃんです~」
「葦原……になるらしい、天理です。 学校は違うけど仲良くしてくれると嬉しい」
あしはら……?なんて言葉がふわふわっ子……乃木さん? 園子ちゃん?から漏れる。
名字を知っているんだろうか。
実情を知れば呆れるかすぐに忘れてくれると思うが。
硬い印象。
柔らかい印象。
何方も拒絶と行ったものまでは見えない。
そして、その内一人……鷲尾さんとは、
向こうもそれを疑問に思ってか、しきりに自分と俺を見たりしているのが目立った。
……悪い相手とは思ってなかったけど、仲良くは出来そうか。
だったら、特に二人に言っておきたいことを兄目線から言っておく。
「銀は良く遅刻したり人助けであっちこっちフラフラするから、目をつけていて欲しい……!」
「え、そこでアタシ?」
「日常でそうなんだから学校でもやらかしてるだろお前」
これは想定。
実現場を見たわけではないから推理に近いものだけど。
「ミノさんなら~……この間教科書全部忘れてたよ~?」
「ちょっ、園子!?」
「いや何してんだお前」
ノート一冊忘れるとか一日週を間違えてて、なら分かるけど。
完全にないってのは重さとかで気付かなかったのか?
うわ、鷲尾さんの目が冷たい。
「し、仕方ないだろ! 母ちゃんも今色々忙しいから、アタシも手伝わなきゃだし」
「今……ですか?」
「あー……そういやもう一人下の子が出来るんだっけ?」
言い訳……にしては理論立った内容。
少しだけ寒さが和らいで、理由を続けさせようとして。
母ちゃん、と出た単語でこの間聞いていた話を引っ張り出す。
「そうそう。 まだ動けるー、って言ってるけど手伝えるとこは手伝いたいしな」
家族思いで、気配り上手。
銀に人気が出る理由のまあ一つ、だな。
「ミノさんは頑張りやさんだね~。 えらいえらい」
「園子ぉ、頭撫でられるようなことでも無いと思うんだけど」
ぽややや、としながら手を伸ばして頭を撫でている。
顔を赤くしながらそれを受け入れている銀。
そんな二人を――いや、何処から取り出した?――カメラで何枚も映している鷲尾さん。
俺の目線に気付いて、我に返ったようではあったが。
「…………趣味?」
二人が二人の世界を作っているから、今のうちに鷲尾さんに聞いてみる。
「趣味、といえば……はい、その通りです」
「別に否定したりするつもりは全く無いけど……そうだな」
何だか不安そうな表情をされても困る。
俺はそんなに邪悪でもないし、趣味を否定できるほど偉くもない。
寧ろちょっと興味が湧いた側。
「後で、写真俺にも貰えない?」
「…………え?」
「いやぁ……恥ずかしいけど、俺達って互いの写真の一枚も持ってなかったんだよな」
それに、友達が増えた記念に四人で撮影とか……はどうだろう、と提案して。
「そう、ですね。 ……皆で、取ったのなら。 皆で共有しましょう」
未だに続けている二人、に顔を真赤にした銀が可愛がりから抜け出して。
少しだけ壁を作っていた鷲尾さんも――――それを緩め。
小さく、笑みを浮かべていた。
その横顔は。 変な話だけど……。
妙に、綺麗に見えた。
*変更点
・鷲尾須美の趣味に「カメラ」追加
・この時点で巫女の能力の一部に気付き始めている
・三人の互いの呼び方は「友達」以降のモノへ変化済み
・そのっちは「葦原」の存在を知っている。