葦原天理は巫覡である 作:氷桜
目覚め、幾らかの時間が過ぎた連休直前の夕暮れ時。
さて、と全員に告げた居間。
それなりに広いはずのその場所は、今は人数でごちゃごちゃとしている。
「うへー……これでまだ増えるんだよな?」
「成功したら増えるわね」
「……でも、助けない選択はないでしょう? 私達からしても、貴女達からしても」
「……今度は、私達が助ける番ですもんね」
「タマもやる気全開だぞ!」
一番狭い縁の部分に俺が。
長い縁の部分に先代勇者/初代勇者が互いに座り。
最も近くへ座り続けるのは何故かそのちゃんと杏さん……そして編みぐるみ三体。
俺の役割は、ここから聞こえる声の通訳と意見の集約。
そして最終的な作戦の考案。
その為に戦術を考える立ち位置にあった、現状での金髪二人に意見を請い。
そもそもそれが可能なのかをワカとヒメ……後は可能な範囲でたかしーに聞く。
やってることが
「えー、話を始めるが……一応事前の話は聞いてるよな?」
「乃木さんの現状についてよね?」
確認するように繰り返したせんちゃんに頷くことで答える。
念の為、という理由であっても言葉にしてくれたことは素直に助かる。
その大前提を取り違えていると面倒くさいことになりかねないので。
「ついでに言うと、現状を例えると
「バーテックス……とどっちを相手にするほうが楽なのかしらね」
「どっちもどっちだと思うよ~?」
本当にそれ。
若葉さん……そのちゃんのご先祖様に当たるらしい彼女の持つ”切り札”。
その真髄は速度と言うか、
攻撃其の物を振るう度に加速する行動速度。
それに付随する身体的な影響は神からの呪い/加護で踏み倒し。
実際には傷付き続ける身体の影響を無理に治癒しながら、更に加速し続ける。
そして合わせ、背に生えた翼による広範囲破壊を持ち合わせた”最優の勇者”。
……バーテックスを相手にするのとどっちがマシなんだろう、と疑問さえも浮かぶわけだが。
多分、それは全員が重ねて思うこと。
「……まず、戦う大前提として『相手を動かさない』事は必須だよ、な?」
「一応、私達の弓や銃で阻害することは出来ると思うわ」
「ですが……私達だと、役割と威力の差が違いすぎるというのもあります」
一射一殺、確実に排除することを前提とする射撃を最もとする美森ちゃん。
多射少殺、確実に削ることを前提とする、誰かと組み合う事を想定した杏さん。
前者は容易に回避され、後者は恐らく歯牙にも掛けない。
総合すると、やはり運用する上では重ねて/合わせて運用することが必須。
どの攻撃を回避しなければ行けないか、という思考情報を削る役割になるだろうか。
「多分、相手がどっちの属性も持つなら俺と上里さんで少しは鈍らせられると思うが……」
『そればかりに集中も出来ぬだろうな』
『それどころか、今回は周囲の影響も踏まえる必要があります』
「……要するに、嫌でも短期決戦を要求されるってことになるが」
範囲を薙ぎ払う力を持つ相手をどう止めるか。
極近接戦を得意とするのがせんちゃん、その補助にそのちゃんが付くとして。
「……タマ先輩はどうします?」
「あー……うーん、ちょっと聞いてて思ったんだけどな?」
「はい」
「多分、
え、という言葉が漏れたのは俺だけではなく。
西暦時代を生きた勇者全員からも同じように口にされていた。
「ど、どういうことです!?」
「あんず、近い近い」
どうどう、と距離を取らせてからこほんと一息。
これは多分精霊の相性もあると思うんだがー、と前置きして。
「切り札……輪入道を降ろせば盾として全員を守れるし、同時にかみさまの力も借りられると思う。
それに……若葉の武器に宿る何か、って助言があったんだよなー?」
「ありましたね……たかしーからのやつ」
「タマもあんまり詳しく覚えてないけど、神樹様の中心の神様って何回か死んでるんじゃなかったっけ?」
つまりはその弱点を狙えってことじゃないのか?
そんな言葉に、空白が数秒。
そして同時に全員が動き出す。
「……ワカ?」
『…………
「炎、火……らしいけど」
「若葉ちゃんの大天狗は炎も振り回したりしてたよー!」
「ってたかしーが言ってる」
喧々囂々。
彼方此方から意見が噴出し、それを纏めて整理する。
方向性、取っ掛かりは見え。
可能性は僅かに産まれた、と言い切れそうでは或るのだが。
『残りは……
ぽつり、と漏れるヒメの言葉に現実に返る。
位置を知り、状態を知った。
確認し、何度も何度もそれらを確かめ。
結果、一つの答えを導くしか無かったその結界の解除方法。
『乃木と上里の血縁を持つ人物達による解除』。
内側の二人を考えれば、それが当然とも言える固さ。
そして、普通に考えては解けるはずもない必要事項。
何しろ、血縁同士による――――
その血を混ぜ合わせることを大前提としたモノ。
この地を作り出したとされる混沌の逸話を利用するもの。
ワカの存在を利用でもしなければ。
天の神の力を利用でもしなければ。
その取っ掛かりに指を触れることさえ出来ない鉄壁の呪い。
……つまり。
(…………やっぱり、ある種の啓示にも近かったんだろうなぁ)
ちらり、とそのちゃんへと目をやった。
照れて、真っ赤で。
他の二人に強く見られているのを分かりながらも、その表情を取り繕え無いくらいに染まっていた。
しなければならないこと。
結界の前で、血を混ぜることを誓う儀式を以て封印を砕く。
行為、或いは疑似行為を以て――――本来であれば砕くことさえ許さない呪いを解呪する。
……婚姻を誓う。
それに近い行為を求める。
そういった、下世話な呪いでもあった。
・実はこの章乃木&上里(+花本)の章なんですよ。