葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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結-3

 

「…………ううん」

 

がりがり、と頭を掻き削りながら書いていく幾らかの宿題。

随分昔にも感じる、小学校の頃の一幕を浮かべながらの勉強。

 

連休に当たり、どうしても避けられないのは最初の理解度試験。

妙に早く用意された最初の試練に対し、個人的な事情とはまた別に勉強は避けられず。

英単語を穴埋めしていく問いに対し、回答しては正答を確認して。

単語一つ一つの意味と、その接続詞を理解出来るように頭を作り替えていく。

 

「あー、これどうなってんだ……?」

 

「……ええと。 これは公式を頭に入れてこういうもの、って考えて良いかも。

 銀はそういうの覚えるの得意だもの、大丈夫よね?」

 

「いや、まぁ……小難しいこと言われても分かんないけど。

 この辺の問題解いておけば大丈夫なんだよな?」

 

「ええ、恐らくは」

 

数学の宿題に頭を抱える銀と、それを教える美森ちゃん。

 

ただ、今悩んでいるのは『公式』の存在……の始まり。

頭で考えるよりも手で覚える、と言い切ってしまえる側の彼女。

真逆に理論や解き方から身に着ける美森ちゃんからすれば真逆。

 

ただ、其処は長年の付き合いからか。

ある程度割り切って教える方向で意見を合致させている様子。

 

「ん~…………た~~」

 

良く分からない擬音を付けて。

遊んでいるのか真面目なのかは扠措いて、国語の問いを答えるそのちゃん。

()()()()()()()()()()()、ということもあってだろうか。

感覚というよりは、既に幾つかの技術を用いて回答している気がする。

 

(やっぱ神樹館行ってた側はやる気が違うわ……)

 

あの頃は自宅でも一人で。

今は自宅に異性ばかりが集まっている、何とも言えない状態で。

同じ授業で出た宿題、定期テストに対する準備という名目。

勉強しない理由というのもまた、存在しなかった。

 

(風先輩も誘ったけど、忙しいみたいで断られたし)

 

せんちゃんだけは杏さんと遠出の買い物に出掛け。

友奈は友奈で、久しぶりの親子揃っての外出中。

随分久々――――と言うには少しばかり表現が強く。

それでも何処か懐かしくさえ感じる、嘗ての友人達のみの集い。

 

「天理、どーかした?」

 

「え、何が?」

 

「いやほら、手が止まってるからさ」

 

そんな不純物を抱えて周りを見ていたからだろうか。

目線を持ち上げた銀からの指摘に、特に何でも無いと空返事を返す。

 

「大丈夫? 分からない所があれば教えるけど」

 

「今のところは。 美森ちゃんこそ、大体は理解してるんだね……」

 

敵性言語(えいご)以外は何とでもするわよ」

 

その英語を今やってるんだが。

問題を彼女へ向ければ、やや顰めた顔を此方に向ける。

 

何故其処まで敵視するのか。

一周回って関心すらするレベルでは或るのだが、その理由は未だに不明。

唯一不得意とかそういう次元に無い教科なので、俺が叩き込む事になるのだろうか。

それとも……万能の天才に近いそのちゃんか。

 

「何だかんだ天理も優秀な方だもんなぁ」

 

はぁ、と漏らす銀の目線は疲労が滲む。

もう少しやったら気分転換も兼ねて間食の時間にでもするか。

 

「流石にそのちゃんには勝てないけどね……」

 

「古文とか歴史とかが得意なら誇っていいと思うわよ?」

 

向ける視点に妬ましさが混じっていないとは言い切れない。

地道に勉強して、幾らかの教科では部分的に上回れても総合的には敵わない。

それだけの知能や知性を併せ持つ少女……それでいて教えるのもそれなりに上手いとなると。

勝てる部分を見出そうとしてしまって、自分で嫌悪する感覚がないとも言い切れない。

 

「ん~?」

 

ふにゃり、と溶けたような顔をしている天才少女。

微かに漂う色気と、苛立ちにも似た問題への文句。

それなりに親しくあるからこそ気付ける、彼女の内心から漂う言霊。

 

……いや、まあ。

色々と彼女が書く小説(最近は少女×少女とかも多い)を読んでると思うのだが。

『作者の考えを述べなさい』みたいな問いに引っ掛かってしまう感じは理解できるので。

半ば同意はしてしまうのだが。

 

「天理が園子に勝てない、って喚いてるだけだよ」

 

「勉強の方法学んだら追いつかれちゃうと思うんだけど~」

 

「それを学ぶのが難しいって話でしょ」

 

一見、普通の仲の良い転校生三人プラス一人。

けれど、その内側の関係性まではまだ誰にも見透かされてはいない筈で。

その全てを知った場合、どう思われるかを考えれば。

……俺は色々と経験を積んでいく必要性がある。

 

自らの身を護る、という意味合いでも。

彼女達を護る、という意味でも。

社会的に見て見て見ぬふりをされるくらいには、貢献を重ねる必要性がある。

 

(……彼女達から離れてくれるなら、寂しいけど仕方ないと思えるんだけどな)

 

絶対に口にできない感情。

ドス黒い独占欲、その幾らかを彼女達の親は薄々に感じている。

本来なら認められるはずもないそれを今黙っているのは、彼女達の意思があるから。

――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状態があるから。

 

そんな中でほんの少し、産まれてしまうはずだった隔意。

それは一歩先に進むことに()()()()()()そのちゃんへの感情であったはずで。

けれどそれが即座に解消されたのも……まあ、俺が身を投げだしたから。

 

『……したいなら、皆もしようか』

 

何処か静かな雰囲気の中。

その事実を明かした時、そのちゃんにだけ向けられていた視線を一気に集めた一言。

いつかは行うこと、として覚悟していること。

 

生涯を懸けて、命を懸けて守り抜くことを俺自身に誓っているからこそ。

そんな言葉を言うのは……まあ、然程覚悟がいることではなく。

寧ろそれ以降のことを考えると少し頭が痛くなること。

 

許されるはずがないことを認めさせるためにするべきこと

その為に、この小さい世界を救う砂粒になること。

 

良いのか、と言ったのは車椅子の少女。

ほろり、と涙が一滴流れたのは黒髪の少女。

少しばかりの残念さと……残りを埋め尽くす喜びを見せた金髪の少女。

 

その場にいた三人には、それで十分。

 

……そんな未来を作る為に。

 

「なら、そのちゃんの勉強方法教えてよ。 考え方でもいいけど」

 

「え~。 何かご褒美欲しいなぁ~」

 

「早速掌返すのやめよう?」

 

目の前の壁へと、少しだけ手を掛けることにする。




・重い、重くない?
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