葦原天理は巫覡である 作:氷桜
夢が叶って良かったわね、と。
自分も何処か嬉しさを隠せないように、須美が口にした。
まだちゃんと叶ったわけじゃない、と。
言い返すのに、ほんの少し苦労した。
(――――うん。
布団を横に広げて三つ。
以前の合宿の時よりも狭い部屋、だからこそ部屋全てを布団が占めて。
古い……天理が言うにはお母さんが使っていたらしい桐箪笥に端が掛かる。
そんな中で、何故かアタシは真ん中に。
良く分からない鳥の寝巻きは変わっていない園子も、ゴロゴロと転がっていて。
けれど、色々と女らしく変わったその外見が寝巻きを内側から膨らませている。
須美も、園子も。
ほんの何時間か、何日か目を離すだけでアタシなんかよりもよっぽど女の子らしくなっていく。
『勇者』としての活動で負った肌の傷は、大部分が癒えて跡も消えて。
見た目も、内心も。 少しずつ、憧れていたような『女の子』に変わっていく。
良いなぁ、と。
自然と心の中で思うことも、それなりに増えて。
殆ど変わらない――――変わっていかない、自分自身と見比べてしまう。
自由に動けない。
自由に何も出来ない。
その苦痛と、絶望と。
それらには慣れたような……諦めたような、何処かふわふわした悪い感情が浮かんでは消えて。
アタシらしくない、と跳ね除けるのに妙な精神力を使ってしまう。
こんな事……考えたくはないのに。
そうもこうも考えてしまうのは……彼奴のせい。
多分、そう。
「……でも~」
ぽつりと漏れた園子の言葉。
こういう時の此奴の言葉は、妙にアタシの胸の内を抉る。
「
それは――――まあ、うん。
考えてしまうと、その考えの途中でどうしても振り払ってしまう。
顔と、胸の中と。
後は幾つかの理由から、熱が籠もってしまう気がするから。
「…………」
「そのっち、銀が照れるからやめましょう?」
「照れてない!」
反射的に言い返すけれど、それが言葉通りでないのは二人共分かってる。
……アタシの事を、アタシ以上に知られている気がする。
嬉しさがないわけではないけれど、そういった所もモヤモヤする理由の一つ。
「……私は嬉しいけどなぁ」
「ああ、やっぱり?」
「うん。 そんな相手、選べるとも思ってなかったし~……」
ぼそり、と漏れたのは多分園子の本心の一つ。
言って貰えると思ってなかった。
それは、自分の在り方をこの年齢である程度達観してしまっているから浮かぶこと。
『勇者』でなければ、多分とっくに話は進み始めていただろうこと。
……アタシも、須美も、園子も。
多分、皆が皆ある程度決められてしまった線の上を走っていたと思う。
「だから、私は嬉しくて仕方ないけど……ミノさんは受け入れきれてないんだよ、ね?」
「……でしょうね」
「……多分なー。 嬉しい、って思うアタシがいるのも間違いないんだよ。
仲間外れにされたわけじゃない、って安心するアタシもいる。
でも……何でだろうな」
多分、こんな状態だから。
先ずありえない事。
今の彼奴の事は、アタシが一二を争うくらいには分かっているつもり。
だから、こんなふざけた冗談を口にするようなやつじゃないし。
直接言った時、明らかに恥ずかしがって照れていたのは直接目にしてる。
それでも不安が消えないのだから、根深いのだけど。
「……銀も成長してるのね」
「おいコラどういう意味だ須美」
「色々悩むくらいには考えるようになった、という意味よ?」
未だに自由に動く片手を伸ばせば。
当然のように須美の片手でそれを絡め取られ、ニコニコとした……。
昔では考えられない笑みを浮かべながら、何故か彼女は祝福を口にする。
変なことを考えていそうで、少し怖いんだけど。
「須美、なんか気持ち悪い」
思わず本音が漏れて。
「きも……っ、そういう事言うのはこの口ね?」
「いひゃいいひゃい」
笑顔のままの圧が加速し、頬を思い切り引っ張られる。
ぐいーんとそちらに引き寄せられて、同時に痛みが強く走って。
ぺしぺしと腕を叩くけれど、離すまでにちょっと時間が掛かった。
「相変わらず仲がいいよね~二人共~」
「これはアタシが一方的にやられてるだけじゃないのか……?」
楽しそうに頬を緩めている園子。
未だに痛みと熱を保ったままの頬を擦りながらに答えて。
全くもう、とか言ってる
「でも、てんくんがいるまえだとわっしーは大人しくなるし?」
「ああ、猫を被るっていうか……」
「二人共?」
二人の共通認識。
彼奴の前だと、彼奴が余りにふざけたことを言わない限りは何処か大人しげになる。
その内心とか動きとかは余り変わらず、飽く迄雰囲気だけなんだけど。
そうしているとお嬢様っぽく見えるからズルいと思う。
「そのっちだって、天理君の前だと甘えっぱなしじゃない」
「そうだよ~?」
言われっぱなしもアレなのか、須美が言い返せばそれを真正面から受け止める。
うっ、と怯んだ須美にえへへ、と笑って返せるのは十二分に強いと思うぞ。
……時折思うんだが、園子と天理って二人だけだったら本気で底無し沼に沈んでたんじゃないか?
互いが互いだけを求め続ける、みたいなやつ。
「そういえばさぁ、わっしーにミノさん」
「んー?」
「なあに?」
「『婚姻』は別として……もし結婚式やるならどんなのがいい、みたいな夢ってあったりする?」
ごろり、と更に半回転。
上下が逆転しながら、アタシ達の顔を見上げるようにしながらの質問。
多分、何となくなんだろうなぁ。
「また急ね……」
「こ~……ドレスが着てみたい、とかあるけどさ~?
どうなのかなぁ~って」
「須美はどっちでも似合いそうだけど、和服っぽいよなー」
「ミノさんは逆にドレスとか似合いそう!」
「逆ってなんだ逆って」
喧々諤々。
話題に上がるのは夢と、実現しそうな少し先の現実。
――――でも。
その相手が全員同じっていうのは。
考えもしなかったことだよなぁ、と思いつつ。
……
少しばかり、暗い夢を抱いていることに。
そんな自分の、もう一つの本心に気付かされた……夜だった。
・特に結論の出ない互いのお話。
・東郷さんは出るとこ出過ぎてるしどっちも似合いそうだけど和式に拘りそう。
・銀はゆゆゆいとかの一枚絵とか色々辿る感じドレスの方が映えそう。
・そのっちは……何故かどっちも取りそう。