葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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初期勇者部の顔触れが一通り出た、筈。


結-6

 

「……いい天気、とは言い切れないけど」

 

「丁度良かったかもしれないわね……」

 

ぼうっと隙間から空を見上げれば、やや雲が掛かった合間の晴天。

 

大きく広げられた日傘、屋根の下。

和服姿で空を見上げる俺と。

麦わら帽子に薄いケープを羽織り、薄着の肌を覆う美森ちゃん。

二人で並んで座る目の前には、雑多な物品が幾つも並んでいる。

 

五月に入って直ぐに行われるフリーマーケット。

 

ついこの間に行われた掃除の際に出た、未だに使える物品の処理。

学校側からも正式に依頼され、売れた金額を勇者部の活動に用いる物品に回す約束を交わし。

幾らかの大型の荷物を含め、売れるだけ売り切るつもりで準備をしたのは良いのだが。

()()()()()()()()()()()()()()、という部分で妙な争いになったのは想定外だった。

 

(別に誰といても待つだけなんだけどなぁ……)

 

風先輩だけは他に候補がいるから、と辞退した。

つまり残った人員が人員だった、と言い換えても良い。

呆れた表情の先で、全員が妙に気合を入れてじゃんけんしてたのが奇妙で。

風先輩も、呆れたような――――微かに面白そうな顔をしていたのが記憶に強く残っている。

 

「今度はなぁに?」

 

「え、何が?」

 

「顔に出過ぎよ、天理君」

 

ふふ、と笑いながら。

少しばかり考えごとをしていた頬へ指を立てる姿に、ほんの瞬だけ見惚れて視線を逸らす。

恐らく、その姿を見た上で小さく笑い続け。

 

通りがかる客らしき人々は、微笑ましそうにしたり羨ましそうにしたり。

或いは露骨に敵意を向けてきたりと人それぞれ。

そうした態度を見せる彼等は、隣の少女に目を惹かれているのが俺からでも分かるので。

まあ、うん。 甘んじて受け入れる他無いのだけど。

 

「……それで?」

 

客先に聞こえない程度に雑談を。

次の客番の交代まではそれなりに時間がある……話していればきっと直ぐ、と言った程の。

 

一番最初だからこそ、それなりに忙しいし準備にも手間取ったけれど。

その代わりか、待つ時間は一番短く設定されていたので。

 

「……あんなに争う必要あったのかなー、とかね」

 

多分、答えるまでずっと待っていると思う。

だからこそ、思ったことをそのままに吐き出す他ない。

 

多分――――他の誰であっても、同じことをしただろうから。

 

「……やっぱり、少しだけズレてるのね」

 

「え?」

 

「天理君と二人だから、あんなに争うのよ」

 

そんな当たり前のことを教え含めるように。

母親が子供に教え込むように。

至極当たり前のことを分からせるように。

 

ほんの少しだけ、呆れたような……それでいて嬉しそうな。

風先輩と似たような雰囲気を感じ取った。

 

「普段と違う場所で、普段と違う自分を見て欲しい。

 ……貴方だって、持ち合わせる感情だと思うけど」

 

自分の事になると起点が少しズレるのは変わらないわね、と。

そんな事を零しながら、客への対応を行っていく。

 

『これ動くんですか?』

 

『動作の確認はしてます』

 

『外見は綺麗にしていますし、内部の配線も特に問題ないのは確認しています』

 

『幾らですか?』

 

余った扇風機。

少しだけお高い革張りの椅子。

オフィスで用いられる幅広の机。

各員で持ち込まれた趣味の産物……装飾品や編みぐるみ、押し花の栞。

手製の小説に写真集。

 

それこそ持ち込まれたものは雑多で、だからこそに興味を惹かれているのは間違いなくある。

そして、番の少女が目に見えた美少女だからこそ視線を集めるというのも間違いなくある。

 

そんな少女と共に並びながら――――間に置かれた手と手が触れて。

微かに指と指を絡めながらも、そちらに目を向けないようにしながら対話を続ける。

 

こんな形に落ち着いて。

本来は進む筈もなかった少女達と交流を深めて。

そうして、共に冷たい欲望(みず)の中に沈んでいく。

 

内から溢れる感情を、互いに泡と浮かべて。

泡で埋め尽くしながらも、感情を吸い上げて膨れ上がる。

一人ではなく、二人ではなく。

数多くの――――だからこそ、膨れ上がる願いと欲望に果てはない。

 

(…………高校に上がれるかは分からんけど。 精神修養もっと重ねよう)

 

今はまだ抑えきれている。

その果てが、自分自身でも怖いからこそ。

神官の……巫覡の修練として存在してしまう行為として認めてしまえるからこそ。

俺は、自分自身を制御したい。

 

何をするにしても。

流されるのではなく――――自分の言葉で、それを告げたい。

ちっぽけな誇りくらいは、未だに胸の奥で鈍色に輝いているから。

 

「お疲れ様。 客足は……中々?」

 

幾人か並んでいた客が掃け。

多少の物品が買い取られていった最後に、私服姿の風先輩が立っている。

 

春らしい明るい色合いに、動きやすそうな軽装を重ねた形。

制服だと分かりにくいけれど……やっぱり先輩は感性が鋭い方なんだろうな。

 

「あ、はい。 それなりに売れはしました」

 

「まあ全部売れるとは思ってないけど……趣味品はそこそこ売れてるのね。 へー」

 

食品は売れない、というのがこの場所の規則。

だからこそ少し残念そうにしながら、商品を出すことは諦めたのだけど。

 

「先輩のが売れるようだったら多分速攻で売り切れてたと思いますけどねー」

 

「お世辞は良いのよお世辞は」

 

「この人が作りました! みたいな写真込みなら」

 

「生産者表示がいるって何?」

 

妙に軽く受け答えができる人。

だから指に軽く爪が立てられ、不機嫌であることを彼女は示しながら。

少しだけ後回しにして――――気になっていたことを口にした。

 

「安心性は担保出来そうですからね。

 それで風先輩、その……後ろの子が?」

 

ちらちらと顔を覗かせる、似た雰囲気を持つ小さい女の子。

風先輩の背中から離れようとしないところから。

そして、以前に少しだけ名前を聞いたからこそ思い当たった相手。

 

「ああ……そうね。 紹介しとこうかしら」

 

ほら、と背中から追いやられて。

オドオドとした小動物然とした態度をそのままに、こちらへ目線を向けた子。

 

「私の妹。 犬吠埼樹。 ……丁度アンタ達の一個下、来年の後輩ね」

 

あんまり虐めないであげてよ、と。

冗談交じりに口にする先輩に、苦笑いを浮かべながら。

 

「葦原天理です。 君の一個上かな」

 

「東郷美森です。 ……宜しくね、樹ちゃん」

 

交互に挨拶と――――微かな頷き。

 

そして、口を開いて。

聞こえてきた声色は、何処か引き込まれるような音色を奏で。

 

「犬吠埼樹、です。 ……宜しくお願いします、先輩方」

 

顔から目線を下げて。

ちらり、と。

向けた目の先。

 

――――俺達の間の手に気付いたように。

かぁ、と顔色を朱に染めたのが、印象的だった。

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