葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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結-8

 

「……ああ、単純な理由ですよ。

 巫女として席を置いているなら伝わる言葉……みたいなものです」

 

いつもと同じように、漂う香り。

緑茶を前にしながら、あっさりと亜耶は言葉を告げた。

 

「え、そうなの?」

 

良く分からない事情を抱えたまま。

少しだけ時間が空き、行き来する時間が生まれたのもあって顔を出しにやってきた。

 

唯一離れた場所に住まう()()へ、贈り物を届けるついでに聞いてみれば。

至極簡単に答えが見つかり少し驚く。

 

「……でも、本当に言われたんですか?」

 

「え、何その意味深な言葉」

 

ただ、ジーッと。

頬を軽く膨らませながら口にする言葉は、少しばかり物騒で。

次いでそうしている顔を見て、伸ばしていた手の甲へと手を重ねて小さく笑う。

 

ぅ、と目線を逸らす顔は何時ぞや見たような雰囲気で。

あの時、あの夜に言い放った年下の少女とは印象が大きく掛け離れている。

ただ、思い出そうとすれば浮かび上がってしまう唇の感触と微かな甘さ。

目を細めながら見てみれば、かぁっと顔を赤く染めるのが愛おしくさえ思えていた。

 

(……こうしてみると、俺も単純だよなぁ)

 

露骨な態度を示してくれる。

意思と、心とを一度交わした相手だからか。

無論周囲を警戒しながらではあるが、心の内のほんの少しを広げるのに抵抗はない。

 

好意。

独占欲。

欲望。

 

俺が抱くものと、彼女が描くもの。

それに多少の差はあったとしても、突き詰めてしまえば――――多分、似たようなもので。

だからこそ、こうして共に過ごしていても妙な感覚は湧き上がらない。

 

いつかは、彼女も。

いつかは、私も。

 

似たように思う、()()()()()()()()()()()

それと確実に出会えるのは……夏になってしまうのだろうか。

 

「……ずっと昔……上里ひなた様の周辺の方が残したとされる言葉の一つです」

 

僅かな無言と、手から伝わる体温を感じる合間の後。

吐息に交えて吐き出される、声として辛うじて拾える大きさの囁き声。

 

「……上里の?」

 

「はい」

 

何方かと言えば、俗語に近いのでしょうか。

そのままの意味もありますが、()()()()として残されている……とされる言葉です。

そんな言葉を重ねながら、その意味を口にする。

 

「元々、乃木様と上里様は勇者と巫女として共に立つ存在だった。

 何方かが脚を折れば、それを支え合う戦友にして相棒……()()()()()だった。

 ――――だから。 改めてそれを口にする時は二つの意味を持ちます」

 

嘗て、その二人と肩を並べて戦った勇者達がいる。

そして、その人物達と俺達は顔見知りで、友人で。

或いは()()()()()だからこそ。

その言葉、その逸話にほんの少しの誇張が混じっているのを理解しながら。

 

「巨大な壁を超える際の協力を宣言する言葉……従属ではなく、肩を並べる、という意味」

 

「……もう一つは?」

 

「……あの、言葉通りの意味を深く掘り下げた言葉……です」

 

深く掘り下げる。

顔が更に赤くなった少女から察するに。

()()()……異性を傍に置く、置いて欲しい?

 

「いやいや流石にそれはないだろ」

 

「で、ですよね……」

 

何しろ唐突過ぎる。

そんな言葉を急に言ったとしても、普通だったら嘘と考えて無視する。

 

そんな当たり前のことを、大赦というシステムを組み上げた少女が軽々しく口にするか?

 

(……穿ち過ぎ、考え過ぎの可能性もあるけどちょっと考えをひっくり返す)

 

唐突にそんな事を言ったのではなく。

()()()()()()()()()()()()()()()()()、としたらどうだ?

 

思考に没頭し始めた姿を、少しだけ首を傾げることで疑問に思っていることを表現する。

 

そうした一つ一つの、何処か小動物を思わせる姿に和みながら。

脳裏の考えを出来る限り早回しし、目の前の少女と共有し。

自由な時間を作り出さねばならない。

 

(……異性を傍に置く。 単純に読み取るなら結婚、婚姻……側室、或いはまあ色々あるけど。

 他の存在と結び付く契約を結ぶ、ってことだよな)

 

大分仰々しく言っている事は否めないが。

神樹サマに誓う以上、名家という名前を背負うのならばそれ相応の重みを持っている。

それを認識してか知らずかは分からないが、『ヒナちゃん』が口にしたというのなら。

 

(つまり、『契約』こそが重要と言っているのなら。

 現在の……封じられた、最優の勇者は天と地、何方の属性も持つと明言されてたよな。

 その暴走を封じるために俺かワカの配下に置く、って話)

 

その暴走を封じるために……契約?

つまり――――なんだ。

それに近い行動を取れるように?

 

ただ、そうなると『ヒナちゃん』も望んだのが気になる。

彼女も俺と結び付けば、恐らくは俺を経由する力を利用できるようになるし。

真逆に制御して貰う、ということも容易になる。

 

……何方にしろ、『それを示す道具』を用意して損は無い、か。

購入した、幾つかの装飾品のような。

 

(元々ワカとヒメの計画だと巫が数人必要……って話で。

 ――――最終的に、そうすることが必要なのなら)

 

いやいや、と首を振る。

それだけの為に尊厳を貶めたくはない。

せめて口にするなら……何かしらの付き合いが欲しい、と思ってしまうのは贅沢だろうか。

 

そんな事を考えていれば、手に微かな振動を感じた。

目線を持ち上げれば、手の甲に文字を描く少女の姿。

 

『相談があるなら、乗らせて下さいね』

 

ゆっくりと、ひらがなで描かれる言葉。

口には出来ない、けれど此方を慮ってくれる言葉。

 

「…………」

 

そうだな、と思えば――――急に肩の力が抜けた。

 

迷っていて、しなければいけないことに囚われていて。

其処から、ほんの少しだけ思考を逸らすことが出来た。

 

『ありがとう』

 

そんな、描いていた彼女と手を上下にひっくり返し。

たった五文字の礼を書けば。

 

擽ったそうにしながら、小さく口元を笑みへと変えた。

 

――――何だろう。

彼女といると、少しだけ。

気が楽になるのは……勘違いではない。

 

今は、そんな事を思いながら。

黙って、互いに言葉を描く。

 

お礼。

好意。

したいこと。

受け入れたいこと。

ずっと一緒と、愛を告げて。

ずっと一緒と、恋を捧げる。

 

そんな光景を見ている相手は――――誰も、居らずに。

 




・多分ゆゆゆい編とかでひなた様とか若葉様はイチャイチャすると思います。
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