葦原天理は巫覡である 作:氷桜
一番書けるのはゆゆゆいかゆゆゆ終了後になるんじゃろうか。
部屋の前、入口の前。
呼び鈴を鳴らせば、奥の方から走るような音がパタパタと聞こえる。
彼女にしては珍しい、とも感じる慌て具合。
普段だったら戸の前で来る事を読んでいたように待機さえしているのに。
若干訝しみながら待つこと数分。
「……ごっ、ごめんね……?」
がちゃり、と開けた彼女は何処か湯気が目立って見えた。
頬、顔も熱されたように赤く染まり。
上着も羽織ったまま、髪も湿って水分が残り。
何よりも、普段よりも更に隙に見える態度を見せている。
「……シャワーでも浴びてた?」
「……時計が止まってることに気付かなかったんよ」
……ああ、まだ余裕があると思って汗でも流してたのか。
そのちゃんにしては珍しいミスだし、目に見えないところでやっぱり混乱してるのか。
まあ、取り敢えず玄関でする話でもない。
「取り敢えず……玄関先だけ入れてくれる? ちゃんと体拭いてきたほうが良いよ」
そうすれば入り口で背を向けて携帯端末でも弄ってるから。
直視しようにも出来ない、というのをどうにか分かって欲しい。
唯でさえ朝からの出来事で落ち着かないし、明日のこともあるというのに。
こんな格好を見てしまえは眼福通り越して目の毒になってしまう。
「……そう?」
ただ、その表情は恥ずかしさ――――だけにも見えず。
うん、と努めて真顔で返すことで奥に追い遣ることに成功する。
(……いや、何だったんだ?)
一仕事終えたような、奇妙な達成感の中。
板張りの通路に座り込み、玄関口を正面として待ち始める。
一応、今日の目的……と言うよりはこの連休の目的か。
今日今この時を起点として、明後日一杯まで……つまりは連休最終日前日まで。
『婚姻』相手に費やす、ということで見解の一致を得ている。
……まあ、その分の影響みたいなもので。
嬉しさと、気恥ずかしさと、それから混乱と。
自宅以外での彼女との数日、という事象に対しては……多分。
神樹サマの中で経験しなければ、もっと混乱していた。
そういう意味でもたかしーに感謝の念を祈りつつ。
私怒っています、という態度を取っているであろう神と巫女を思い返してしまって顔が引き攣る。
……一体、何処まで広がってしまうのか。
とっととこの見立て……儀式形態を解除したいが、その時にはもう遅そうで嫌な予感がする。
「お、お待たせ~?」
ぺた、ぺた。
再びに鳴った裸足のような音に後ろを向けば。
白いワンピースのような姿に肩に薄手のケープ。
つい先日に、美森ちゃんが羽織っていたものと良く似た……色違いの掛物。
そんな姿に身を包み、少しだけ恥ずかしそうにしている金の少女の姿。
ふわりと漂うのは風呂に入ったからか、香水か。
それとも少女自身から漂う甘い何かなのか。
そんな事を聞くわけにも行かず、微かに見惚れていた自分の自我を即座に取り戻す。
「ど、どぅ……?」
「いや……ごめん、上手い言葉が見つからないけど。 ……凄い綺麗に見える」
「ほんと~?」
同じ部屋の中……と言うより家の中。
そんな中で繰り広げられる会話とも思えないのだが。
普段とも少しだけ違う、安心したような声と嬉しそうな表情。
全く変わらない相手の筈なのに、妙に緊張させられるのは何故だろう。
「……その羽織ってるの、ひょっとしてお揃いで買ったりした?」
「あ、うん。 ミノさんと~、私と~、後わっしーにゆーゆで四人分!」
「せんちゃんは買わなかったのか……」
「私には似合わないから、って言ってたかなぁ?」
俺が席を外している時、外に出ている時。
それか純粋に留守番している時も含むけれど。
嘗ての神樹館組の三人と、せんちゃんは良く一緒に出かけていたりした。
気性が合うのか、面倒見が良いというのか。
部屋を覗けば、四人で揃えた小物が飾られていたりするくらいには親しく付き合っている相手。
中学校に入学してからはその仲間に友奈も加わり、気付けば五人組と言うのが近い気もする。
当然に、そんな形で付き合っていれば彼方此方で噂にもなる。
勇者部の美少女達、とか。
人に寄り添ってくれる少女達、とか。
言われる言い方の殆どは好意的な内容で。
……だからこそ、俺を見る目が冷たさを交えるのも良く分かる話である。
俺自身も逆の立場ならそんな目をしていた自信がある。
「他の誰かから見せてもらったの?」
「あー、うん。 こないだ美森ちゃんが羽織ってるの見てさ」
「ぁ~……わっしーかぁ」
あの時?と口にしたのはフリーマーケット。
そうそう、と返せば何か迷った様子を見せている。
……先に見てしまったのがそんなに問題だったのだろうか。
「……
ほんの少しだけ、感情が消えたような。
普段装っている温厚な少女としての仮面が掻き消え。
内側の、『女』としての声が聞こえた気がした。
「え、何が?」
「何でも~」
自然と彼女へ聞き返せば。
直ぐに取り繕うように拒否する言霊。
「……まあ、うん。 深くは聞かないけどさ」
触れて欲しく無さそうな雰囲気を纏い。
明らかに拒絶の態度を見せながら、それでいて目はそれだけを語らない。
相変わらずだなぁ、と内心で浮かぶ感情を飲み干しながら告げる言葉。
「
はっきり告げる。
冗談めかしたりする言葉よりも、率直に告げられることを望む彼女だからこそ。
そして、そんな『女』に見初められた『男』として。
「…………///」
一拍の合間。
肩に巻いたケープがはらりと落ちた。
「……うん」
微かに頷き、言葉を発しなくなったのを見て少しだけ落ち着きを見せる。
個人的に……其処まで大した事をした覚えも無いけれど。
彼女が、俺に対して幻想を抱き続けてくれる限り。
「今日はどうするつもりで、お姫様」
そんな言葉を――――投げ続けようと、決めているから。
返事は、同じように数拍の後。
消え行くような、夢心地のような声。
食べて、貰えませんか。
勿論。
そんな会話を経て。
漸く、部屋の中へと踏み込むことを許された。
――――カッコつけ過ぎ、だよなぁ。