葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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手料理回なのになんか異様な重みがありますねそのっち。
今週いっぱいは多分朝規定時間が主体になると思います。
夜の不定時間はちょっと出来るか分からない。


結-11

 

ぐぅ、という小さく鳴った腹の音。

時計を見れば、もうすぐ十二時を指し示そうとしていた。

 

「~♪」

 

余り聞き慣れない音程、聞き慣れない曲。

先程までの衣装の上に、例の謎生物の意匠が描かれた前掛け(エプロン)を纏い。

此方に背を向けながら何かに熱を通している。

 

「手伝おうか?」

 

「ううん。 楽しみにしてて~」

 

……そう言われてしまうと、少しばかり居心地が悪いのだが。

いつもの席、と呼ぶのが一番近いソファーの左側に座りながら。

丁度台所が見える位置、というのもあって彼女の揺れる背中を追っている。

 

(……そのちゃんの手料理って、()()()()()()()()()()()()だもんなぁ)

 

実際問題、美少女二人と同棲しているのと同じ状況ではあるのだが。

案外、”手料理”と呼べる料理を食べる機会はそう多くはない。

 

銀は力を込めること自体がリハビリと同じではあるが誰かが付いていなければ怖いし。

せんちゃんは料理というのを一から学んでいる状況。

故に二人で一人、と数えるのが現状は正しく。

料理は寧ろ俺が纏めて作り、何かあった時は小分けにした其れ等を温めれば良いようにしている。

 

代わりに(俺が二人の服を洗ったりするのが辛いというのもあるのだが)洗濯・掃除は任せていて。

何方かに負担が掛かり切っているという状況は避けられてはいる。

なので、恐らく女子の手料理……と言って最初に浮かぶのは二人組と美森ちゃん。

 

そのちゃんや友奈も普通に出来ることは知っているし、弁当のおかずを交換したりはあるものの。

直接的に『料理』を味わう機会はそんなに無い。

 

(タマ先輩はアウトドアとかそっちよりだからなー)

 

一度だけ外でしていた燻製のウィンナーを分けて貰った。

店で並んでいる商品とはまた少し違う特殊な香りが炊き込められた品。

たまに食べるにはちょうどいい贅沢品へと格上げされた、という感じが近いか。

 

杏さんのは未だに経験がなく。

ただ多少は出来そうだなぁ……という印象だけは残っている。

 

「後少しだから~」

 

「はーい」

 

特にテレビも何も付いていない。

と言うより付けてはいけない。

恐らく、そうしたが最後。

一気に機嫌が落ち込むだろう、というのは直感的に感じていたこと。

 

無論、それを求めているわけではなく。

こうして二人でいるのだから自分を優先して欲しい、という気持ちも分かるし。

恐らくは――――俺も彼女の抱いている気持ちの一部は共有している。

 

こうして見ているだけで少しだけ心が弾む。

待ち遠しい、という気持ちを共有する。

多数を抱えながら/抱えられながら、それでも今はたった一人を見詰め続ける。

 

俺が選んだのか。

俺が絡め取られたのか。

 

多分、その答えを出すことは出来ず。

()()、というたった一言で片付いてしまうだろうことだから。

 

「お」

 

漂い始めたのはやや甘い香り。

煮物――――だろうか。

それを掬い、無地のように見える深皿二枚に分け入れていく。

 

(……あれ、こないだ皆で買ったやつか)

 

誰かが来ても良いように、各々の家にはそれなりの数の食器を予備として用意している。

 

特に多く来る相手へは専用の食器とかも用意したりしたいらしいが。

そんな相手は今のところ俺の家での少女達くらい。

誰かの家で、ということは今まで殆どなかった。

 

理由は単純……そのちゃんや杏さん・タマ先輩を除けば。

つまり約半数の家は両親と共に暮らしている家だから。

 

普通にお呼ばれされて遊んで帰る、ということはそれなりにあるものの。

特に、東郷家の父親からはあまり良く見られていないだろうな、というのはどうにも感じている。

逆に母親とはそれなりに仲良く出来ているのだから、良く分からないところではある。

 

(美森と仲良くしてやってね、ってどういう意味なんだ……)

 

宜しくしてやってくれ、とか巫山戯たことを言われなくてよかったとは思う。

鷲尾の両親とは最近を含め会う回数も増えてきて、人柄も何となく理解できてきているけど。

未だに良く分からないよなぁ……と頭を巡る変な思考を端の方に追い遣った。

 

「出来たよ~」

 

「待ってた」

 

「待たせました」

 

えっへん、と露骨に態度を見せながら。

近付いたことで更に増したその香りを近付け、テーブルに並べる。

白米、澄まし汁に近い汁物に……。

 

「肉じゃが?」

 

じゃがいも、人参、細切れ肉に薄切の玉葱。

結んだような白滝が混じっているのが少しだけ特徴的。

 

「苦手…………とか?」

 

「ああいや、ちょっと意外だっただけ」

 

少しだけ不安そうな表情。

何というか、ほわほわした仮面の裏側を知れば知る程に『普通の女の子』としての認識が強まる。

そして同時に、その裏側に隠れた感情を端々で感じて。

お互いに還流する……妙な間柄が生まれているのは否定しない。

 

「確かに結構簡単に作れるけど、その分味の微調整が難しい料理だと思ってるからさ」

 

「私には難しいってこと~?」

 

()()()、とかそういうアレかなぁって」

 

基本的な味は醤油・料理酒・砂糖・みりん・だし。

手抜きで混ぜるなら麺つゆなんかでも代用できるとされる料理。

ただ、相応に手を掛けるなら焦げないように長時間火を通す必要もあるし。

一流の店とかだと、それぞれの煮方を調節するために別の鍋で煮続けることもあるという奥深い料理。

 

だからこそ、俺も『俺好み』の大分適当な作り方では覚えているけれど……味は濃いめだし。

恐らくは両親が作っていただろう料理の味も大分薄れ、完全に断絶しているような状態。

故に、何となくではあるが……家で代々継いでいくような料理の一種という認識が強かった。

 

「ぁ~~~……うん、そういう感じ……なの、かなぁ?」

 

ただ、その返事は何とも言えず。

互いに向き合って座り、手を合わせてから。

食べる前にじっと皿の上を眺めていた。

 

「曖昧だね」

 

「お母さんから習った、っていうよりお手伝いさんに教えて貰ったから~」

 

「あー……そっか、そういう立場とも違うか」

 

確かに自分で作る、というのは余り無いか。

やはり名家の中だと趣味的な感じで作るかどうかくらいなんだろうか。

何となく、男だと手料理を作って貰って喜ばないイメージはないけれど。

 

「……そ、それで……」

 

ぷるぷる、と手を震わせながら。

自分の皿の上からじゃがいもを挟み、此方に向けて手を伸ばしている。

 

それ以上には何も言わず。

分かってくれるよね、と言いたげな雰囲気の中。

身体を起こし、迷うこと無くそれを口の中に入れる。

 

「ぁ」

 

多分、少しだけ漏れてしまった言葉に近いと思う。

それでも視線は箸の先へと向けられていて。

どうだろう、と()()()()()ようにさえ思えた。

 

ほくほく、と口の中で崩れる感じ。

舌の中で甘さが溶け、味が染みている部分とそうでない部分が両立している。

……確かに、こればっかりは達人から教わったと呼ぶに相応しいと思う。

 

「…………おいひい」

 

口の中身を飲み込んで。

口に手を当てながら、そんな言葉を吐き出せば。

大きく、安心したような表情を見せる。

 

「じゃ、お返し」

 

その返礼。

食べさせ合う、というのも――――まあ恋人らしいと言えばそうだろう。

 

絶対に学校では出来ないこと。

でも、二人でならば出来ること。

 

自分の皿の上からじゃがいもを挟み、彼女へ向ければ。

迷うこと無く、それを口に含んで……箸をゆっくりと後ろへ引いた。

 

微かに延びる、白い線。

直ぐに切れて微かに残る、その痕。

 

一切気にせず、自分の眼の前のものに手を付けようとすれば。

 

「お代わりもあるよ」

 

そんな言葉が、頭上から聞こえた。

 

だから、と。

再びに――――同じように、箸が伸び。

何度も、何度も。

同じことを、繰り返した。

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