葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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結-12

 

ご飯の食べさせ合い。

 

その後、少しだけゆっくりして。

二人で外に出て、夕ご飯の食材を探したり。

気に入った、お揃いのアクセサリーを見つけて買ったり。

……明日の予行演習のように、付けさせあったり。

 

そんな、ずっと昔だったら夢のような出来事が一日に凝縮されていた。

想像だけで終わってしまうはずだったこと。

……もしかすれば、想像さえも出来なかったこと。

 

(……楽しいなぁ)

 

昔だったら感じなかったかもしれない感情を思い浮かべながら。

拳一つ分離れた、彼の腕へと寄り添って帰路を進む。

 

普段だったら既に別れている場所。

でも、今日は彼も一緒にいる。

 

――――それだけの差なのに、途方もなく嬉しさが滲み出てくる。

 

えへへ、と声が漏れるのが分かり。

普段なら戒められるのに。

周りのみんなに合わせて取り繕えるのに。

彼と二人だけだと、そうした行動も何処かに消えてしまう。

 

(……これも、私だからなのかなぁ)

 

浮かぶ、幾つもの思い出。

浮かぶ、幾つもの出来事。

 

初めて出会ったイネスのこともそう。

秘密を打ち明けあった、月の夜もそう。

てんくんから告白された……あの夏祭りの日だってそう。

 

ミノさんとわっしーと出会った初めての日もそう。

初めて、バーテックスを撃退した時もそう。

ミノさんが大怪我を負って、てんくんの親戚を殺(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)時もそう。

――――本来失うはずだったモノを、護ってくれた時だってそう。

 

辛い思い出のほうが多くて。

楽しい思い出は直ぐに消えてしまうのに。

 

それらを、教えてしまったのは……大好きな親友達と。

少しだけ違った『大好き』を抱く、私の旦(・)那(・)様(・)。

 

(そんな事、恥ずかしくて言えないけど……)

 

気付けば目で追い掛けている。

気付けば声を掛けている。

 

出来れば……ずっと、一緒にいて欲しい。

 

こんな感情を教えてくれた、彼だから。

こんな感情を教えてしまった、彼だから。

こんな、女(・)ら(・)し(・)い(・)執着と呼ぶに相応しい想いを煮詰めてくれた彼だから。

 

(……おっと、いけないいけない~)

 

不思議がって私を見る目は、いつにも増して澄んでいるように見える。

 

何でも無いよ~と告げながら、ついでとばかりに腕に抱き着いて。

頬を赤く染めている横顔を見て、少しだけ心の内側が暖かくなる。

 

決して男らしい、とは言えない何処か童顔の彼の表情。

 

ちゃんとした理髪店で切っているわけではないらしい、ある程度雑に切られた後ろ髪。

最初に会ったときより白髪の量も増えていて。

その内、全てが白く染まってしまうんじゃないかなんて皆で話題にする髪の色。

 

幾つも幾つも特徴的な見た目を揃えているのに。

何処か目立たず、他の人の中に溶け込んでいるのは……多分だけど。

誰かが見ていなければ、そ(・)う(・)し(・)て(・)消(・)え(・)て(・)し(・)ま(・)い(・)か(・)ね(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)なのかも知れない。

 

少し前、ミノさんの部屋でのお泊まり会の時。

てんくんが聞いていないのを確認した上で、伝えておきたいことがあるって。

わっしーが大事そうな顔で切り出したことを思い出す。

 

『絶対に、天理君には伝えないで』

 

そんな言葉から始まった、私達への秘密の話。

 

今のてんくんは、分かりやすく言ってしまえば魂が酷く抜けやすい状態が続いているらしい。

その始まりは、多分私達の代わりになった時で。

そして今でも続く……勇者と巫女を繋ぐ糸、花束の根幹として在り続けているから。

 

御先祖様、ずっと昔の……始まりの勇者様達。

ちーちゃんやあんずん、タマ坊みたいな。

……ああ、それに私の知らないところでアーヤとかもだっけ。

 

彼女達と繋がることで、神樹様の擬似的な存在としての強度が強くなって。

その分、向こうの世界に引っ張られやすく……繋がりやすくなってしまっているらしい。

 

だから、此方の世界に残すための杭がいる。

だから、此方の世界から離さない為の錨がいる。

 

それが今の私達が出来ることで。

そして、肉体を取り戻した……今の世界に戻ってきた最初の勇者様達の出来ることだと。

 

『つまり、何をすれば良いんだ?』

 

ミノさんは、極当たり前のように何でもするつもりでいた。

そういうところは昔から格好良くて――――私には、出来ないこと。

 

『何かをする、って考えを先ず取り払って』

 

わっしーは、伝え聞いたことを噛み砕いて説明してくれた。

巫女としての力……勇者としての力。

てんくんを手助けできる、とっても近い位置にいる女の子。

――――私には、出来ないこと。

 

『此方に残りたい、って思わせれば良いのかな~?』

 

じくじくと痛む心の内側を感じながら。

努めて、私はそんな言葉を口にしていた。

 

『……恐らく、そう。 起点は数と想い、とは言っていたから』

 

だから、こうしている。

だから、絶(・)対(・)に(・)離(・)さ(・)な(・)い(・)。

多分、私達が共通して思っているのはこんな事。

 

多分。

私達は、他の二人の……自分の持っていないものを羨ましいと思ってしまっている。

 

其処を尊重して。

凄い、と思うと同時に。

何で私は持っていないのだろう、と。

自分を責め、何処かで嫉妬してしまっている。

 

とても、『勇者』と呼ぶには相応しくない考え方で。

とても、『人間』と呼ぶに相応しすぎる考え方。

 

――――決して、口にはしないけど。

薄々と、思っていること。

 

そして、それを気付かせてしまったわる~い男の子。

少しだけ離れていたところから見ていた筈の目線から、人の目線へと引き摺り落とした男の子。

 

知らなければ、こんなことで迷わないで済んだのに。

知ってしまったから、私達は……ずっと迷っている。

 

ねえ、と隣の男の子に声を掛ける。

ん、と軽く返す彼は……多分、私達の悩みには気付いていないと思う。

 

ずっと。

死ぬまで。

死んでも。

 

――――変(・)え(・)て(・)く(・)れ(・)た(・)、彼からは決して離れない。

 

そんな、薄ら暗い心の内を秘めながら。

 

ずっと、一緒だよ。

表面上は、普通のことを口にした。




・『勇者』の共有財産。

・この二次創作の裏テーマの一つ、『勇者を人間へと引き戻す』話。
・特殊過ぎる精神、自己犠牲を真っ先に選ぶ心。
・その前に、『人』として大事なものを抱かせた上で選ばせる。

・尚、そうしたやつはホイホイ自分から死にに行くものとする。
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