葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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あんまり言う機会がないので此処で。
評価等々有難う御座います~。


結-13

 

ころん、と横になりながら。

片手の甲で目を覆い、小さく息を吐いて細かい雑念を消し去っていく。

 

(……ううん。 以前もやったけど)

 

最近身に付けてしまった精神の安定方法の一つ。

意識してやることで、脳内を一度真っ更に出来る――――と思っている。

のだが、寧ろ雑念は増していく一方。

 

(今日も望まれるとは……)

 

本来なら、普段座っているソファーを借りて眠るくらいのつもりだった。

 

だが、実際にこの場に立ってみれば。

彼女の私室に置かれた、やや広めの布団の上。

互いに顔を向け合わせながら其処で眠る事になっている。

 

「ベッドは……何でか良く分からないけど、嫌なんよ~」

 

そんな言葉を零しながら。

ごろごろ、と何が楽しいのか回りながら此方に触れるかどうかで止まる。

 

……実際、こうして同室で眠ること。

或いは共に顔を見合わせながら近くで寝ることも、近年を考えれば少しずつ増えている。

出来れば増えないほうが正常なんだろうなぁ、と考えないようにしているのだが。

それは考えからの逃避に他成らない。

 

「…………ん?」

 

目と目が合う。

呼吸のリズムが噛み合う。

そ(・)れ(・)だ(・)け(・)で小さく笑う少女に、自然と引き込まれていく。

 

眠る時。

気付くと彼女とこうする回数が多いのは……何か妙な縁でもあるのだろうか。

 

美森ちゃんと、二人で活動する時のように。

銀と、自宅で日常を過ごす時のように。

そのちゃんとは、眠る時での何かの繋がりが。

 

「……何でも無いよ」

 

「そう……?」

 

未だ、普段眠る時間までは相応に猶予がある。

 

一度、背を向けて無理に眠ろうとはしたけれど。

両足を絡み付かれてまで、背中にぴたりと張り付かれた時の冷や汗を思い出したくはない。

故に、何方かに眠気が舞い降りるまではこうするしか無い。

 

「なんだか、懐かしいね~」

 

「……何が?」

 

「初めて、こうやって寝た時のこと」

 

思い出(フラッシュバック)したのは、彼女達に頭を下げたあの時。

忘れてはいけない、けれど思い出したくはない出来事の後であり前。

全員を抱く羽目になった、あの夜から朝に掛けて。

 

……今時分でなくてよかった、と思うのは多分早計。

 

(実際、あの時点で女の子らしかったのは間違いなかったもんなぁ)

 

一人だけが突出して、という差にも似た部分はあったけれど。

それでも半年、一年。

初めて……銀に紹介された時から考えれば、互いに成長を果たした。

 

成長することが出来た。

 

そんな、普通であれば当たり前のことなのに。

背負う二つの使命が、それを当たり前とさせてくれない。

 

しなければいけない。

それはこの世界……箱庭で生きる以上に必須のこと。

 

護らなければならない。

最も適正を持つ少女達に依って、この世界は維持され続けている。

 

「……そうだね。 なんだか随分前な気もする」

 

「お爺ちゃんじゃないんだから~」

 

「それこそお婆ちゃんでもないでしょ」

 

軽口を叩きながら、少しばかりの暗闇を湛える瞳の奥と光を交わす。

 

『そうあろう』とする少女の奥。

『そうなってしまう』……滲み出た、女の子としての彼女と対話を果たす。

 

「……お婆ちゃんになっても、こ(・)う(・)い(・)う(・)事(・)できるのかなぁ?」

 

「それは……どういう意味で?」

 

「どういう意味だと思う~?」

 

くすくす笑う少女。

 

もし、明日『お役目』が再開すれば。

もし、明日『眠る初代』の沈静化が失敗すれば。

目の前の、大事な少女は二度と掻き消えてしまうかも知れない。

 

世界を護る役割の、『勇者』達。

――――彼(・)女(・)達(・)は(・)、(・)誰(・)に(・)護(・)ら(・)れ(・)る(・)べ(・)き(・)な(・)の(・)か(・)?

 

大赦ではない。

あの組織は『世界を護る』事のみを考えている。

また……亜耶から聞いた話をそのまま受け取るなら、たかしーを利用するような動きもあるという。

そんな場所に――元々信用など無かったと言えばそれまでだが――頼るつもりはない。

 

人々ではない。

日常を過ごす上で、精神を護る盾にはなるかも知れない。

けれどそれは同時に『後ろに通せば失う』事を意味する、護られる側。

意識しようとも、せずとも……既に二度犠牲を出している以上。

彼女達はその身を呈して犠牲となる道を歩む筈だ。

 

(……そうなんだよな。 誰(・)も(・)い(・)な(・)い(・)の(・)が(・)問(・)題(・)な(・)ん(・)だ(・)よ(・)な(・))

 

逃げ道など無い。

既に最後、と定められている以上。

それ以外に手段を持たない以上。

神樹サマという、神が見定めた贄である以上――――その試練を超える他に道はない。

 

だから……せめて。

俺は、彼(・)女(・)た(・)ち(・)の(・)隣(・)に(・)有(・)り(・)た(・)い(・)。

 

いつでも。

いつだって。

その身を、心を護りたい。

 

結局……やりたいことは、彼女達と何ら変わらないのだ。

 

「……ずっと、傍にいるってこと?」

 

「半分だけ正解~」

 

「もう半分は?」

 

微かな笑み。

ただ続ける会話のみを楽しむ。

手を伸ばせば、胸の内に抱えてしまえる程の近さの相手。

 

その距離を零にするか無限にするか。

それは……お互いの心持ち一つで。

 

「……わっしーも、ミノさんも……皆一緒に。

 それもそうだけど――――」

 

一息、間が空いた。

 

そのちゃんにしては珍しく、戸惑っているように。

変だと思われないか、心配するような上目遣いへと変わり。

小さく、ほんの少し頷くことでそれへの答えとする。

 

……俺自身、相応に重(・)い(・)感情を持っているのは分かってる。

 

嫉妬深い。

独占欲。

言い出してしまえば、きっとそれは留まることを知らない。

 

だからこそ。

同じような感情を、持ってくれるのなら。

嬉(・)し(・)く(・)思(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)のもまた、今の変わってしまった俺の本心故に。

 

「…………乃木家、って括りじゃなくてね」

 

「うん」

 

ぼそり、と漏れた言霊。

 

「私の……私の、我儘でね」

 

「うん」

 

妙に湿ったような……その瞳に映るのは。

 

「――――いつか。 証(・)が(・)欲(・)し(・)い(・)な(・)」

 

『俺』という個だったのか。

それとも。

知ってしまった……欲張りな女の子としての、夢其の物だったのか。

 

「…………いつか、ね」

 

「…………お婆ちゃんになる前に、ね」

 

問い掛けることは出来ず。

明日の――――封じられた少女を解放する為に。

 

互いに手を取り。

足を絡まれて。

心臓の音が聞こえる程の、密着の中で。

不思議と――――安心しながら、目を閉じた。




・一番抑えられないのは多分そのっち。
・何もなければ真っ先に切り離されると……自分自身で分かっているから。
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