葦原天理は巫覡である 作:氷桜
評価等々有難う御座います~。
ころん、と横になりながら。
片手の甲で目を覆い、小さく息を吐いて細かい雑念を消し去っていく。
(……ううん。 以前もやったけど)
最近身に付けてしまった精神の安定方法の一つ。
意識してやることで、脳内を一度真っ更に出来る――――と思っている。
のだが、寧ろ雑念は増していく一方。
(今日も望まれるとは……)
本来なら、普段座っているソファーを借りて眠るくらいのつもりだった。
だが、実際にこの場に立ってみれば。
彼女の私室に置かれた、やや広めの布団の上。
互いに顔を向け合わせながら其処で眠る事になっている。
「ベッドは……何でか良く分からないけど、嫌なんよ~」
そんな言葉を零しながら。
ごろごろ、と何が楽しいのか回りながら此方に触れるかどうかで止まる。
……実際、こうして同室で眠ること。
或いは共に顔を見合わせながら近くで寝ることも、近年を考えれば少しずつ増えている。
出来れば増えないほうが正常なんだろうなぁ、と考えないようにしているのだが。
それは考えからの逃避に他成らない。
「…………ん?」
目と目が合う。
呼吸のリズムが噛み合う。
眠る時。
気付くと彼女とこうする回数が多いのは……何か妙な縁でもあるのだろうか。
美森ちゃんと、二人で活動する時のように。
銀と、自宅で日常を過ごす時のように。
そのちゃんとは、眠る時での何かの繋がりが。
「……何でも無いよ」
「そう……?」
未だ、普段眠る時間までは相応に猶予がある。
一度、背を向けて無理に眠ろうとはしたけれど。
両足を絡み付かれてまで、背中にぴたりと張り付かれた時の冷や汗を思い出したくはない。
故に、何方かに眠気が舞い降りるまではこうするしか無い。
「なんだか、懐かしいね~」
「……何が?」
「初めて、こうやって寝た時のこと」
忘れてはいけない、けれど思い出したくはない出来事の後であり前。
全員を抱く羽目になった、あの夜から朝に掛けて。
……今時分でなくてよかった、と思うのは多分早計。
(実際、あの時点で女の子らしかったのは間違いなかったもんなぁ)
一人だけが突出して、という差にも似た部分はあったけれど。
それでも半年、一年。
初めて……銀に紹介された時から考えれば、互いに成長を果たした。
成長することが出来た。
そんな、普通であれば当たり前のことなのに。
背負う二つの使命が、それを当たり前とさせてくれない。
しなければいけない。
それはこの世界……箱庭で生きる以上に必須のこと。
護らなければならない。
最も適正を持つ少女達に依って、この世界は維持され続けている。
「……そうだね。 なんだか随分前な気もする」
「お爺ちゃんじゃないんだから~」
「それこそお婆ちゃんでもないでしょ」
軽口を叩きながら、少しばかりの暗闇を湛える瞳の奥と光を交わす。
『そうあろう』とする少女の奥。
『そうなってしまう』……滲み出た、女の子としての彼女と対話を果たす。
「……お婆ちゃんになっても、
「それは……どういう意味で?」
「どういう意味だと思う~?」
くすくす笑う少女。
もし、明日『お役目』が再開すれば。
もし、明日『眠る初代』の沈静化が失敗すれば。
目の前の、大事な少女は二度と掻き消えてしまうかも知れない。
世界を護る役割の、『勇者』達。
――――
大赦ではない。
あの組織は『世界を護る』事のみを考えている。
また……亜耶から聞いた話をそのまま受け取るなら、たかしーを利用するような動きもあるという。
そんな場所に――元々信用など無かったと言えばそれまでだが――頼るつもりはない。
人々ではない。
日常を過ごす上で、精神を護る盾にはなるかも知れない。
けれどそれは同時に『後ろに通せば失う』事を意味する、護られる側。
意識しようとも、せずとも……既に二度犠牲を出している以上。
彼女達はその身を呈して犠牲となる道を歩む筈だ。
(……そうなんだよな。
逃げ道など無い。
既に最後、と定められている以上。
それ以外に手段を持たない以上。
神樹サマという、神が見定めた贄である以上――――その試練を超える他に道はない。
だから……せめて。
俺は、
いつでも。
いつだって。
その身を、心を護りたい。
結局……やりたいことは、彼女達と何ら変わらないのだ。
「……ずっと、傍にいるってこと?」
「半分だけ正解~」
「もう半分は?」
微かな笑み。
ただ続ける会話のみを楽しむ。
手を伸ばせば、胸の内に抱えてしまえる程の近さの相手。
その距離を零にするか無限にするか。
それは……お互いの心持ち一つで。
「……わっしーも、ミノさんも……皆一緒に。
それもそうだけど――――」
一息、間が空いた。
そのちゃんにしては珍しく、戸惑っているように。
変だと思われないか、心配するような上目遣いへと変わり。
小さく、ほんの少し頷くことでそれへの答えとする。
……俺自身、相応に
嫉妬深い。
独占欲。
言い出してしまえば、きっとそれは留まることを知らない。
だからこそ。
同じような感情を、持ってくれるのなら。
「…………乃木家、って括りじゃなくてね」
「うん」
ぼそり、と漏れた言霊。
「私の……私の、我儘でね」
「うん」
妙に湿ったような……その瞳に映るのは。
「――――いつか。
『俺』という個だったのか。
それとも。
知ってしまった……欲張りな女の子としての、夢其の物だったのか。
「…………いつか、ね」
「…………お婆ちゃんになる前に、ね」
問い掛けることは出来ず。
明日の――――封じられた少女を解放する為に。
互いに手を取り。
足を絡まれて。
心臓の音が聞こえる程の、密着の中で。
不思議と――――安心しながら、目を閉じた。
・一番抑えられないのは多分そのっち。
・何もなければ真っ先に切り離されると……自分自身で分かっているから。