葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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結-15

 

人が集まるには早すぎる時間帯。

普段なら起きて家の周りを走っている途中か、その終わりか。

少なくとも、この人数が集まる時間ではない。

 

「……皆、有難う」

 

先んじて移動し、周囲を見ていてくれたらしい三人。

きぃ、と車椅子が軋む音が妙に響くような錯覚。

車輪の跡が地面に張り付き、判子のように円環を為して捺され続けているのが視界に入る。

 

「……私達の為でもあるからいいのよ」

 

「園子だけが得する、ってなると……ちょっと悩んだけどさ」

 

「え~、酷くなぁい?」

 

当たり前、と言い放つ少女。

少しばかりニヤニヤした表情で誂いの言葉を投げる少女。

それに返す言葉は少しばかり刺々しく、けれど表情は何処か柔らかい。

 

黒、青、白。

特にせんちゃんと銀の場合、見た目よりも動き易さを重視したのが分かりやすい。

 

学校指定の物ではないが、色違いの長袖の運動着を着込んだ二人組。

それも片方は車椅子。

周囲に見られたら――元々この付近に住んでいたというのもあって――即座に噂が広まっていた筈。

 

恐らく、それを避ける意味でもこれだけ早く出てくれたのだろうが。

障害者用のタクシーともなると少しばかり特殊なモノになる。

当初の予定通り、用件が済んだらイネスでも経由して帰って貰う方向で間違いは無さそうか。

 

「美森ちゃんは?」

 

「彼処。 見える?」

 

銀が指差した方へ目を凝らせば、花畑の付近……立ち入り禁止の看板が突き立てられた直前。

両手を組みながら、向こう側をジッと睨むように見詰めている姿。

 

「……何してるんだ?」

 

「祈っている……私達のような神具を持っているわけでは有りませんよね?」

 

本当に微かに届くかどうかの、小さい声色。

けれどそれは確かに全員に届いたようで、全員が無音で頷いている。

 

「……わっしーも私達と同じ、神樹様から力を借りてる勇者だよ?」

 

「神具とか持ってるなら天理が気付くよな?」

 

「それ以前に、神樹様に選ばれるかどうかが分からないと思うけれど」

 

それぞれがそれぞれの言葉で所持を否定する。

であるなら、何に祈っているのか。

 

……現状、俺には向こう側の変化は何も見えないし感じられない。

 

恐らく昔……本当に幼い頃なら何かが見えたのかもしれないが。

今確かに感じるのは、春から初夏になり始めた季節では余り感じられない()()

 

(……他の皆は感じないのか?)

 

首筋、手首、胴体。

何処も裂かれれば即座に重症、或いは死に至ることが分かる急所ばかりが妙に冷たい。

 

無意識にその場所に手を向ければ。

そうしていることを不自然に思う友人達から声が掛かる。

 

「……てんくん?」

 

「天理様?」

 

ただ、最初に反応を示したのは同行してきた二人。

一歩此方に近付こうとして、そして二人も今更に気付いたように首元に手を当てる。

 

一瞬で表情が変化し、冷や汗のような何かがぽたりぽたりと垂れ落ちて。

呼吸を忘れたように、浅い呼吸を断続的に続ける光景を目の当たりにし。

他の三人は目を見開き。

俺は近付いて胸の内に抱えるようにして背中を擦る。

 

「……っ」

 

「…………え、今……斬られませんでした、か?」

 

「落ち着いて。 幻覚……というよりは錯覚だ、それは」

 

()()()()()()()()()()()、と言いながら呼吸をするように囁いて。

ゆっくり、ゆっくりと呼吸が落ち着くのを待ちつつに。

他の三人には手を向けて、一度此方に近付くのを静止しておく。

そうしなければ――――。

 

「……あんず!」

 

「まーくん、大丈夫なの!?」

 

「天理、今度は何を感じたんだ?」

 

駆け出そうとする二人に。

先程までと違い、真剣な目付きで此方に伺いを立てる銀をも同じ状態にしただろうから。

 

「大丈夫……少なくとも、せんちゃんと会ったあの場所よりは」

 

「比較にしていい場所じゃないでしょうに……」

 

まあ、冥界……冥府と唯の現場を同一に見るほうがおかしいのは分かってる。

 

……故に、そうなると明らかな違和感があるのは美森ちゃんか。

寒気は花畑の中心、恐らくは結界の内側から漏れ出たものだろう。

俺達より明らかに近い場所に立っているのに、恐れているような様子は一切見えない。

 

――――ただ、同時に。

向こうが此方に気付いていない、というこの状況其の物がおかしいということでもある。

 

(……何に祈ってるのか、或いは()()()()()()()のか。 それを聞くにはまだ危険度が高すぎるか)

 

二人の呼吸が安定したのを確認し、手を離して向き直る。

目線を向ける先はやはり花畑で――――『視る』のではなく『聞く』のを重視しながら。

背中を向けた二人に、そのままの体勢で声を掛ける。

 

「そのちゃん、杏さん。 三々九度の準備だけ頼む」

 

「……天理さんは?」

 

「普通に呼び捨てで良いんです……良いんだけどね、杏()()

 

苦笑を交えたのがわかったのかどうなのか。

一度話を区切った上で、するべきことを口にする。

 

「今のままだと何も進まない……どころか俺以外にまで影響が出るので。

 先に大枠を結界で囲う準備をしてくる」

 

結局脚で線を書く羽目になるのだが。

こういう時用に、剣でも刀でも――――棒でも何でも良いので神具を授けて欲しい。

そうすればそれを引っ張るだけで済む、と言ったら多分罰当たりなんだろうけど。

 

「ほら~、またこうやって自分は平気みたいな事するんよ~」

 

「…………本当ですね」

 

背後からボソボソ聞こえる声に険が混じったのはそんな時。

二人共、来る時微妙に険悪じゃなかったっけ?

 

「…………じゃ、行ってくる」

 

「後でお話があるんよ」

 

「逃げないでくださいね?」

 

……おかしいなぁ。

 

仲良くしてくれてることは嬉しいのに。

首元に感じる寒気と、斬られたように感じる錯覚の影響もあるのに。

少し先が妙に怖い。

 

(……同じようなこと、勇者なら全員やってるのにな)

 

口に出さないだけの冷静さは――――まだ保ったまま。

美森ちゃんの直ぐ側まで、ゆっくりと近づいていった。




・解放戦その1。
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