葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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今更ですが巫女超強化されてますね。


結-16

 

ゆっくりと、ゆっくりと。

首元、手首。

恐らく実体を持つ武具ならば数千回は死んでいただろう、鋭い刃の圏内を潜り抜ける。

 

(無理する必要はない、ゆっくり……ゆっくり……)

 

鞄から取り外してある編みぐるみの声もキンキンと響くくらい。

一秒が数秒に感じる程の集中の中で、禹歩を刻みながら確実に進む。

眼の前の筈の、美森ちゃんまでの距離を異様に長く感じながら。

 

(……彼女にも、何かが起こってるんだろうから)

 

確実に発生している異変を感じながら。

もし、この場に亜耶を連れてきていたら何が起こっていたのかを想像してしまう。

 

(外に出てこれなくて良かった、って言えるのが嫌だな)

 

同じような物を感じた筈で、それでも何かをしようとした筈だ。

そういった本心、心持ちは勇者達と共通して保持するもので。

()()()()()、今回に限っては致命傷になったかもしれない。

 

痛み――――と言うよりは冷たさに近い。

肌に刃が触れ、気付かない間に皮膚が切れる感覚。

 

それを四方八方から感じて、今俺がこうしていられる理由。

それもまた、散華を引き受けることでの致命的な喪失を受け続けてきたから。

 

痛みに慣れている。

失うことに慣れている。

慣れてはいけない、そんな事象を幾度と経験したから。

 

「……なぁ」

 

通ってきた道程が薄い一本の線となり。

花畑に近付けば近付く程に苛烈になっていた、刃の嵐。

けれど――――。

 

「……()()()()()()()()()?」

 

『美森ちゃん』の直ぐ側……大凡で五メートル範囲程か。

その付近まで近寄った時、台風の目に入ったかのように途端に肌に感じた錯覚は消え去る。

一度自分の腕を見てみれば、カタカタと震えながらも脂汗が滲み出ていて。

そんな肉体的な変異を無視して、精神力を以て問い掛ける。

 

くるり、と振り返った少女へ。

 

外見上は、幾度も見た一人の最愛の少女。

けれど、それが面影になるように……感じるのは別の気配。

 

「……何を? 見て分かるわよね?」

 

小さく笑う、その顔に。

不機嫌さを可能な限り表に出しながら。

 

「もう一度聞く。 君は何をしてる?」

 

美森ちゃんではないことは分かっている、と繰り返す。

 

外見……そして肉体自体は恐らく其の物としても。

精神的にはまた別物だと全感覚が伝えている。

 

まるで、肉体に誰かを降ろしたかのような。

まるで、魂だけを受け入れたかのような。

 

「…………そうですね、やはり気付きますよね。 失礼しました」

 

良いですね、と誰かに告げるように呟き。

何とも返答はないけれど……微笑みが頬に昇ることで、気が緩む。

 

少しだけ感じた緊張感は解け。

けれど組み合わせた手を解こうとはしなかった。

 

「……それで?」

 

()()()()()……自らを封じている勇者の暴走を緩和しています」

 

こうして肉体を借りているのも同じ理由で、と。

自分から口にする姿、そしてほんの少しだけ違うような色気。

見慣れているはずなのに、決定的に違う部分は幾らでも見つかる気がした。

 

「……感じていますよね?」

 

「この……あー、外の幻覚と言うか錯覚?」

 

「そうです」

 

どうにも話す内容に戸惑う。

 

悪い人じゃない、というのは恐らく直感の通り。

以前にも、フリーマーケットの時にも美森ちゃんが言っていた『師匠』がこの人ならば。

悪いことはしないだろう、という妙な思い込み……信用も同時に起こりつつ。

 

「恐らく、分かって下さるとは思いますが……。

 今の若葉ちゃんに全力を出させるわけにはいきません」

 

親しみさと、同時に悲しさ。

そんな感情が入り交じる、知らない相手を呼ぶ良く知る声。

妙に心を引っ掻かれるような違和感が強く、まともに受け入れるのに少しだけ時間を要した。

 

「……一応確認するけれど。 中で祈っている、巫女でいいの?」

 

「はい。 ……詳しい自己紹介は後で」

 

そんな自分を落ち着かせるような確認。

返答は何処か清々しささえ交える言い切り。

 

脳内に蘇る、一度内部で見た岩に縛られた少女と祈り続ける巫女。

その二人――――その片割れが半ば暴れる寸前であり。

もう片方が、命を賭して封じ続けているあの光景。

 

「……なら、教えてくれ。

 これから結界で一度覆って被害を減らした上で今の結界を解く。

 暴走を止めるのに、何をすれば良い?」

 

だからこそ、此処で聞く。

 

俺かワカの何方かが契約する、という本質は分かっていても。

具体的な行動こそは、彼女を支え続けた巫女が最も理解していること。

つまり――――何方にしろ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『一番分かりやすい例で言うのなら天理、お主の肉体を喰らわせることだが』

 

『……………………は?』

 

揺れる編みぐるみからの声。

ちらり、と目線を向けたことからして……彼女にはどうやら聞き取れているらしい。

しかしたかしーの冷え切った声、物凄い怖いんだが。

 

「……間違ってはいませんが、二度も同じことをさせませんよ」

 

()()()()()()()()、とか言う言葉が聞こえてきたが。

その理論で行くと俺食われる事前提になるから嫌なんだが?

 

「なら、どうすれば?」

 

「……確認ですが、結界の解除自体にはどれ程掛かりますか?」

 

質問に対し質問が返る。

だが、その確認自体も至極真っ当な内容。

 

「そのちゃんと……三々九度を交わせば直ぐ、らしいので。

 結界を張った後……四半刻掛かるかどうか、くらい?」

 

「……分かりました。 でしたら、結界を張ったら一度此処に戻って貰えますか」

 

「それは構いませんけど……結局どうすれば良いんですか?」

 

ちゃんと聞こうとすると話を逸らされている感覚。

言い難いのか――――或いは恥ずかしいのか。

 

目をきちんと合わせない、『内側の巫女』……血筋的に正しいのかは別として。

扱い上は俺の祖先に当たる人は、ぼそぼそと口を開いた。

 

「……今の……わ、若葉ちゃんにさせるわけにもいかないので」

 

「……はい?」

 

「……内側の『私』と、()()()()()を」

 

――――ん?

 

「……え?」

 

そんな言葉が、自然と漏れていた。




※一応理由はきちんとありますが次回。
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