葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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結-17

 

『……まあ、間違ってはおらんか。 二重に枷を嵌める、という意味合いでは』

 

ぼそり、と聞こえる声。

ワカの発言に向けられた俺達の視線。

 

『本体……()()()()()()()()()

 いや、()()()()()()()()()()()、と言ったほうが良いか?

 地の神、我等が義父殿の武具の所有権を持つ巫女と繋がるのなら……』

 

「必然的に混ざりあって純度が落ちる?」

 

『無論一時的に過ぎん。 神樹に混ざっていない我等が繋がることでの混乱が主因だからな。

 その後……つまりは食い止めた後で当人にも同じことをする必要性はあるぞ』

 

……と、なるとだ。

好機は一度だけ、今回で成功させて落ち着かせてしまえば。

巫女と勇者、何方にも同じことをすれば嫌でも落ち着く。

 

(ああいや、全部終わったら形式上儀式は必要か)

 

幾らかの神話を紐解けば、という前提となるが。

儀式、何らかの行動を経ることで『認められる』事象はそれなりにある……らしい。

今回の場合は降し、それを配下という扱いにすることで天の神の介入を防ぐ行動。

 

その為の行為が今の行動である以上。

恥ずかしそうにしている見慣れた/見慣れない相手に何かをするのは必須。

 

…………しかし、体液って何?

 

「……あ、なにか変な勘違いしてます?」

 

「何かってなんだよ……」

 

思わず漏れたのは敬語とかそういったのを省いた本音。

もしかするともう少し前から剥がれていたかも知れない。

視線の奥には、此方をこわごわと伺う勇者達が見える。

 

「何処でも良いので、傷跡と傷跡を触れ合わさせて下さい」

 

「……あ、血と血?」

 

「一時的にはその方が良いと思うのですが」

 

そんな言い方とそんな表情されれば誰だって勘違いすると思うが。

ついでに言えば、()()()というわけではないので。

思い浮かべたのは……何だろう、もう少し甘い行為。

 

……美森ちゃんにした覚えはないな、そういや。

もう少し別の事をした覚えはいくらかあるけれど。

そのちゃんは頬だったし。

今のところせんちゃんと……俺からしたのは銀と亜耶で…………あれ?

 

(……不味くないか?)

 

嫌なことに思い当たって冷や汗が背筋を滑る。

表情の変化に戸惑いを見せつつも、同時にほんの少しの悪戯に成功したような。

彼女らしくない笑みを浮かべつつも、話を続けた。

 

「……ですので、指先か何処かを傷付けて頂く必要があります」

 

「あ、ああ。 それ自体は分かった、大丈夫」

 

どうやってか、という話になってくるが。

刃物とか無いし、大葉刈の刃先でも借りるか?

いやでもアレ冥府の武器だし変に傷付けると不味いか。

 

(……タマ先輩の側面借りるか)

 

詳しい事情を聞いてるわけじゃないが、タマ先輩の神具……神屋楯比売は一応は盾。

にも関わらずどちらかというと攻撃的に改造されているので、刃物が付いてた筈だ。

 

こういう一応は祝いの時に刃物を持ち歩いてはいない。

次からは針の一本くらいは持ち歩くようにしよう……と言ったら相手が嫌がるよな。

そもそもこんな機会が二度と無いことを祈るしか無い、か。

 

「えーと、じゃあ俺一周してこようと思うんだけど。

 ……その、錯覚を抑える何かってもう少し広げられない?」

 

話を一度は終えて、美森ちゃん/巫女さんは一息ついたように見える。

その間もずっと手を組み、力を入れすぎて白くさえなっている手が目の前に見える。

どうしても――――先のことを、他のことを考えれば気にしている場合ではないのに。

それに引っ張られてしまう、悪い癖が出ているような気がする。

 

「……この辺り一帯を覆うように、という意味ですか?」

 

「うん。 何ならやれる範囲で手伝うけど」

 

「……そうですね。 何方にしろ、中心から広げるのでなければ歩いて回る他有りません」

 

もう少し花本さんから学んでおけば良かったのですが、と。

知ってか知らずか……恐らくは知りながら、俺の直接の先祖の名前を挙げる。

神道の知識を深く持っていた人、というのはせんちゃんから聞いていたが。

咒い(まじない)やそれに近い技術の知識も持ち合わせていたのだろうか。

 

(……凄いな)

 

安芸さんと花本さん。 そして目の前の巫女さん。

俺が知る初代勇者に大きく関わった巫女達はその三人。

たかしーからは細かい名前を聞いたわけではないから除外するにしろ、それぞれが何かに秀でていたのか。

或いは引き出されたのか――――勇者達から未だに名前が挙がる程に、友情を深めていたのだろう。

 

俺は、飽く迄『伝える』だけ。

何かを経由し、何かを伝える伝達としての役割しか持てない。

()()()()()()()()()()()

そう考えないようにしていたけれど――――心の奥底で、不意に感情が擡げてくる。

 

「……お邪魔でなければ、同行させて頂いても大丈夫ですか?」

 

「それは俺からも喜んで、と言いたいけど……大丈夫?」

 

「ご心配には及びませんよ」

 

笑っているはずなのに。

普段から見る笑顔よりも、表情がはっきりして見えるはずなのに。

何処か空虚さが……そうだ、『仮面』を被っているように思える。

 

友奈やたかしー、或いはそのちゃん。

過去に何かを背負った人物特有のそれ。

そして……そんな表情をした相手に近付いてしまおうとする俺は。

多分、知らず知らずの間に死地に近付く警戒心が薄れつつあるのだろう。

 

「……なら、頼みます」

 

「はい」

 

そうして、同行者を連れ。

ゆっくりと、ゆっくりと。

花畑の回りを囲うように、脚で線をつけていく。

 

「――――」

 

隣で低く、高く。

聞こえる声は祝詞だろうか。

神樹サマへと捧げるような、大多数の神へと告げる特殊な誓詞。

 

一歩進む毎に響き始めるそれ。

先程までは維持……今は拡大、そんな差だろうか。

肌にちくちくと刺さる感触は確かに大分弱く、半周ほどを回って遠目に見える勇者達は。

()()()()()()()()()()()()()()、先程よりは表情が安定して見える。

 

進む。

進む。

進む。

 

正しい意味での神樹サマ……その中心、地の神の王に導かれた巫女。

そして、それの鏡像……対照となるような意味を持たされた巫覡。

 

だからなのか。

それとも、そうしなければならないのか。

その差は僅かで、そして理解が及ぶ範疇ではないけれど。

 

(――――目が惹かれる)

 

多分……それは、内側の二人も。

そして、そのちゃんに薄々と感じているものに近い何かなのだろう。

 

そうでないのなら。

……再びに、罪を重ねる切っ掛けになってしまうから。

 

ぐるり、と一周。

線が、縁を描いた。




『大赦に遺された文章抜粋』

・安芸真鈴:他巫女と上層部を繋ぐパイプ。
人員管理に極めて優れた才能を見せた。
・花本美佳:『上里』の補助役。
神道の知識、咒いの知識を用いて一派閥を形成・補助した。
・上里■■■:『上里』。
初代勇者、乃木の巫女。その政治力、先を見通すような慧眼で大赦を導いた。一年程後に病を患い、一時的に面会謝絶になっていた時期がある。


・『上里』■■■:『上里』。
病から快復し、再び巫女として活動を再開した後の『上里』。
顔に大きな痕が残り、何処か引き攣ったような表情を浮かべるようになっていたという。
また、それを嫌った為に顔を覆うようになり……それから現在に続く顔を覆う習慣が始まったとされる。
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