葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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結-23

 

受け渡したのは、立ち上がるのに必要な生(・)命(・)力(・)の(・)幾(・)ば(・)く(・)か(・)。

 

そうしなければならなかったのは。

彼女の息遣いや全身の脱力、血液量の加減。

そして何より俺自身が幾度も経験してきた状態に親しかったから。

 

(……後悔するつもりはないが、また一つ重荷が増えたな)

 

ぷは、と糸が伝い。

同時に身体全体から力が抜けながら、それでも未だすべき事がある。

 

『天理、お主……また無理をしたな?』

 

(そうするしか無かったから仕方ないだろ……助けてくれて助かったよ、ワカ)

 

それでも全てを吐き出さなかったのは、内側の神々による支援があったから。

 

……俺が彼女たちに受け渡す『力』は、俺自身の物ではなく。

俺を介することで人……勇者に受け渡すことが可能になる神々としてのもの。

要するに変換器としての役割をずっと担っているわけだが、嘗てに比べれば変換効率は増加している。

 

だからこそ、以前に比べれば動けるようになっているし……その時間も長くはなっているのだが。

それでも根本的な総量という大問題が立ちふさがる。

 

変換・受け渡しの際に用いる増加しようのない体力、或いは生命力。

その内の多少量を受け渡したことで、俺の足腰……動く力は摩耗し。

同時に現在進行系で減少を続けている訳だが。

それでも倒れなかったのは、恐らくは自然と神々の負担を増してくれたから。

 

『――――必要なことであったのは認めるが、な』

 

女誑しめ、と湿ったような言葉に苦笑を一つ。

 

「…………休んでいて」

 

周囲の熱気で喉が枯れ。

もう少しはっきりした言葉を出すつもりが、掠れた老人のような声しか出ずに。

けれど、胡乱としていた瞳がはっきりとし。

自分が何をされていたのかを理解した少女の頬が染まる中で。

立ち上がろうとした腕を取られ、足を縺れて肢体へと倒れ込んだ。

 

「――――ぁ、ご、ごめ……」

 

咄嗟に謝り、立ち上がろうとするその体を僅かに押し留め。

共に立ち上がろうとしながら。

恐らくは……切り傷や擦り傷に、痛みを堪える表情を浮かべつつ。

そっと耳元で聞こえた声は。

 

「…………私も」

 

そんな、何処か憂いを帯びた。

けれど、湿り気を覚えるような声だった。

 

乾き切った肌に染み入るような。

向かい合うのが、隣り合いながら別の道を模索し。

けれど、目指す事柄は常に同じ。

 

鏡写し、という意味合いが正しく理解できてしまう。

瞳の色と、声色と、存在と。

在り方全てが、俺には出来ない事を全て出来ると示す。

そんな不可思議な感情が、心と視界から理解出来た。

出来てしまった。

 

(……これが、『上里』の巫女)

 

じっと、彼女の目を見詰めてしまった気がする。

恐らくはそれ程長くはなく。

けれど、内部時間にしてみれば数十倍に加速されたような長さの間。

意識を取り戻し、慌てて目線を逸らそうとする……その直前。

 

「……若葉ちゃんは、私の勇者ですから」

 

もう一言、言葉にならないような声が聞こえた気がして。

目線のことを忘れたように、一瞬呆けながらも。

 

「……行きましょう?」

 

手を掴んだまま。

己の肩に回し、立ち上がる動作に引っ張られ。

きちんと立つのに少し時間を掛けながら、それでも共に立つ。

 

『……ああ、そ(・)う(・)い(・)う(・)二人か』

 

『運がいいというのか、悪いというのか』

 

『え、何? 何?』

 

二人三脚のよう、とは言うまい。

互いに進む度に右に左に傾きながらも、向かう方向は同じ。

 

腕の内側、首元から感じる微かな熱。

じっとりと滲み出る汗に、恐らくは何処かで切った滲んだ血が混じる。

上着……運動服にそれが染み付き。

洗って落ちるだろうか、なんて場違いな事を夢想し。

 

それでもゆっくりと近付けば、鳴り響く金属音は近く。

しかし、その頻度は明らかに落ちている。

 

「……どうなってると思う?」

 

「……若葉ちゃんの全力の、半分も出ていないと思います」

 

「……やっぱり、今しかないか」

 

体内の摩耗していく『何か』の速度は確かに落ちながら。

隣の巫女は何を感じ取っているのか問い掛ければ。

ほんの少しだけ目を瞑った上で、微かに声を漏らす。

何処かくすぐったささえも思い出させるような声色。

 

それは――――今出来る最大限の声を潜める行為。

 

向こうが俺達に気付けば、恐らく枷から解放されようと襲うのは明白。

そして俺が乃木の勇者と結ぶのは、力(・)を(・)吸(・)収(・)す(・)る(・)行(・)為(・)。

二重の意味で襲わない理由もなく、警戒心を引き上げるのは当然なのだが。

 

『縁を持つ男女、とか言うだろう?』

 

『時を挟み、本来結ばれる相手とは断絶し。

 けれどこの時代でこそまた縁を持つ相手と糸が繋がった。

 そういう話です』

 

『……え、ってことはヒナちゃん……本当は昔(・)で(・)も(・)良(・)い(・)人(・)が(・)見(・)つ(・)か(・)る(・)は(・)ず(・)だ(・)っ(・)た(・)、ってこと?』

 

耳に届く雑音のほうが問題。

こんなもん完全に断ち切って『雑音』呼ばわりでいいと思う。

 

(今余計なこと考えさせんな!)

 

そんな言葉を叫べば、ほんの少しだけは静まり返るが。

直ぐにまた会話が聞こえてきて集中が削られるという大問題。

……いや、元々神々ってこういう気分屋だってのは分かってたことだが。

 

「……どうしようかね」

 

「?」

 

ぽろり、と漏れた本音。

内容へ問い掛けて良いものか、少しだけ悩む様子を見せている。

出来ればそのまま聞かないでほしいが……思いが通じるのかどうなのか。

 

(落ち着いたら、この人とも話しないとなぁ)

 

必須事項で、俺自身がしたいこと。

銀達やせんちゃんとはまた別の意味で気になる相手。

鏡の向こう側の存在、本来は手すらも届かない相手に今なら手が伸びる。

だから――――というわけではなく。

 

責任の取り方、についても協議する必要があると思い。

微かに漏れた、溜息という名の吐息。

 

熱気が、それで少しだけ晴れ。

 

瞬間。

目の前に、銀の琴線が雨霰のように降り注ぐ光景と。

それを全て受け止めるタマ先輩の勇姿。

 

――――そして。

内側から焼かれ続ける、灰に近くさえも見える人の姿が。

ボロボロになりながら、地面に刀を突き立てる光景が。

同時に、俺達の視界へと入り込んできた。

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