葦原天理は巫覡である 作:氷桜
身体の中に走る熱。
それは『満開』の際の代償を引き受ける時よりは薄く。
ただ、確かに敵意を感じる熱気だというのは強く感じる。
(……いや、違う。 薄いんだったら……多分抑え込めてただろうし)
目の直ぐ側。
吐息……と言うよりは漸く落ち着いてきた呼吸の先。
鉄の味を多分に含ませてきている当人。
……よくよく見ればそのちゃんに似ている部分も幾らか感じる相手。
初代の『乃木』……乃木若葉、だったか。
その人の精神力は(表に見える範疇では)異常な程だったと話に聞いている。
……要するに、
少なくとも、その相手が俺の今感じている熱程度で苦しむとは思えない。
(多分、俺の身体が……魂が、熱に順応しつつある)
天の神に近付いている、とは思わない。
恐らくはたかしーが言っていた御姿……神に近い身体に置き換わっている副作用。
実際……四国の外は地獄の様相へと変貌を遂げているらしいのだが。
その温度次第では多少なら耐えられてしまいそう、とも思ってしまう。
まあ、やるとも思えないし……やるにしても準備を整えてからなのは当然だが。
じっと見つめる複数の視線。
いい加減に口を離せば、先程の……巫女を相手にした時より余程楽だと感じてしまう。
個人的には吐き気や頭痛、吐血や気絶くらいは覚悟してたのだが。
(……ワカにヒメ? なにかしてる?)
『力を経由はしておるがな、先程以上には何もしておらぬよ』
『単純に……巫女と勇者、その
『ああ……さっきの……き、キス?』
言い淀んでる。
多分顔赤くしてるんだろうなぁ、というのは容易に浮かんだが。
何故か脳裏に同時に浮かんだのは友奈の姿も隣にあったりするが、口には出さない。
ゆっくりと持ち上げられる大盾。
それが上がり切るかどうかくらいで端まで戻り、身体を持ち上げる。
引っ張り出すように複数人の手が伸び、そのまま引き摺り出され。
女の子に簡単に移動されるくらいなのか、とちょっとだけ悲しみつつ脳裏で質問を続ける。
(……何方とも繋がった、って俺だってそうだろ?
巫女もこれで三人……勇者は何人だっけ?)
『今回の場合は話が違います。 貴方が似姿とする主なる神の勇者と巫女ですよ』
……ああ、そういうことか。
要するに、巫女と俺……何方も体力がない状態の二人でやり取りしていた要素。
其処に勇者が加わったことで神具の持ち主との繋がりが拡大化。
本来は勇者が得るべき力の一部が俺に流れる……『精霊』みたいな状態になってるのか。
実際、行っていることは求める言葉に応じて力を分け与えること。
そしてその為の代償を全て自分で踏み倒していると言うだけ。
起こる結末に差異は生じても、していることは当初の予定通りに神樹サマと同じ。
恐らく、だからこそ……という部分もあるんだろうな。
一度造反神にも会い、そして帰還していることで縁も生じているだろうし。
「……成程ねえ」
「?」
「まぁた独り言~?」
伸びた手は三人分。
ボロボロ、とは言っても袖や腿の辺りが破けた様子のそのちゃん。
『切り札』を解除したからなのか、然程服装には異変が見られない杏さん。
そして最も重症に見えるのに、そして先程まで重体だったのに。
二本の脚でしっかりと立ち、その目に炎さえも浮かべた様子の巫女さん。
「……先ずは、有難うございました」
背後からの物音に意識を向ければ、せんちゃんが倒れたままの若葉さんを助け起こしている様子。
何処か呆けたような表情を浮かべているような気がする少女に何かを告げて。
それで慌てた声が此方にまで届き、感謝の言葉を述べた巫女さんも少しだけ苦笑混じりに切り変わる。
「後ろは良いの?」
「後で言っておきますから……言えるだけ、私達は幸福なんでしょうし」
それは確かに、と幾人かが頷いている。
と言うよりも全員が頷いた。
それ程に死に直面する役割が勇者であり。
それを見届け続けるしかなかった俺達だからこそに、理解を共有できたから。
「改めまして……上里ひなたと申します」
「どうも……此方も改めて。 葦原天理、或いは花本天理です」
恐らくは俺と同様、体力面での補填が成されたからか。
傷だらけであり、同時に血だらけにも見える服装とは裏腹に元気さを取り戻している。
俺達の中で恐らくは一二を争うくらいに年上だからか。
肌に張り付いた服装と、大人びた雰囲気はどうにも目上の人への態度を余儀なくされる。
美森ちゃんの、和風の美女とはまた違う……内外をはっきりと区切るであろう、そんな女性。
「……てんくん、ミノさんとわっしー待たせたら悪いよ~?」
「あぁ……だよね」
そんな互いの挨拶をしただけで、それ以上の会話が成立せず。
くい、と手を引かれたことでそれに従おうと楽をしてしまう。
……笑みが、少しだけ深くなったような。
頭の中で何を整理したのかは怖くて、問い掛けられなかったのだが。
「そうですね、若葉ちゃんの様態も確認しなければ。 ……病院、ですか?」
全員の視線が一度、三人の方へ向いた。
せんちゃんの肩を借りて歩いてくる金髪の、凛とした女性は顔を隠しながら左右に振りつつ。
タマ先輩は両手を頭の後ろに回して、一人だけ軽症とでも言いたそうにゆっくりと歩いてくる。
「いや……あー、勿論必要があればそうするけど……出来ればやめて欲しい。
少なくとも『乃木』の血統だって漏れた際が不味い」
「……なら、どうしましょう?」
それに関しては既に相談済み。
ただ、あの一軒家やアパートは三人を誰も連れてったこと無いんだけどな。
秘密基地が早速に崩壊してしまうがまあ仕方ない。
「取り敢えず、一度アパート……あー、家の方がいい?」
「部屋はありますし、私達が看病しやすいことを考えれば家の方が」
「ならそっちで。 ……外傷なら、杏さんが何とか出来るように為りつつありますから」
「杏さんが……?」
……まあ、実際に見ないと分からないよな。
自信なさげにオドオドしている彼女も含め。
二本の脚で一応は全員が立てているのだから――――この場から離れよう。
そう思いながら、背を向けて。
とと、と駆けてきた数人の横顔を見ながら……待っているはずの、二人へ。
足早に移動を始めた。
・無事救助成功。
・な、長かった……