葦原天理は巫覡である 作:氷桜
自由に動かせる脚がない、というのは思っているよりも不便なもので。
特に『家に情報が渡ってはいけない』=『家の車は使えない』事を前提にした場合。
来た時に銀が利用したタクシーに乗る人物を変え。
そして血塗れの服装を持ち込んでいた着替えに変え。
それぞれ電車とタクシーに別れ、合流するのに二時間程の時間を必要とした。
『……やっぱりキツイですね』
『…………』
ただ、まぁ。
特に着替えなければならない、封じられていた二人の内の一人は
もう一人もスラっとした美人、と言った具合ではあるのだが……細めた目を向けているのが意外だった。
そして、家でありアパートの前で全員と合流した時。
にっこりと笑顔を崩さないで近付いてくる
何で隠してたのか、とか問い詰められる羽目になったのは一種の黒歴史としておきたい。
「……で」
「で~」
一軒家の中で最も広い居間に全員で座り。
ぎゅうぎゅう詰めなのは分かっていたが、まあ全員で我慢して……妙に甘い香りに精神を落ち着けながら。
今日の成果報告と、今後に関して確認しようと口を開く。
追従して、楽しそうなそのちゃんが言葉を発し。
隣り合った場所で、離そうとしない手が言葉よりも雄弁に意思を伝えている。
『今日と明日は、まだ私の時間だよ?』
……分かっているけど、必要だから。 うん。
それを彼女自身も分かっていて、何処か楽しんでいる雰囲気が伝わってくる。
俺自身は――――それへは、ちょっとだけ力を込めて手を握ることで伝え。
そんな行動を読んでいたように幾らかの目線が呆れと、
こんな大したことでもない、と思ってしまうのが悪癖なのかどうなのか。
今の俺には解答する答えはなく。
「すまない、最初に言わせて欲しいがいいか?」
話を繰り広げる前に、そのちゃんに似た一人が声を挙げる。
横になったままではあるが、俺達……現代の四人をそれぞれ見た上で。
「私は乃木若葉という。 このような体勢で申し訳ないが……私を止めてくれて、有難う」
そうして一度深々と頭を下げて。
仕方ないなぁ、という表情を浮かべる初代勇者達と。
慌てて頭を上げさせながら挨拶し合う俺達、みたいな光景が終わった後で……改めて切り出した。
「まずは全員にもう一度感謝を。 やっと前提条件の一部が整った」
「……此方こそ。 まーくんに助けて貰わなければ、あのまま終わっていたでしょうから」
「私達は……どうなっていたのか、考えたくもないですね」
「流石のタマも二度はごめんだからなぁ……」
「……やはり皆さん、似たような?」
「誰が一番、とは言い難いようだな……」
代表して口を開いたのはせんちゃん。
それに重ねるように二人は顔を見合わせながら、青ざめた表情を浮かべ。
体調がある程度安定したとは言え、根本的な血が不足している二人だけは少し広めの場所を取り横になり。
そのままの姿勢だからこそ見える顔を見て、ある程度想定していたのだろう状況を再認識していた。
「現状の目標は神樹サマの正常化、として動いてる。
巫女である……あー、ひなたさん? には少しばかり心苦しいかも知れないけど」
「
暗に呼び捨てにしろ、と言っている気がする。
年上相手を呼び捨てにするのも少し抵抗があるのだが、幾つかの視線と。
私も、と言いたげな色合いに脅迫されて頷いてしまいつつ。
……そのちゃん、手の甲痛い。
「千景に杏、珠子もそれは理解しているのか?」
「半信半疑なのは否定しない。 ……でも、言ってる当人を信じてるから」
「……えっと、その。 私は友奈さんに会ってます。 同じようなことを言っていたので、間違いないかと」
あ、勿論天理さんも信じているという上ですけれど。
そんな事を慌てながら口にして、上目遣いを向けられたりすると困る。
実際隣のタマ先輩も呆れてるし、面白半分不快半分みたいな奇妙な表情を浮かべてるそのちゃんもいるし。
……嫉妬深い、っていうか……多分これアレだよな。
まあ何にしろ、二つの理由が挙げられて。
特に後者……たかしーの名前は彼女たちにとっては大きかったのは間違い無さそうだ。
それだけ信頼されていたようで、ひなたさんと若葉さん両名がそれなりに驚いている。
『私、此処にいるんだけどなぁ……』
(まあ、ビックリ企画みたいなものじゃない……?)
『今こうやって叫んでも聞こえないだろうけどさー?』
ただ、当人が直ぐ側にいるんだよな。
それを知る側は苦笑以上の感情が浮かんでこない、というのもまた事実。
「……実際、動き出すのは夏休み……八月に入ってからのつもり。
それまでは体を休めつつ鈍らせないでいて欲しい、っていうのと……もう一つ」
こほん、と咳払い。
それだけで此方に向き直ってくれたのは非常に助かる。
まだ誰にも言ってない作戦……と言うか今後の計画について話しやすくなる。
「もう一つ?」
「また悪巧み?」
「人聞きが悪い事言うなっつーの。
……ただ、まー。 一人には精神的な負担掛けるかもしれんけど」
脳裏に浮かんだのは一つ上の部長。
精神的に溜め込むタイプ側だろうし、暴発しない程度に此方で気を掛けつつなら行けるとは思う。
というか……
「次代の勇者に選ばれる可能性が高い何人かがいる。
……と言うか、それに組み込まれてる勇者も此処に何人かいるんだけど」
チラリ、と向けた目線は主に二人。
……銀も動けるようになるなら、三人か。
「其れ等に、選ばれる可能性の公表と……訓練をするように意識を向けたい。
出来るかどうかは別としても、先に準備しておかないと色々と酷いことに為りそうな面もあるし。
何より」
「より~?」
「
言葉にしなかったのは、結界外で迂闊に名前を出すわけには行かなかったから。
ただ、それだけでも全員は理解を示してくれる。
「……その為に、神樹サマの意識を正すんだし。
それに……
多分、此方の言葉の意味は分からなかったと思うが。
それでも、伝えておく必要性はあった。
「――――もう少し、細かい話をしてもいいか?」
そう切り出し。
全員が頷くまでは、秒も必要としなかった。