葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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また別視点。


破-6

 

「ふふーん」

 

迎えの車の一番後ろ。

私の定席みたいになっている場所で、隣り合うそれを見てニッコリ笑う。

 

取ってもらったサンチョ……のクッション。

友達付き合いの記念に、と選ばせて貰った髪色に似た黄色の組紐。

そして、余ったもう一本。

 

あとに残った物品はその二つ。

周りから見れば価値が無く、もっと高かったり良いものは手に入ると思う。

でも、それらを離そうとは決して思えなかった。

 

(……てんくん、かぁ)

 

ふと浮かんだのは、今日初めて出会って友達になった相手。

出会い方さえ違っていれば、私の隣にいたかもしれない少年。

 

『乃木』と『上里』の友誼を保つ意味でも、一時期だけ上がってしまった婚約者論。

勿論、そんな話は実現さえもしなかったけれど――――何故か私は、そんな話を知っていて。

そして周囲の同年代の何割かは、消えた計画のことをはっきりと把握していたから。

彼は私を知らなくても。 私は、彼のことを少しだけ知っていた。

 

(……好きで、一人でいたわけじゃないんよ。 てんくん)

 

葦原、という家に関しては幼い頃から色々言われていた。

乃木と共に大赦を立て直し、今への道筋を作り上げた『上里家』。

その分家……現当代として力を振るっているのは入婿で。

正しく、何かの力を引き継ぐのならば彼……てんくんになる筈。

 

私達の初代にも当たるご先祖様達は、私達の時代まで繋げるために色々な犠牲を払ってきた。

そうすれば――――当然、浮かび上がってくるのは籠もるだろう()()()

 

赤嶺と弥勒の当代が鎮圧したとされる反神樹様の活動。

それ以外にも、歴史にさえ残っていない様々なゴタゴタ。

 

度々他から血を受け継ぎ、家という体面を保ち続けていたのだから。

そんな埃がいくらでも出てしまう大赦の中での、名家という分類の中で。

『葦原』という家はとびっきり()()()()()()の集団だと説明されていた。

 

でも、今日その名前を持つ男の子と会ってみれば平々凡々。

少しだけ、目を配る頻度や気を使ってくれる相手というだけ。

 

二人で話しても、何か嫌がるとかそういうこともなく。

私にとっては普通で。

身に付けなければいけないことを『凄い』と言って貰えたことで不思議な感情が湧く。

 

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そんな事が――――私には、とても嬉しくて。

ついつい意地悪さえしてしまったけど、許してもらえると良いな。

 

『うし。ちょっと梃子摺ったけど、サンチョ取れたぞ』

『お、おお~~!』

『で、これはそのちゃんのだよな』

「え?」

 

幾ら入れても手に入らない、私が持っていないサンチョの色違い。

どうしよう、と途方に暮れながらわっしーにも頼もうとした横から声を掛けられて。

何かを確かめた後、三百円くらいで引っ掛けてそのまま引き摺る形で穴に落としてくれた。

 

アーム……上の腕みたいになってる掴む部分の力と、位置と。

落とせば手に入るって穴までの距離を見た上で角度をつけて引っ張ったみたいだけど。

何も知らない私からすれば魔法みたいで。

そして、欲しがっているのが分かっているからか……当たり前に譲ってくれて。

強くギュッと抱きしめて、顔を見せないようにしてしまった。

 

「くっ……流石にやりますね、天理くん!」

「ああ、苗字よりはそっちのほうが良いけど……ひょっとして負けず嫌いだったりする?」

「何でも負けたくないです!」

 

はは、と乾いた笑いを一つ。

その後も、初めて見る幾つかのゲームに引き回されて。

ミノさんも何でかな、顔真っ赤にしながら合流してきて。

ずっと昔からあるらしい、化け物を銃で倒すゲームとか音に合わせて踊るゲームとか。

一つ一つが初めてだから、とても楽しくて――――。

 

(こんなんも、取ったし~)

 

きっちり四人で分けた、友人と撮るような写真器具。

魂を取られるから、と一人が半ば拒否していたけれど全員で取り囲んで。

見るだけで、胸の中から温かい感情が湧いてくる。

 

(……それに、これも)

 

お裾分け、とか。

気に入ったのがあれば、とか色々言っていたけど。

気付いたらミノさんが付けていた髪留めみたいな、何種類か色が用意されたリボンとか組紐。

 

「売ってるものに比べれば粗末なもんだけど……自宅でくらいなら使えそうだし」

 

なんでも、てんくんが趣味で作ったものみたいで。

知り合った記念に持っていきたければどうか、と見せてくれたそれに目を惹かれていた。

 

決して高い素材を使っているわけでもないし、変な部分も見ていて分かるけど。

でも、プレゼントと言われると――――白っぽい、青っぽいリボンを選んでいた。

わっしー、悔しそうにしながら紫のやつ選んでたけど。 嬉しそうなの隠れてなかったよ?

 

「大事にするね~」

「あ、ありがとうございます……くっ」

「そう言って貰えるなら助かるよ……どう処分するかは悩んでてな」

 

苦笑いと、小さな笑いと。

自然と浮かんだ笑顔と。

車の中で、色んな思いが浮かんでは混ざって。

 

(…………また、会いたいなぁ)

 

なんで、そう思ったのか。

私は気付かないままで。

自分の家の、門を通り過ぎるまで……リボンと、サンチョを眺めていた。




*変更点
・恋愛結婚ではなく見合い結婚が一時期予定されていた
・当然内部での政争の結果であり、立ち消えになったにも関わらず子を含めて噂されている。
・彼女が幼い時から一人きりだったのは、不思議キャラであるのもそうだが上記の影響にも寄る。

・そんな線を容易に飛び越えてきた、”元婚約者候補”。

そういう内心を込み込みのそのっちです。
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