葦原天理は巫覡である 作:氷桜
いつもの特別教室棟。
部屋の目前に置かれた箱をひっくり返して、中に何も入っていないことを確認する。
「今日は……無いか」
「今日
「でも~、すっごい先のお願いとかはあったよね~?」
あったなぁ、と思い浮かべるのは夏休み手前や夏休み。
大会がある運動部が多く、手伝いや練習相手……或いは応援など。
まあ、美少女たちに応援されたいって気持ちは分かる。
ついでに頼めるなら頼んでおこう、位の感覚だというのも透けて見える。
風先輩は妙にやる気だったが、アレは以前にもやったことあるからってのはあるだろ。
……一見しても美人だし、家庭的だし、普通に好かれる人だと思うんだけどなぁ。
(褒めるようにはしてるけど……冗談だって受け取られてるし)
『そんな褒めなくてもいいのに~!』
そんな事を言いつつも、まあ頬は緩むのがいつものぶちょー状態。
冗談、或いはお世辞認識とは言えそう言われること自体は嫌いではないらしい。
一度本気で言ってみれば態度も変わるんだろうか。
「風先輩はやる気満々だったが……俺が応援しても絶対喜ばれないのは分かってるしなぁ」
「……私はそうでもないんだけどなぁ」
「友奈ちゃんと依頼して来た側は違うからね」
そうか、あんがとよ。
そんな言葉を言いつつ、ポケットから取り出した部室の鍵で扉を開ける。
一応俺含め何本かは渡されているのは、この部活の成り立ち自体が特殊だから。
その中でも俺に渡されたのは……まあ、唯一の男だからなんだろうな。
「じゃあ……電子上で届いてないかだけ確認しちゃうから」
「はいよー。 ……アタシも覚えたほうがいいのかなー」
「覚えられるなら覚えて損はしないと思うぞ、潰しは効くし」
「潰しってなんだよ」
「将来のこと?」
真っ先にノートパソコンに手を伸ばす美森ちゃん。
普段の定席に座っていく面々が時間潰しに色々と動く中。
車椅子の押す手摺に身体を擡げながら、目の前の銀と適当に話を続ける。
「出来ると出来ないでそんな変わるもん?」
「変わるだろうなぁ……まあ、俺は普通に弄れるくらいで詳しくはないんだが」
「あー……須美と見比べるとそうなるよなー……」
いや、ほんとに。
比較対象が美森ちゃんだと大真面目に勝てる気がしない。
地味にそのちゃんも小説の投稿という趣味があるからか、文章を打ち込む速度がヤバいことになってるし。
せんちゃんも色々と調べたり纏めたりする性格上、データ纏めとか得意なんだよな。
「……うん、やっぱり銀も学んだほうがいいと思うぞ」
「おい、それはどういう意味だ天理」
どういう意味だと思う?
後で酷い目に合わす。
間近でそんな事を言い合いながら、表面上はにこやかに。
尚、今の銀の酷い目とは物理的にというより精神的に、という方が強い。
要するに後で羞恥心を持たせるような事をするから覚悟しとけ、という意味。
うん、絶対嫌だし部屋に鍵掛けて寝よう。
「ほら、友奈ちゃん。 銀が何か計画してるわよ」
「え、何を?」
「おい須美。 此方に振るのは駄目だろ」
「なら私の前で言うのも酷いと思わない?」
眼の前で繰り広げられる舌戦(?)。
ただ、誰もが微かに笑っているから冗談半ばだというのは察せられるのに。
妙に肌寒い何かを感じ取るのは……何故なのだろうか。
「どっちもどっちかなぁ~?」
「そのっちには聞いてないわよ?」
そのちゃんが口を挟む。
ぴしゃり、と美森ちゃんが切り落とす。
……あれー? こないだのことで納得したんじゃなかったっけー?
『あの程度で納得する女子達だと思っておったのか?』
『
『あー…………うん。 私はノーコメント』
(分かってるわ! 呆れた口調で言われんでも!)
俺の言い方……というか他人事のようにして流そうとしたのが気に入らなかったらしい。
脳内で二柱が説教という名前の声を掛け、一柱は自分の意志を抑え込む。
……いや、まあ分かる。 たかしーの内心は漏れてる幾つかの端々から理解はしてる。
ただ、現実世界で現在はどうしようもなく。
そして精神世界では加減が効くかわからない、という怖い一言があるので。
(……多分、
ぬか喜びさせるのも不味いし、折角落ち着いている状態を無理に動かす必要もない。
故に脳内の奥深くに仕舞いながら、恐る恐るに周囲の状況を再度見回す。
「……じゃあ、そう言うことでいいわね?」
「アタシは異論はないかな。 千景さんと話す必要はあるけど」
「私は……ううん、今度一日貰えばいいかなぁ?」
「…………え、ええっと。 良いのかなぁ?」
どうやら脳内でのやり取りをしている間に話が勝手に進んでいたらしい。
つい先程まで弄っていたパソコンの手を止め。
四人は四人で何かを定めているのが分かった。
……何故だろう、俺の意思が無視されている気がする。
「良いのよ。 我慢し続けても、良いことなんて何も無いのよ?」
それは深い実体験の上からの言葉であるのは全員に伝わり。
そして、今この場にいない一人に対しても言えることだったと思う。
現在進行系で耐え続けている――――もし何かの線が切れれば、それは容易く暴走へと反転する。
そんな事は、誰も望んでいなかったから。
「……でも」
「ゆーゆも難儀だよねえ」
「アタシとしてはお前等がそんなに寛容だって方が驚きだよ……」
未だに何かを躊躇う友奈。
以前の自分を見るような目で見ているそのちゃん。
銀は……何視点だ? 自分は
「……おーい」
声を掛けても無視されて。
「今日くらいは譲るわよ、私の本番は来月だし……友奈ちゃんだし」
「だったらわっしー、私も甘くしてよ~」
「そのっちはこないだやったでしょ。 我慢しなさい」
パソコンを動かす手が再度動き始めながらも、四人のみでの雑談は引き続き。
ほんの少し、内心を傷付けられ。
「……何してるの?」
遅れてやってきたせんちゃんに、慰めて貰うまで後数分。