葦原天理は巫覡である 作:氷桜
結局、友奈の家を出たのはそれから一時間程が経ってから。
それまで離れる、と言ってもその距離は拳一つほどが最大で。
甘えている……と言うよりは昔を懐かしんでいると言った具合が限りなく近く。
此処まで露骨な態度を取った記憶は無かったが――――離す選択肢もなく。
多少の時間話をして帰宅した、と思いながら時計を見ればこんな時間帯。
(…………随分と永くを過ごしたか)
家につくまでほんの数分。
それなのに、外の空気は何処か澄んでいるようにさえ感じる。
それだけの重みを味わって。
それだけの理由を背負って。
また一つ、こうして罪を重ねたことを理解しているからか。
(……まあ、苦しくはないんだが)
寧ろ苦しんでいるのは少女達の方だと思う。
表立って好意を明言できない。
それに親しい好意も、現段階では何も出来ない。
身内のみ――――それも仲間内だけと限られる、今の状況。
すべてが終わって、その後で。
彼女達が何を望むのか……それも考えねばならないな、と。
益体もないことを脳裏に浮かべながらも、直ぐに現れた我が生家。
「……寝てるか?」
ついついそんな言葉を零してしまう。
妙に罪悪感……浮気でもしてきたかのような錯覚。
いやまあ……認められているとしても、だ。
してきたこと、受け入れたことには何ら変わらず。
そして未だに夜も早いのに、既に明かりが見えていないことに本能的な恐怖。
先に帰る前に言い残していった言葉を考えれば、寝ている可能性もあるが。
すぅ、と一度大きく息を吸い。
覚悟を決めて扉を開く。
きぃ、と軋むような物音と共に扉は開き。
普段ならばテレビやらゲームの音声が聞こえてもおかしくない玄関先には何ら音を感じず。
やはり一層、焦りが増した。
(え、何だ……?)
余計に罪悪感と言うか、恐怖心と言うか。
どう表現して良いのかは分からないが、自身への負の感情……精神的な恐れを抱え。
取り敢えずは居間へと向かおうか、と扉に手を掛け。
ゆっくりと開けば、その先。
「
「ひっ」
暗闇の中から聞こえた、良く見知った声に思わず悲鳴を上げた。
「なーにびっくりしてるんだ」
「当たり前だろ!?」
からから、と笑う声。
暗闇に目が慣れ、薄ぼんやりと見え始めて。
薄着姿の……見慣れた少女の背中が見えて。
小声で叫ぶ、という奇妙な技を繰り出してしまった。
「何真っ暗な中で待ってんだよ、銀……!」
「んー? いやさ、こういうのってある種のお約束じゃないか?」
「何だ、何に影響されたんだよお前……」
「テレビ?」
そう言う話をしているわけではないのだが。
首を傾げる銀を前に、思い切り肩を落とし。
少し待ってろ、と言い残して手洗いうがい。
多少の距離ではあるが、外に出た以上は必ずするお約束のようなもの。
当然、全員個人のマグカップやらが常備されているのは当たり前で。
(……随分と増えたよなぁ)
以前に準備しよう、と考えていた初代勇者達の分も仮に用意済み。
今度買いに行きましょう、と杏さんに誘われているのは……まあ、良いことなのか?
幾つも浮かぶ未来幻想を一度放り捨て。
暗闇の中……というのも何やら変な感じなので、電気を付けようと壁沿いに歩き出そうとして。
「あ、天理」
「ん?」
「電気は付けないでほしいかなーって」
「まぁたなんか言い出したよ……」
首だけを傾けて、此方来てくれと囁き声。
はいはいお姫様、と溜め息を漏らしながら近付いて。
そんな柄じゃないだろ、と漏れ聞こえる声に対応しながら目の前へ。
普段から此処は、此奴の専用席……とでも呼べば良いのか?
各々が好きな場所、と言うよりはある程度何処に座り込むかは固定化されていて。
俺は大体右側に銀、左側にせんちゃんが座るような挟まる位置に決まっている。
それ自体は昔から……微かに残るこの家での記憶の頃と同じ場所。
ただ、それを挟み込む同年代の美少女たちだけが以前との変化。
けれど、椅子の向きを少しだけ変えて。
彼女と向き合うようにしたのはほんの少しの気紛れ。
「……それで?」
「うーんとさ」
「おう」
「……友奈と、どうなったんだ?」
半ば予想していた通りの質問。
先程の暗闇の中で待っていたのだって、冗談交じりとは言え本心も混ざっていたはずだ。
つまりは――――銀にしては珍しく。
明確に
「どうもこうもあるかよ」
「それは答えになってないぞー」
知ってる。
「はいともいいえとも言えないだろ。
……少なくとも、俺に関わろうとするなら。 事情くらいは把握しておかないと」
だからこそ、考えていた通りの事をそのままに言えば。
……当然のように、友奈の心境を把握していたのだろう少女は。
じっとりとした目で俺を睨みつけた。
「はー、そうやって逃げてきたと」
「好きに言えよ……」
そう見られる部分があるってのは自覚してるし。
……そもそもだな。
「それよか、此方も聞きたいんだが」
「何をだよ」
よいしょ、と身体を起こす姿をただ眺め。
「……今回、お前等
皆から関係を聞いた、と友奈は言った。
つまり、三人……いや四人か?
其れ等が口を滑らした、と言うよりはハッキリと宣言したということ。
「……と言うより、我慢させていたくなかったって方が正しいかな?」
肘置きに手を掛け、未だに安定しない足で立ち上がり。
一歩だけ進んで、倒れるように俺へと凭れ掛かる。
風呂上がりの後、此処で待っていたのか。
ふわりと、家で使っている洗髪剤の香りがした。
「……って言うと?」
「色々アタシたちにも事情はあるってこと」
「お前、ここに来てそれで隠すとかズルくないか?」
「ズルくもないって」
単なる言い合い。
先程も体感した、目前に異性が居座る状況。
ただ、その関係性は現在は確かに違うからこそ。
妙な緊張なんかに襲われることもなく。
「……同性だからこそ分かる事、ってのはあるって分かれよ。 ばーか」
耳元で、擽ったくなるほどに小さく囁かれ。
そのままの勢いなんだろうか、耳に微かな濡れる感触と。
首元に顔を押し付け、ぞわりという感触とともに舐め上げられるのが分かった。
「……で、今は?」
「
……え、食われるの?
愕然とした顔。
くすくす、と笑う声。
少し前とは違う……確かに女らしくなった雰囲気と身体。
けれど。
――――多分、未だに。
関係性の根底は、変わることはなかった。
・多分一番精神安定に欠かせないのがお互い。
幕間-2で目立たせたい候補@組選別
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わすゆ組
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のわゆ組