葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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幕間2-9

 

結局、友奈の家を出たのはそれから一時間程が経ってから。

 

それまで離れる、と言ってもその距離は拳一つほどが最大で。

甘えている……と言うよりは昔を懐かしんでいると言った具合が限りなく近く。

此処まで露骨な態度を取った記憶は無かったが――――離す選択肢もなく。

多少の時間話をして帰宅した、と思いながら時計を見ればこんな時間帯。

 

(…………随分と永くを過ごしたか)

 

家につくまでほんの数分。

それなのに、外の空気は何処か澄んでいるようにさえ感じる。

 

それだけの重みを味わって。

それだけの理由を背負って。

また一つ、こうして罪を重ねたことを理解しているからか。

 

(……まあ、苦しくはないんだが)

 

寧ろ苦しんでいるのは少女達の方だと思う。

 

表立って好意を明言できない。

それに親しい好意も、現段階では何も出来ない。

身内のみ――――それも仲間内だけと限られる、今の状況。

 

すべてが終わって、その後で。

彼女達が何を望むのか……それも考えねばならないな、と。

益体もないことを脳裏に浮かべながらも、直ぐに現れた我が生家。

 

「……寝てるか?」

 

ついついそんな言葉を零してしまう。

妙に罪悪感……浮気でもしてきたかのような錯覚。

 

いやまあ……認められているとしても、だ。

してきたこと、受け入れたことには何ら変わらず。

そして未だに夜も早いのに、既に明かりが見えていないことに本能的な恐怖。

 

先に帰る前に言い残していった言葉を考えれば、寝ている可能性もあるが。

すぅ、と一度大きく息を吸い。

覚悟を決めて扉を開く。

 

きぃ、と軋むような物音と共に扉は開き。

普段ならばテレビやらゲームの音声が聞こえてもおかしくない玄関先には何ら音を感じず。

やはり一層、焦りが増した。

 

(え、何だ……?)

 

余計に罪悪感と言うか、恐怖心と言うか。

どう表現して良いのかは分からないが、自身への負の感情……精神的な恐れを抱え。

取り敢えずは居間へと向かおうか、と扉に手を掛け。

ゆっくりと開けば、その先。

 

()()()()

 

「ひっ」

 

暗闇の中から聞こえた、良く見知った声に思わず悲鳴を上げた。

 

「なーにびっくりしてるんだ」

 

「当たり前だろ!?」

 

からから、と笑う声。

 

暗闇に目が慣れ、薄ぼんやりと見え始めて。

薄着姿の……見慣れた少女の背中が見えて。

小声で叫ぶ、という奇妙な技を繰り出してしまった。

 

「何真っ暗な中で待ってんだよ、銀……!」

 

「んー? いやさ、こういうのってある種のお約束じゃないか?」

 

「何だ、何に影響されたんだよお前……」

 

「テレビ?」

 

そう言う話をしているわけではないのだが。

 

首を傾げる銀を前に、思い切り肩を落とし。

少し待ってろ、と言い残して手洗いうがい。

多少の距離ではあるが、外に出た以上は必ずするお約束のようなもの。

当然、全員個人のマグカップやらが常備されているのは当たり前で。

 

(……随分と増えたよなぁ)

 

以前に準備しよう、と考えていた初代勇者達の分も仮に用意済み。

今度買いに行きましょう、と杏さんに誘われているのは……まあ、良いことなのか?

 

幾つも浮かぶ未来幻想を一度放り捨て。

暗闇の中……というのも何やら変な感じなので、電気を付けようと壁沿いに歩き出そうとして。

 

「あ、天理」

 

「ん?」

 

「電気は付けないでほしいかなーって」

 

「まぁたなんか言い出したよ……」

 

首だけを傾けて、此方来てくれと囁き声。

はいはいお姫様、と溜め息を漏らしながら近付いて。

そんな柄じゃないだろ、と漏れ聞こえる声に対応しながら目の前へ。

 

普段から此処は、此奴の専用席……とでも呼べば良いのか?

各々が好きな場所、と言うよりはある程度何処に座り込むかは固定化されていて。

俺は大体右側に銀、左側にせんちゃんが座るような挟まる位置に決まっている。

 

それ自体は昔から……微かに残るこの家での記憶の頃と同じ場所。

ただ、それを挟み込む同年代の美少女たちだけが以前との変化。

 

けれど、椅子の向きを少しだけ変えて。

彼女と向き合うようにしたのはほんの少しの気紛れ。

 

「……それで?」

 

「うーんとさ」

 

「おう」

 

「……友奈と、どうなったんだ?」

 

半ば予想していた通りの質問。

先程の暗闇の中で待っていたのだって、冗談交じりとは言え本心も混ざっていたはずだ。

 

つまりは――――銀にしては珍しく。

明確に()()()()()()()()()、という状況。

 

「どうもこうもあるかよ」

 

「それは答えになってないぞー」

 

知ってる。

 

「はいともいいえとも言えないだろ。

 ……少なくとも、俺に関わろうとするなら。 事情くらいは把握しておかないと」

 

だからこそ、考えていた通りの事をそのままに言えば。

……当然のように、友奈の心境を把握していたのだろう少女は。

じっとりとした目で俺を睨みつけた。

 

「はー、そうやって逃げてきたと」

 

「好きに言えよ……」

 

そう見られる部分があるってのは自覚してるし。

……そもそもだな。

 

「それよか、此方も聞きたいんだが」

 

「何をだよ」

 

よいしょ、と身体を起こす姿をただ眺め。

 

「……今回、お前等()()しなかったか?」

 

皆から関係を聞いた、と友奈は言った。

つまり、三人……いや四人か?

其れ等が口を滑らした、と言うよりはハッキリと宣言したということ。

 

「……と言うより、我慢させていたくなかったって方が正しいかな?」

 

肘置きに手を掛け、未だに安定しない足で立ち上がり。

一歩だけ進んで、倒れるように俺へと凭れ掛かる。

 

風呂上がりの後、此処で待っていたのか。

ふわりと、家で使っている洗髪剤の香りがした。

 

「……って言うと?」

 

「色々アタシたちにも事情はあるってこと」

 

「お前、ここに来てそれで隠すとかズルくないか?」

 

「ズルくもないって」

 

単なる言い合い。

 

先程も体感した、目前に異性が居座る状況。

ただ、その関係性は現在は確かに違うからこそ。

妙な緊張なんかに襲われることもなく。

 

「……同性だからこそ分かる事、ってのはあるって分かれよ。 ばーか」

 

耳元で、擽ったくなるほどに小さく囁かれ。

そのままの勢いなんだろうか、耳に微かな濡れる感触と。

首元に顔を押し付け、ぞわりという感触とともに舐め上げられるのが分かった。

 

「……で、今は?」

 

()()

 

……え、食われるの?

 

愕然とした顔。

くすくす、と笑う声。

少し前とは違う……確かに女らしくなった雰囲気と身体。

 

けれど。

――――多分、未だに。

関係性の根底は、変わることはなかった。




・多分一番精神安定に欠かせないのがお互い。

幕間-2で目立たせたい候補@組選別

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