葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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幕間2-11

 

温度計を見る。

38度……の半ばを行ったり来たり。

 

――――熱で頭が上手く働かない。

 

(……一応、連絡は出来たから……。

 後は樹の様子と、学校……か)

 

額に手を当て、深い深い溜め息を漏らす。

壁に手を当て、目の前が歪む中でゆっくりと動き回る。

 

それは、私自身がしなければならないこと。

しなければならなくなってしまったこと。

使い捨ての熱冷ましシートを張りながら、それでも対して効いていないように錯覚してしまう。

 

(朝ご飯……は……包丁握るのが怖いわねぇ……)

 

かと言って、引き続き熱を出し続けている妹にさせるわけにもいかないし。

それとは別の問題もあって、現在は台所に立たせたくない。

 

……自分でも少しは、ほんの少しは自覚し始めているらしいけれど。

私の教え方が悪いのか何なのか、良くなる傾向は未だに見えないし。

 

(でも、何かは……最低でも飲まなきゃ駄目、か)

 

そもそも――――飲み物は有っただろうか。

冷蔵庫で麦茶を煮出していたのが残っていた気はするけれど。

今必要とする栄養素……或いは飲み物という意味では少し外れている気もする。

 

スポーツドリンクの類はもう置いていなかったはずで。

こうなるのが分かっていたら、昨日動ける段階である程度買い溜めておいたのに。

自分へ舌打ちをしながら、弱った身体で……頭ですべきことを纏め。

少しずつ、身体に無理をさせながら行っていく。

 

樹の調子の確認。

昨日よりは下がったようだけど、それでも熱は続いている。

 

「ごめん、お姉ちゃん」

 

「良いのよ、こういう時くらい」

 

私の額に張り付いた、自分と同じものを見て。

そんな風に謝る妹へ、私は笑顔を作れただろうか。

そして……そんな私に気付かれなかっただろうか。

 

完全に動けなくなる前に、寝床に色々と用意を重ねる。

 

空いたペットボトルに水と砂糖、塩を混ぜて。

お互いの部屋へと用意して。

何かしら固形物……消化に良いものでも食べなければ、と思うけれど。

それを用意する為の準備が、純粋に身体への負担へと変わっていく。

 

(……食べなきゃ良くならないのは……分かるけど)

 

それをするのが辛い、という時点で違和感が凄い。

饂飩だったら何杯でも行ける私が、食事自体を倦厭している。

 

だったらせめて眠らなければ、と思うのに。

寝床に辿り着くまでが、奇妙な程に遠く感じてしまう。

それでも、動き出さなければ。

でも、その前に連絡を――――。

 

(……昔だったら、お母さんがやってくれたのにね)

 

……やはり、弱っているのだろうか。

 

唐突にいなくなってしまった二人。

お父さんとお母さんのことを思い出してしまう。

 

ゆっくり、ゆっくりと壁沿いに進もうとして。

足を止めてしまって――――そのまま、壁に身体を押し付けるように呼吸を繰り返す。

 

()()()()()()()()

その際に発生してしまった被害者達。

大赦側からも出たらしい、幾人かの中の二人が……私の両親だった。

 

私達に甘い、優しい父だった。

私達に厳しい、しっかりした母だった。

 

けれど、何方も私達を愛してくれていたのは変わらなくて。

だからこそ……いなくなってしまった時に思ったのは。

 

『なんで?』

 

――――そんな思い。

 

(……思えば。 あの時に、足を止めてればこうなってなかったのかしら……ね)

 

事故に巻き込まれたから、という事だったから。

私達が大人になっても生きていけるだけの……多分それには少し足りないお金は出た。

 

けれど、家は出ていかなければならず。

親戚付き合いも、面倒を見てくれる人もいなかったから。

……そして、私は原因を知ろうとしてしまったから。

 

大赦に絡め取られ、今こうして使い走りの片棒を担がされている。

 

(……知らない方がいい、ってことも多いって勉強にはなったわねえ)

 

苦笑いが浮かび、同時に酷い頭痛を覚えて頭を抑えた。

 

精神的な疲労。

肉体的な疲労。

……そして、似たようなものを背負っているらしい後輩達。

 

彼等を見ていると、負けてはいられないという気持ちが半分。

もう半分は――――口にも出したくない、負の感情が渦巻いている。

 

(……頼れば良い、って言ってる当人が頼れないんじゃ。 本末転倒だわね)

 

唐突に大きくなり、小さくなる頭痛や胸の痛み。

其れ等が深呼吸を重ねることで治まり始めたのを確認し……動き出そうとして。

 

そんな折。

ぴんぽん、と来客を示す音が部屋に響いた。

 

「…………あれ?」

 

こんな朝から、来客?

 

……とは言っても、身体がまともに動かない。

そもそも、私――――鍵、閉めていたっけ。

 

そんな、ぼやけた脳裏に走ったちょっとした失敗。

ただ、現在で考えると……それは致命傷のように感じて。

気持ち悪さが先行する背筋に、更に一滴。

冷や汗が混ざったのが分かった。

 

(……どうしよう)

 

音を鳴らしたのなら、来客だろうか。

普段なら私……そうじゃなくても樹が直ぐに出てくれるけれど。

今の私達は、何方も身動きが正常に取れない状態だから。

 

『……先輩ー?

てんくん、鍵開いてるよ?

『……本当ね。 でも、それなら好都合かしら

 

ぐるぐると回る頭。

増していく頭痛。

くらくらとふらつく身体。

 

声も、何を言っているのかも分からないまま。

ただ、確かに。

がちゃり、と戸を開くような音と。

 

先輩!?

 

自分が倒れたような……ずるずると身体を地面に沿わせたような、鈍い感触と。

誰か、知っているような声色が……直ぐ耳元で聞こえた気がして。

 

不思議と、自然と。

意識を手放していた。

幕間-2で目立たせたい候補@組選別

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