葦原天理は巫覡である 作:氷桜
その日の晩。
先輩が無事に退院し、樹ちゃんとの話し合いを見届けた後の事。
問題無くなった旨を先生に連絡し、帰宅したのは既に夕方をとうに過ぎた時間帯。
三人で色々と話し、ついでに俺が色々と絞られながらではあったのだが。
まあいつも通りのことではあったので余り思い返さないでおく。
(……流石に、これ以上同居云々の話持ち出されたら無理だわ)
いや、それも無理か。
将来的なことを考えればそういった事も視野に入れ始める必要がある、とは言うが。
それを言い出すと一体家に何人滞在することになるのやら。
この辺り、ずっと昔だったら悩まずに済んだのだろうか。
金銭的な意味合いで、全員を抱え込む覚悟はしている。
それだけの勉強や成績を残すことは勿論。
既に自分の特異性の一つとして認識している、神々との対話云々も必要なら明かす。
……ただ、それをするにしても大赦が落ち着いてからになるのは当たり前のこと。
「……さて」
これ以上思考を迷走させる理由もない。
というより
「せんちゃん?」
「何かしら、まーくん」
彼女の部屋。
モニターやノートパソコン、そして片付けられた幾つかのゲーム機にソフト。
備え付け、と勘違いされてしまう程に重厚な黒壇の本棚にも幾らかの本が刺さっている。
俺が見覚えのある
この家の中ではやや異質より、と言い換えても良い嘗ての時代を思い返すらしい品々の中。
俺は座布団へ、彼女は座椅子へ。
座り合い、目前で見合って話を始める。
「なんで全員が見られる場所で流した!?」
「まあそうよね、先ずは其処よね」
落ち着いて話をしようと思った。
でも無理だった。
「せめて5人のグループ内で流すなら分かるけど……杏さんとかタマ先輩にも見せる必要あった?」
「今あったか無いか、だけで言うなら無いわ。
……まあ、
「え?」
「気付いてないなら良いわ。 多分そのほうが幸せでしょ」
何その言い方。
すっごい気になるけど。
ただ、迂闊に踏み込もうと思うと。
その目線の力強さと、奥に込められた……微かに残る闇の部分が増大しているように見える。
ので、一旦は口を閉ざす。
「まあそれはともかく」
「ええ」
「お陰で色々と突っ込まれてるんだけど……これどう対応しろと……?」
携帯端末の連絡アプリを開いた一画面。
今朝方に色々言っていた美森ちゃんやそのちゃんは兎も角として。
連絡用として渡していた累計四台の書き込みが定期的に続いている。
「自業自得でしょ?」
「その一言で切り捨てるのやめてくれないかなぁ……」
分かっていたことではあるけれど。
せんちゃん自身も怒りを隠しきれていない……いや、怒りか?
どっちかというと嫉妬に近い気はする。
ただ、それだけで無いのは先程の当人の言葉から察する事は出来るのだが。
じっと目を見つめていれば、頬を微かに染めて目線を逸らす。
……なんだかんだ、この辺りは昔のまま。
真っ直ぐに見つめられるのが気恥ずかしいのか、或いは昔の誰かと被るのか。
その相手を既に見知ってはいるが、具体的に名前を出すことはない。
……無言でべしべしと叩かれているような錯覚はあるが、多分気の所為。
近々……夢か何処かで何かされそうな悪寒もあるけれど、気の所為に決まってる。
「……乃木さんや上里さん達の事を考えないとして」
「うん」
目線を噛み合わせない。
つまり恥ずかしさを帯びた言葉を出そうとしているのか。
ある一線を踏み切ればこの辺を考えることはなくなるのだけど。
その一線を越えるか超えないか、という所を右往左往しているような印象を受ける。
「だったら……何で私がああしたと思う?」
故に。
今のこの質問はそれなり以上に重要性が高いのは否が応にも理解できたし。
同時に、上目遣いで見られたことで内心の衝撃が大きいのもまた事実で。
「…………えー、ちゃんと言葉の方がいいの? これ」
「言葉以外でも良いわよ?」
思わず問いかけた言葉に返った言葉。
だからこそ、彼女が望む行為はある程度以上に分かりやすく。
同時に、自分の部屋だからこそ彼女が出来ることなのだろうとも察している。
「……ねえ、せんちゃん」
「……なあに、まーくん」
物凄い……そう、物凄い言いたいことはある。
彼女自身が言い出さず、俺にさせようとする理由は分かる。
でも、けれど。
「答えたら何とかなるの?」
「元には戻らないでしょうね」
大前提、つまり『言い出す前』に戻せるのか、という確認。
それを最初から跳ね除けられる、となるとちょっと違う。
いやまあ、そういうことを抜きにしても。
彼女と共にいられる、という幸福を感じるのは間違いないのだが。
「でもね……ああ、同じことの繰り返しになるか」
はぁ、と漏らした溜息。
その理由は、多分俺は未だに気付けていないことなのだろう。
ひょっとすれば――――
「……それで?」
話を元に戻そうと、せんちゃんはもう一度呟いた。
自分の腕を、俺の方へと向けながら伸ばし。
どうしてくれるの、と小さく唇だけを揺らして呟く。
「――――」
多分、それ以上は今は何も言ってくれないのだろう。
だから、その腕の内側へと飛び込んだ。
微かな体温。
春から初夏へ、初夏から夏へ。
ほんの少しずつ移り変わる今の季節は、春着から夏着へと移り変わり始める季節。
だからこそ、なのだろうか。
服越しでも感じる薄い体躯と、けれど包まれることで感じる安心感。
ずっと昔から傍にいて、けれどこうすることは出来なかった俺達だから。
「……仕方のない子ね」
そんな、幾度目かの溜息と共に。
もっと深い、契に近い行為を交わしているのに。
――――今は、こうしているのが幸福に感じていた。
他の誰も、いないからこそ。
※西暦勇者専用部屋
千景『……と、こういう理由だから。
何をするにしても自分から踏み込みなさいよ』
杏『……く、詳しく!』
タマ『……おーい、あんずが暴走するからあんまり餌を与えるのやめてくれるかー?』
ひなた『……成る程』
若葉『……ほ、ほう!?』
(……こうなると思った。 けど、前提は理解させないとね)
活躍させたいキャラ上位二名
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若葉様
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ひなた様
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ぐんちゃん
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あんずん
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タマ先輩
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たかしー