葦原天理は巫覡である 作:氷桜
銀「今日買い物の日って言ってませんでしたっけ?」
千景「ああ……そう言えば今日だっけ」
銀(……機嫌悪そー)
連休二日目、と呼ぶのが正しいのか。
平日手前、と呼ぶのが正しいのか。
まあ何にしろ休日であるのは間違いなく。
そして、やはり予定が埋まっている日であるのも間違いない。
(……そろそろ時間か)
手元の携帯端末での時間確認。
それに合わせ、昨晩に軽くやり取りを行った通信記録へと目を通し。
駅の入口と駅前の広場との境目。
間違いはないよな、と確認をした上で少しだけ昔を懐かしむ。
まだ小学生だった頃、まだ三人との関係性が曖昧だった頃。
こうして彼女達と時間を合わせ、遊びに出る事も無くはなかった。
専らその行き先はイネスで、そして銀の身体が不自由になる前の事。
思い出してしまうと、今の姿を重ねてしまうという悪影響があったりもするが。
(……良くは分からないけど、
自己治癒の範疇では回復を続けている。
その速度も早く、リハビリの一部だって既に始めているからこそ。
かなりゆっくりと、そして誰かが付いている時に限れば。
歩く練習を家ですることも許可が降りた銀ではあるが。
二柱曰く、
『天の神……その使いに負わされた事による悪影響だろうな』
『私達は一度敗北している、という事実があります。
故に……特に近年負ったその傷に対して治療が進まないのだとは思うのですが』
……とかで、
ただ、銀当人だけは何となく何かを理解しているような節を見え隠れさせている。
『多分なんだけど……あー、何だろ。 勘と言うか、気のせいかもしれないけど。
何かを待ってる……気がする。 アタシが、力を取り戻す切っ掛けみたいなの』
何処の英雄様だよ、と内心呆れたのは顔に出さなかった。
ただ、同時に銀らしいとも感じていた。
予感はあった。
もし力を取り戻したとして、勇者としての媒介……携帯端末を失った彼女がどうするのか。
その答えの一つとして、神々に示されていた幾つかの疑問に結び付く答え。
(……勘違い、気の所為、思い込み。 そんな答えなら良いんだけどな)
生憎と――――この世界は決して優しくはなく。
一枚皮を捲れば、ドロドロとした欲望と血に塗れている。
そんなもの、何処の世界でも継がれ続けているのだろうけれど。
特に……生贄としての側面さえも背負わされた、勇者の光と影を知ってしまえば余計に。
はぁ、と溜め息を漏らしながら硬質に覆われた頭上へと目線を向ければ。
ぴろり。
手元の端末から微かに音声と、振動が手に伝わってくる。
「ん?」
送り主は……ああ、待ち合わせの相手か。
もうすぐ着くけど何処にいますか……ほんほん。
(駅構内入口のとこにいますよ、と)
特に変な……
ただ、それにしてはちらちらと目線が刺さるのが疑問。
何だろう、何か背中にでも張り付いてたりするのか。
「あ、いました」
そんな声がしたのは、背中を見ようとくるくる回っているときだった。
駅の外から真っ先に此方を見付け、小走りで近づいてくるのを目視したのは良いのだが。
徐々に変な顔……というか疑問を浮かべながら近づいてくるのはやめて欲しい。
いやまあ、変な行動してたのは認めるけれども。
「あの、何を……?」
「……背中になにかついてたりしない?」
「しませんよ?」
どういうことなんですか、と問い掛けてくるのは。
学年としては同じで――――けれど、実年齢としては一つ上に当たる女性。
以前から何度も言われていたし、実際に俺も了承したからこそ。
二人で時間を合わせて動くことにした、助けたうちの一人。
金の髪を長く、腰の辺りまで伸ばしたスタイルの良い少女。
「いや……さっきから妙に視線が集まるからさ。 杏さん」
「……服装のせいだと思いますよ? 後、杏でいいですって」
そんな変な服装でもないんだけどなぁ。
外出用の一張羅、という意味合いではそれに近いのだが。
そう言うと妙な目線が増すのは何故なのか。
「これが?」
「何で甚平なんですか?」
袖を伸ばして全体図を見せれば。
わぁ、なんて言葉を口にしながらも珍しいものを見る目が強い。
なんだかんだでそこそこの回数見せてるとは思ってるんだが。
「いや、俺の普段着の殆どがこういう感じ何だって知らなかったりします?」
「……殆ど、とまでは」
毎回色合いが違ったり微妙に変えてるんだけどなぁ。
呉服、とまで行くとゴテゴテしすぎるから着込もうとは思わないんだけど。
「で、でも」
「ん?」
前にも似たようなこと言われたな……と。
アレは確か制服を買いに行ったときだったか、そんな事を思い出しながら自分のズレを考え込み。
深く深くへ沈み込みそうになる悪癖を披露しそうになりつつも。
「……お出かけするつもりでは、いてくれたんですよね?」
「そりゃ……まあ。 唯の買い物くらいのつもりだけど」
誰と。
何の為に。
何人で。
そういった、本来含んでいたであろう意味合いを全て除外して口にする。
けれど。
何となく、同学年にも同い年にも捉えるのが難しいと思ってしまう彼女。
そんな彼女の横顔……辛うじて見える髪の合間から覗かせる色合い。
それは、伏せた言葉を拾い上げて理解されているような悪寒を感じさせた。
「……私は、デートのつもりでしたよ?」
「……ひゅは?」
見なかったことにしよう。
出かける為の準備がまだ掛かる二人の分まで買うのなら、そこそこ歩く必要だってあるから。
動こうか、と提案しようとした矢先。
微かに漂わせる、香水のような香りが鼻に届きながら。
そんな言葉が聞こえて、思わず変な言葉が溢れて落ちた。
「行きましょうか。 伝言もあるんですよ?」
手を伸ばされ、握られて。
――――されるがままに、歩き始めた。
活躍させたいキャラ上位二名
-
若葉様
-
ひなた様
-
ぐんちゃん
-
あんずん
-
タマ先輩
-
たかしー