葦原天理は巫覡である 作:氷桜
向かった先は以前にも、そして最近でもよく出かける場所。
幼い頃から見知っており、商店街では見かけない商品も並び。
そして俺にとっては周囲の視線が刃のようにも変貌する大型店舗。
「……どっちの色がいいかなぁ」
棚に並ぶ陶器、或いはプラスチック製のマグカップなどの食器を見ながらも。
己の好みを考えながら、楽しみながらに選んでいく杏さん。
片手にはそれなりの重さを示す、手に軽く食い込む程の重さのビニール袋。
中身は大型のものと……手のひら大の大きさの本が何冊か。
『最初は軽いものから』と。
そして、余り来る機会があるわけでもないからこの機会に、と。
俺が都合している生活費の幾らかを費やして買ったらしい本は、料理の為のモノと。
そして……アレは恋愛小説とかそういう種別の本か。
(何が売れてる、とかの情報全然仕入れてないなぁ……)
甘ったるすぎるのは個人的な好みでもなく、ついでに言うと
本を読む、という事象自体はそのちゃんや美森ちゃんからの影響もあって続けているが。
個人的には乱読派に属してると思ってるから、勧められれば大体は読むけれど……。
自分からは手を伸ばさないというか、まあ。 或いは話題にしたい時に借りてくるくらいか。
それに対して最近の二柱の変な趣味と言うか、悪趣味。
日本神話、古事記、後は……まあ諸外国のも含むか。
神話を題材にした作品を見て/読んで、それを昔の元ネタ……当人と比較して楽しんでいる。
神でもなければ出来ることでもない所業で。
たまぁにそれを横で見学していると、態々解説してくれることもあるのだが……閑話休題。
「これ、どっちの色合いが良さそうですか?」
指差したのは何方も陶器のマグカップに近い飲み物用。
片方は青と白が交互に縞のように彩られた入れ物。
もう片方は花びらをイメージしたのか、幾つか桃色の点が打たれた入れ物。
「俺に聞くの?」
「はい。 これ、
個人的に手が伸びそうになったのは前者。
どうしても青色が絡んでくると、そっちに惹かれてしまう好みがあったりするわけだが……それはそれ。
今日買いに来ているのは以前からの要望があったから。
つまり、互いの家への互いの持ち物を買うため。
ただ、好みまで聞かれると思ってなかった……ってのは言い訳か。
「……分かってて言ってるでしょ?」
それにしても、この場所でその言い方。
普段なら天理君とか様だとか、普通に名前で呼ばれる相手からの一種の愛称ではあるが。
亜耶から呼ばれる『勇者様』と同じく、そんな仰々しい存在でも無く。
ついでに言えば
「……どうでしょう?」
意図して隠している、というわけでもなく。
どう見えますか、と問うような形で。
互いにしゃがみこんで店の商品を覗き、前髪を払いながらの微笑み。
妙に心が揺らされるのは、多分俺が少女達に勝てない理由の一つなのだろう。
むぐ、と発しようとした言葉を塞いでしまい……それを見てもう一度小さく笑う。
妙に手玉に取られているような――――少しだけ、彼女が変わっているような。
そう伺うのも失礼だと思えてしまうほど、今の杏さんに抱く印象は変動している。
今だって、ほら。
俺と同い年か、一つ上くらいだろうか。
友人同士で遊びに来ていたのだろう、俺は見知らぬ男が彼女に見惚れて目線が釣られている。
「……参った。 けど、出来れば大声ではやめてくれないかな」
「どうしてですか?」
「嫉妬で殺されそうだからですけど?」
故に、早々に敗北を宣言し。
せめてもの交渉へと移動する。
多分勝ち負け、で定義すること自体何かがズレているのだろうが。
俺にとってはそれは『敗北』として受け入れたほうが楽になれる状態。
「……嫉妬?」
いや、其処で首を傾げられても。
色恋沙汰に自分を余り置いたことがない人間特有の疑問。
「今、どう見られてるか気付いてないのですかお嬢様……?」
……この事自体に、彼女は気付いていないのだろうか。
浮いている、というには語弊や悪意がある。
何というか、
以前のような強引さは影を潜め。
けれども(恐らく)持ち合わせていた好奇心や距離感はそのまま、色々と接される。
だからこそ、周りの目を集めてしまうのだが。
「……だったら、一つ。 天理くんに秘密教えちゃいますね」
「嫌な予感がする」
疑問に対しての答えではない答え。
だからこそ漏れた言葉に、心底面白そうに微笑みながら。
「……女の子は。 誰でも、いつでも。 たった一つだけ、魔法が使えるんですよ?」
耳元で聞こえた――微かに甘さを含んだ――声に、背筋が軽く震えた気がした。
元々口が余り上手いわけでもないからこそ、色々と失敗を重ねて今の関係性を構築してきた訳だが。
そんな中でも、初代勇者達……特に封印から解き放った彼女達との間柄は何とも言い難い。
俺が基本的に繋がってこれたのは身近な相手。
もう少し踏み込んで言うなら、『会いに行くこと』に気兼ねをすることがない相手達のほうが多かった。
いやまあ、東郷とか乃木とか。 家まで行くには相応の勇気が必要だったりしたのは扠措いて。
此処まで『女の子』らしい子と相対するのは、結局初めて。
だからこそ――――なのだろうか。
奇妙な程に目を引かれ、そして厄介だと思う反面に離れようとは思えない。
「はい、どっちにします?」
「……なら、此方で」
心の強さを知り。
愉快な性格を知り。
また違った一面を知った。
だから、次は何を見せてくれるのだろうと。
――――そう思ってしまっているのかもしれない。
デートだと思っている、と彼女は言った。
だから、空いた手が
……離そうとしないのは。
どういう心境なのか……口にせずとも、分かってしまっていた。
活躍させたいキャラ上位二名
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たかしー