葦原天理は巫覡である 作:氷桜
移動する先までの距離は五分。
けれど、要した時間は既に三倍を超えている。
それ程にノロノロと、互いを支えながらの道程。
もし誰かが通り過ぎれば病か、或いは何か探しものでもしているかのような亀の歩み。
それ程までに、あの一瞬の疲弊は重く感じ。
隣にせんちゃんがいなければ、もしかすれば道路だというのも忘れて横になったかもしれない。
「……予感、当たっちゃったわね」
特に足か。
震えの様相を見せていながら、上半身では意識してそれを抑えている。
此方に気を使っている――――という側面は間違いなく存在し。
多分それだけでなく、自分に言い聞かせている部分も多く存在しているのだろう。
せんちゃんの過去……『自己暗示』を必要としていたと言っていた過去。
その頃と似たような、表面上を取り繕うための準備。
それが、今は完全には出来ていない。
「……無理しないで」
「無理……じゃないけど。 少し、時間は掛かるかも」
ふらり、と揺れる互いを支え合いながら。
目的の場所まで向かいながら。
ぼそぼそ、と呟き合う状態。
精神を安定させるため。
感じたことを共有するため。
大きく大別すればその二つの理由のためではあるけれど。
『……ううん』
『高嶋の?』
『ああうん。
……私がバーテックスを倒した時と、
神様本体が動いているところとか……のせいなのかなぁ?』
編みぐるみ――――俺の精神と繋がった意思疎通の中。
三柱もまた、お互いが感じたことを告げあっている。
その中で唯一と言って良い、この近年で直視したことがある少女の発言。
……勘違いと割り切ってしまうには、少しだけ事情が重すぎる。
「ゆっくりでいいよ……俺も、ちょっと飲み込むまでに時間掛かりそうだし」
「……うん」
普段の気張った……いや、表に出している状態とは違う。
二人きり、
最近では、銀を含めた三人の時に零し始めたその表情。
不安そうな内面を隠すこと無く、何かに寄りかかろうとする幼い女の子としての格好。
――――いつかの、友奈のような。
向こうの世界で聞いた、たかしーの過去のような。
内側に沈むことを選んだか、外側に仮面を作ることを選んだか。
その差異くらいしか無い……痛みを抱えた顔色に。
何も言わずに、肩を貸しながらに歩く道中。
ありがとう、と言葉が聞こえた。
此方に寄り掛かる重みが微かに増して。
腕に寄り添うように、足取りを支える土台のように共に歩く。
(……唯の確認、一瞥しただけなんだろうが)
何かを探している……というのでもないと思う。
もしそうならとっくにバーテックスを遣わしている筈で。
奉火祭、という贄の儀式を知る俺自身の考えからしても……。
天の神が一方的にその約を破るとは思わない。
だからこそ、浮かぶとすればそれを破るに値する理由。
或いは、
その事実があるとすれば……大赦の奥深く、沼よりさらに深い暗黒の中。
事実の断片を知るだけでも、恐らくは抜け出せなくなるだろう思考の先。
(……探る、にしても覚悟がいるな)
まず間違いなく、俺程度の器では無理。
家としての力、そして個人としての才覚。
その何方も併せ持つ……彼女達に話を持ちかければ別だろうが。
そうすること自体に(今更ながらに)恐れを抱く俺もいる。
(……そのちゃん、若葉さんにひなたさん、か)
――――どうするべきなのか。
はぁ、と一度溜息を吐き出せば。
口にせずとも、腕を更に胸元に引き込むようにして。
無言のままで問い掛けてくるせんちゃんの温もりに、少しだけ癒やされながらも。
こつん、と小石を蹴飛ばした先。
曲がり角を折れ、一軒家がぽつんと存在する土地に足を踏み入れ。
ほんの拳一つ分だけ、せんちゃんが腕から離れるのを感じながら。
荒い息を零しながら、それさえも何処か色気を交えたひなたさんと。
雑草が生えた地面に二人、片足を付けながらに並んでいる姿が視界に入った。
ああ、と漏れたのは隣からで。
そうだろうな、と思ったのは俺。
言葉に出たのか、そうでないのか。
そんな小さな差は有りつつも、抱いた感想……思ったことは互いに同じ。
「……乃木さんに上里さん」
「…………ああ」
同じものの影響を受けたのだろう。
同じものを見たのかどうかまでは分からなくても。
若葉さんは――――その本体を見てはいないはずだが。
たかしーと同じく……そしてその後までを生き延び。
そして同時に、
受ける影響の大きさは恐らく、俺達の比ではなく。
けれど今もこうして意識を保っているのは、事前対策の結果だと俺は思う。
いや……
「二人も、見ましたか?」
「ああ、見た。 ……見られた、という方が正確だろうがな」
何を、何に。
そういった主語を省くことで、向こうから再度覗かれる危険性を少しでも下げる。
「……ということは、千景さんに……天理くんも、ですか?」
ほんの少し、僅か程度に滲む奥底の感情。
片方には懐かしさ、親しみ。
片方には……熱、に似た何か。
その根幹原因、理由を聞かされているから気にしないようにしながらも。
「俺達の場合は……神が神なので余計にかもしれません。
若葉さんに、ひなたさんは――――」
「
「……ひなた達の場合は、神樹サマとの結び付きの強さ由来もあるんでしょうが。
若葉さんは……自分でも分かりますよね?」
にっこりとした笑顔で。
隣にせんちゃんがいるのを分かっていてその態度をしたからか。
少しだけ背筋に寒さを感じた気がするが――――まあ、うん。
これも俺が背負うべきもんなんだろ畜生。
ああ、と頷きつつも……ひなたとせんちゃんへの視線を行ったり来たりさせている。
流石に可哀想だし、俺もこのままずっと見ていたくもないし。
「――――とりあえず、中……かアパートの部屋で話しません?
外でする話でもないでしょうし」
万が一、誰かに聞かれていた時を考え敬語を使いながら。
恐らく内側に行ったらそれも消えるんだろうな、と理解しながら。
そうしよう、と連れ合って……玄関口へと、歩みを向けた。
活躍させたいキャラ上位二名
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若葉様
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ひなた様
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ぐんちゃん
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あんずん
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タマ先輩
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たかしー