葦原天理は巫覡である   作:氷桜

167 / 249
幕間2-22

 

移動する先までの距離は五分。

けれど、要した時間は既に三倍を超えている。

 

それ程にノロノロと、互いを支えながらの道程。

もし誰かが通り過ぎれば病か、或いは何か探しものでもしているかのような亀の歩み。

 

それ程までに、あの一瞬の疲弊は重く感じ。

隣にせんちゃんがいなければ、もしかすれば道路だというのも忘れて横になったかもしれない。

 

「……予感、当たっちゃったわね」

 

特に足か。

震えの様相を見せていながら、上半身では意識してそれを抑えている。

 

此方に気を使っている――――という側面は間違いなく存在し。

多分それだけでなく、自分に言い聞かせている部分も多く存在しているのだろう。

 

せんちゃんの過去……『自己暗示』を必要としていたと言っていた過去。

その頃と似たような、表面上を取り繕うための準備。

それが、今は完全には出来ていない。

 

「……無理しないで」

 

「無理……じゃないけど。 少し、時間は掛かるかも」

 

ふらり、と揺れる互いを支え合いながら。

目的の場所まで向かいながら。

ぼそぼそ、と呟き合う状態。

 

精神を安定させるため。

感じたことを共有するため。

大きく大別すればその二つの理由のためではあるけれど。

 

『……ううん』

 

『高嶋の?』

 

『ああうん。 

 ……私がバーテックスを倒した時と、()()()()気がするんだよね。

 神様本体が動いているところとか……のせいなのかなぁ?』

 

編みぐるみ――――俺の精神と繋がった意思疎通の中。

三柱もまた、お互いが感じたことを告げあっている。

 

その中で唯一と言って良い、この近年で直視したことがある少女の発言。

……勘違いと割り切ってしまうには、少しだけ事情が重すぎる。

 

「ゆっくりでいいよ……俺も、ちょっと飲み込むまでに時間掛かりそうだし」

 

「……うん」

 

普段の気張った……いや、表に出している状態とは違う。

 

二人きり、()()()()()()()()()()()間柄の相手にだけ見せる表情。

最近では、銀を含めた三人の時に零し始めたその表情。

不安そうな内面を隠すこと無く、何かに寄りかかろうとする幼い女の子としての格好。

 

――――いつかの、友奈のような。

向こうの世界で聞いた、たかしーの過去のような。

 

内側に沈むことを選んだか、外側に仮面を作ることを選んだか。

その差異くらいしか無い……痛みを抱えた顔色に。

何も言わずに、肩を貸しながらに歩く道中。

 

ありがとう、と言葉が聞こえた。

此方に寄り掛かる重みが微かに増して。

腕に寄り添うように、足取りを支える土台のように共に歩く。

 

(……唯の確認、一瞥しただけなんだろうが)

 

何かを探している……というのでもないと思う。

もしそうならとっくにバーテックスを遣わしている筈で。

奉火祭、という贄の儀式を知る俺自身の考えからしても……。

天の神が一方的にその約を破るとは思わない。

 

だからこそ、浮かぶとすればそれを破るに値する理由。

或いは、()()()()()()()()()()()

 

その事実があるとすれば……大赦の奥深く、沼よりさらに深い暗黒の中。

事実の断片を知るだけでも、恐らくは抜け出せなくなるだろう思考の先。

 

(……探る、にしても覚悟がいるな)

 

まず間違いなく、俺程度の器では無理。

家としての力、そして個人としての才覚。

その何方も併せ持つ……彼女達に話を持ちかければ別だろうが。

そうすること自体に(今更ながらに)恐れを抱く俺もいる。

 

(……そのちゃん、若葉さんにひなたさん、か)

 

――――どうするべきなのか。

 

はぁ、と一度溜息を吐き出せば。

口にせずとも、腕を更に胸元に引き込むようにして。

無言のままで問い掛けてくるせんちゃんの温もりに、少しだけ癒やされながらも。

 

こつん、と小石を蹴飛ばした先。

曲がり角を折れ、一軒家がぽつんと存在する土地に足を踏み入れ。

ほんの拳一つ分だけ、せんちゃんが腕から離れるのを感じながら。

 

()()()()()()()運動着姿の若葉さんと。

荒い息を零しながら、それさえも何処か色気を交えたひなたさんと。

雑草が生えた地面に二人、片足を付けながらに並んでいる姿が視界に入った。

 

ああ、と漏れたのは隣からで。

そうだろうな、と思ったのは俺。

 

言葉に出たのか、そうでないのか。

そんな小さな差は有りつつも、抱いた感想……思ったことは互いに同じ。

 

「……乃木さんに上里さん」

 

「…………ああ」

 

同じものの影響を受けたのだろう。

同じものを見たのかどうかまでは分からなくても。

 

若葉さんは――――その本体を見てはいないはずだが。

たかしーと同じく……そしてその後までを生き延び。

そして同時に、()()()()()()()()()()唯一の勇者。

 

受ける影響の大きさは恐らく、俺達の比ではなく。

けれど今もこうして意識を保っているのは、事前対策の結果だと俺は思う。

いや……()()()()

 

「二人も、見ましたか?」

 

「ああ、見た。 ……見られた、という方が正確だろうがな」

 

何を、何に。

そういった主語を省くことで、向こうから再度覗かれる危険性を少しでも下げる。

 

「……ということは、千景さんに……天理くんも、ですか?」

 

ほんの少し、僅か程度に滲む奥底の感情。

 

片方には懐かしさ、親しみ。

片方には……熱、に似た何か。

その根幹原因、理由を聞かされているから気にしないようにしながらも。

 

「俺達の場合は……神が神なので余計にかもしれません。

 若葉さんに、ひなたさんは――――」

 

()()()、です」

 

「……ひなた達の場合は、神樹サマとの結び付きの強さ由来もあるんでしょうが。

 若葉さんは……自分でも分かりますよね?」

 

にっこりとした笑顔で。

隣にせんちゃんがいるのを分かっていてその態度をしたからか。

少しだけ背筋に寒さを感じた気がするが――――まあ、うん。

これも俺が背負うべきもんなんだろ畜生。

 

ああ、と頷きつつも……ひなたとせんちゃんへの視線を行ったり来たりさせている。

流石に可哀想だし、俺もこのままずっと見ていたくもないし。

 

「――――とりあえず、中……かアパートの部屋で話しません?

 外でする話でもないでしょうし」

 

万が一、誰かに聞かれていた時を考え敬語を使いながら。

恐らく内側に行ったらそれも消えるんだろうな、と理解しながら。

()()()()()()()()()()()()

 

そうしよう、と連れ合って……玄関口へと、歩みを向けた。

活躍させたいキャラ上位二名

  • 若葉様
  • ひなた様
  • ぐんちゃん
  • あんずん
  • タマ先輩
  • たかしー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。