葦原天理は巫覡である 作:氷桜
私にとって、葦原天理くんという少年は。
ある意味気が合って。
ある意味対立して。
そういったことを、自然とできる友達だと思っていま
あの日……銀に連れられてイネスに初めて向かった時。
入口の傍でもう待機していたのが彼。
顔を見て、ぴりりと何かが通じるような感覚があって。
それは彼の側も同じようで、お互いに首を捻っていた――――そんな、始まりでした。
自己紹介を終えて。
親しげに、余り見せないような顔で話す
(ああいう知り合いがいるんだ)
そんな風に思った、筈。
そんなことを、思ってしまって。
心の中で心頭滅却、と呟きながら。
写真を撮っていた時だってそう。
二人が楽しそうに
私がカメラで何枚か撮影し始めても、不思議がるだけで。
否定も肯定もせずに、そういうものなんだと受け入れてくれるだけ。
(ああ、でも何枚か分けて欲しいとは言っていましたね)
あれだけ楽しそうにしている二人でも、写真を持っていない。
その間柄に踏み込むには、未だに何も知らなさすぎて。
口元だけを少し歪めた笑い方に、どうにも引っ張られていて。
寂しそう、と思ってしまったのは……多分、自分に似た部分を無意識に探していたから。
その横顔を、気付けば追っていました。
私の髪色……彼と良く似た黒、
『大したものじゃない』と謙遜しながらも、差し出した贈り物。
『友達になった記念品』として受け取ったそれ。
家で、鏡の前で髪を結んでみた時。
その後も、時折端末で連絡をしたり。
四人で集まって、他愛のない話をしたり。
勉強……将来学ばなければいけないとは言え、敵性言語の予習をしたり。
お役目の為の修練の後、それを待っていたような彼を交えて夕ご飯を食べたり。
二人の都合がつかなかった時には、彼が聞きたいと言った嘗ての海軍軍艦に関して布教したり。
少しずつ、少しずつ。
知らなかった相手から、知る相手へと変わっていきました。
そして、それは妙な程に気が楽で。
多分、銀もそのっちも……天理くんも。
各々が、各々の感じる通りに調子が上向きになっていく日々。
鷲:『でしたら、次の時には牡丹餅を作っていきますね』
天:『なら飲み物は俺が淹れるよ。 お茶の葉だけ用意しないとな』
園:『だったら~、私の家の使う~?』
銀:『ぇ、だったらアタシどうしよ……何か探して持っていこうかな……』
美味しい、と喜んでくれる顔。
美味しい、と答えれば少しだけ嬉しそうな顔。
家族しか登録していなかった連絡先。
気付けば知り合い/友達が三人も増えて。
「■■■■」だった、私から。
「鷲尾須美」という名前に、漸くなれた気がして。
毎日が、少しずつ楽しくなっていた――――そんな日。
「お役目」が急な雨で無くなり。
そのっちのお誘いでそのっちの家にお邪魔して、色々遊んでいた時。
「どうせ天理も暇してるだろうし声掛けてみる?」
「てんくん? 呼ぼう呼ぼう~!」
そんな二人の思い付きで彼を呼ぶことになって。
来るまでの間で、負けたほうがそのっちの選んだ服を着る、という
あっさりと負けた銀が普段とは違う、女の子らしい服装に変えられたり。
私も負けて、何故持っていたのか分からない……足元が見えてしまうような服に変えられたり。
それを見て、そのっちが妙に興奮したように「ビュオオオオオ」なんて言い出したり。
それなりの時間が経過して。
少し待っても、彼が来ず。
もう少し待っても、連絡もなく。
二人が……正確には銀が何度目かのトランプで負けて。
奥の方から取り出した、ヒヨコの格好の着ぐるみを着せられそうになっているのを横目にしながら。
「ちょっと、見てきます」
「ちょ、須美! 助けて!」
「駄目だよ~。 ミノさんは私に負けたんだからさぁ~?」
「やだ! 流石にこれは恥ずかしいって!」
助けを求めているのを見送りつつ。
玄関先……門の前で、傘を差して佇んで待ってしまっている。
こんなことをしなくても、直ぐに来るだろうと分かっているのに。
こんなことをしなくても、
自分でも良く分からないままに、衝動に背を押され暫し立つ。
「ぁ」
傘を差す、私とほぼ変わらない背丈の少年の姿。
少しずつ近付いてくるそれの、傘の内側を認めて。
「遅いです!」
気付けば、自然にそんなことを叫んでいた。
何故だろう。
考えても、答えは出ないのに。
こんなところで何をしているのか。
貴方を待っていました。
何故?
――――罰を受けたくなくて、と少しだけ嘘を交えて。
こうして話していると、落ち着きが取り戻せる。
くしゅん、とはしたないけれどくしゃみをしてしまって。
ごめんなさい、と謝りながらに中へと二人で入ろうとして……。
「それは良いけど、鷲尾さんは身体濡れてるしそれ以上冷やすと良くない」
そんな声が背中から聴こえて。
雨の中で、水滴に打たれたままで振り返ってしまう。
「風邪とかの大問題になるよりは良いでしょ」
顔を赤くして、目を逸らしながら。
今の、私の濡れた姿がどういう状態なのかに気付いて。
反射的に、身体を両手で覆ってしまいながら。
「俺からもそのちゃんに言ってみるし。
今の鷲尾さんの身体、
――――自分だけのもの、じゃない?
なら、誰の?
鷲尾家の、須美としての?
そのっちや銀と同じ、『勇者』としての?
ひょっとして…………■、の?
ぽん、と顔に熱が昇るのが分かった。
恥ずかしくて、顔を見るのも出来なくなった。
ただ、心配して言ってくれた一言というだけのはずなのに。
その言葉がぐるぐると回り続ける。
「――――天理、くん」
「ん?」
言った当人は、何も気付いていない。
それが、ほんの少しだけ私には気になった。
「……私のことも、須美、でいいですよ」
「え、なんで急に?」
「他の二人は、名前だったから」
混乱しながら。
混乱しているから。
言うべきではない時に、関係ないことを口にする。
「私も、
気付いていなかったこと。
気付いてはいけなかったこと。
多分、私は――――。
彼から、
*変更点
・ガッチガチに頑固なのは原作通り。 その御蔭で知り合いは二人のみ。
・主人公の評価が上向きなのは、初対面時点で『神樹館』『勇者』『鷲尾』の彼女の当時の根幹になる部分全てに接しておらず、
且つ自身の身体を変な目で見なかったから。
・「完全に関係ない一般人」としての始まりだったのが大きい。
・趣味を否定せず、寧ろ受け入れてくれた事で評価上昇。
・話も所々噛み合い、話が長引く海軍系も嫌な顔せずに聞くので更に上昇。
・紳士的(男子的)な部分がトドメ。
・『鷲尾』という名前から来る無意識的な重圧を完全に気にせず、普通に相手してくれているという部分も加味して既に好意の芽生えは始まっていました。