葦原天理は巫覡である 作:氷桜
少しずつ湿度が増し始める月。
大降りの雨はなく、けれど晴れ間が見える日もあまり無く。
朝方や夕方に短時間だけ降り、そしてすぐに止む。
そんな事を繰り返している、六月に入ったばかりの放課後。
「本当に此処で良い訳?」
「そりゃ、本当なら我が家とかのほうが確実ですけども」
部室の入口に手書きで『会議中』と書いた張り紙が一枚。
つい先程まで聞こえていた、通り掛かりの声は消え。
遥か遠く、何処かから楽器の音色が響いて聞こえている。
「色々建前作るのに此処のほうが良いと思うんですよ」
「あー……まあ、アタシはあんまり気にしないけどねえ」
いや、気になるかも。
そんな事を言いつつ首を振り。
この部屋に残った、俺と先輩を除いた
笑っている。
普段通りの微笑を浮かべている。
少しだけむくれている。
三者三様なのに、どうしても恐怖を感じるのは笑みの二人。
今回、銀が混ざることになったのは単純な話。
先輩に
……まあ、個人的にも。
これ以上銀だけを省いて話を進める、と言うのは心が痛むことだから丁度良かった。
「三人が戻る前に始めましょうかね」
「……視線を無視できるところだけは尊敬するわ、ホント」
この場にいないのは未だ知らない一人と隠し玉。
そして、本来はこの学校に所属していない幼い一人。
前の病のことがあってから、やってくるようになっていた少女ではあったが。
未だに小学校の友人との縁が切れるわけでもなく、来る時間はやはりまちまち。
ただ――――ある時間を過ぎれば確実に顔を見せるようになっていたから。
全員が顔見知りだし、挨拶や会話はそれなりに行っている此処最近。
そして……大赦から命じられている一人でもある以上。
先ずは先輩の案件を済ませてから、という形で……せんちゃんに引率して貰っている。
今は学校周りで猫探しに駆け回っているはず。
「てんくんだし」
「もう諦めてます」
「矯正する時間が最近……」
明らかにおかしい発言が一つあったことは気にしない。
無視する。
多分気にしたら真面目に対応される。してくる。
そんな予感というか確信が脳内をぐるぐると回っている。
「……いいの、あれ」
「話始めません?」
心配されているのは分かるのだが。
互いに現状が貴重な時間というのは分かっているのだろうか。
多分、そんな事を口に出してしまえば
(唯でさえ、今月は目線と誘惑が強いんだし……)
今だってそう。
じーっと見られているのが分かるから、背中に冷や汗を残しながら先を促す。
「……まあ、いっか。 何かあったら頼りなさいよ?」
立場が学校での先輩後輩から、この世界の立ち位置に移り変わる前に。
目の前の
「はい」
「うん。 じゃ、改めて……って言うか、此方からお願いする部分が大体だと思うんだけど」
手をぱん、と。
一度音を立てることで区切りとし。
知識を持つもの、持たないもの。
(どうでもいい)力を持ってしまっている側と持たない側。
そんな形に分かれてしまった、話を始める。
「アタシが葦原達に協力するとして……大赦側からの干渉は無くなると思って良いわけね?」
まずは大前提。
立ち位置を『大赦』から『俺達』に切り替える以上。
それが継続してはなんの意味もないし、更に先輩の立場が苦しくなるだけ。
「無い……そうですね、向こうが大手を振って何かを指示することはなくなると思います」
「干渉……っていうのがどの程度かにもよるんよ、ふーみん先輩」
それに対し、反応するのは俺とそのちゃん。
何の呪いかは知らないが、俺以上に年齢を重ねた葦原家は存在しないからそれなりの発言権を持つし。
そのちゃんはそれこそ次代の乃木家を継ぐ存在。
だからこそ、ある程度以上に内面を知り得ている。
……というより、俺よりも考えていることは絶対に深いと思う。
教師と生徒、という関係性を持つからなのか。
安芸先生とは未だに繋がっているらしいし。
全く関係ないところ、例えば俺と亜耶の会話であってもたまぁに揶揄する言葉を挟んでくる。
思っている以上に手は広い……からこそ、
「ちょっと、本当に大丈夫?」
「でも~……私の家関係として引き込むよりは、てんくんのほうが理由は付けやすいよね~?」
「
無論、不安そうな表情が拭える訳では無いが。
まず間違いなく払い除けられる二大名家の当主直属、とまでは行けない理由。
その大きな要因は、実の娘も同じく勇者であるという部分。
恐らく、後ろ盾を持たずに……けれど勇者としての資格を持つ、と言うだけでは。
だからこそ、引き込むとするなら不安定な部分を踏まえて俺の家系……という形に落ち着く訳だ。
互いに利点を持つから所属する。
力を貸し合う。
単純な友情とか、親愛とか。
そういった関係ではない、大人同士が最も理解してしまう関係性を結ぶ一つの理由。
「でもね、天理くん」
「ん?」
「……周りから、先輩がどう見られるかっていうのと。
天理くん自体がどう見られているか、ということを踏まえてそうするのよね?」
……あー。
それも話さないと不義理だよなぁ。
「え、なにそれ」
「単純な話、ふーみん先輩を手元に加える理由の話かなぁ。
実際の理由じゃなくて、
亜耶のことや三人のこと。
同居している少女たちを含め、俺の評価は……まあ、『女好き』とかそっちに偏っている。
昔からの会話を注意深く聞いていた相手なら兎も角。
そうでもない、余り接したことのない相手に対しては仮面のように役立っているのも事実。
ただ……まあ、現状。
言い方は悪いが、金銭で支援できる見目麗しい少女を自分達の近くに寄せる行為。
それがどう見られるかと言えば、必然――――。
「多分、相応に
下手をすれば……大赦に関わる限り、恋愛関係は一切見込めない……って感じか……?」
「ミノさんだけじゃ飽き足らず、って口さがない人は言ってるらしいよ?」
「なにそれ知らない」
「アタシにまで被害が飛んできてるんだがどういうことだ園子」
その言葉を聞いて、少しだけ顔色が変になるのが分かる。
少しだけ赤く……何かを想像したかのように。
けれど、距離を取ったりする様子はなく。
「……言われるだけ、よね?」
「はい、まあ」
それなら、まぁ。
仮に――――。
そんな幾らかの言葉を零すのを、目前の俺だけが聞き届けた。
「なら、他に選択肢もないでしょうし……」
改めて宜しくね、
そんな、万が一の対策のはずの話。
けれど、俺達は起こり得るものだとして考えている話。
その大前提の第一歩を……。
大赦の側の、風先輩を。
身内に引き込むことには、成功した。
先輩的には『自分一人ならまあ……』くらいの認識。
相手も自分と似た立ち位置の相手ってのも後押ししています。
活躍させたいキャラ上位二名
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若葉様
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ひなた様
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ぐんちゃん
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あんずん
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タマ先輩
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たかしー