葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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幕間2-31

 

部屋の中がしん、と静まり返った。

廊下から反射して聞こえる音が、扉越しに微かに聞こえ。

先程までの態度とは全く異なり……三人の表情は酷く沈んでいる。

 

泣きそうなほどに暗く。

震えを隠さない程に静かに。

自らの腕と足に触れながら、目線を伏せ。

 

嘗ての……俺の親類が死んでいった時と同じ顔を映し出している。

 

「……葦原が?」

 

「まあ……見て分かると思いますけど」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

言葉にはせずに、三人を見回して貰う為に二呼吸ほど時間を空ける。

 

「それ、心の傷としては最上級なもんですから」

 

彼女達が、以前よりも俺に接するようになった理由の一端。

罪滅ぼし……自分達が守れなかった事での影響を、常に目の当たりにすることへの代償行為。

 

これだけ頑張ったんだから、なんて責任転嫁は……彼女達はしない。

自分達がもっとやれていれば、と常に……未だに、心の奥深くで悔やみ続けている。

 

他の誰かにも気付かれずに。

心の仮面をまた一枚、決して剥がれないようにと貼り付けて。

親にも、同級生にも……その奥の悲嘆の表情は映さない。

 

「ですから、俺が代理として話します。

 ……先輩と同じく、被害者の立場で。

 事情の一端を背負い続けてきた、『巫覡』として」

 

「ふ、ふげ……?」

 

首を傾げる先輩を他所に。

一度だけ、背中側に……庇うような立ち位置になってしまった三人へと目線を向けた。

 

やはり、その瞳の色は以前のものへと逆行し。

癒え始めていた……表面を取り繕い始めていた傷口の瘡蓋が再びに開かれたのは確か。

そして、相手は『それを叫ぶ資格を持っている』『先輩/後輩』。

 

……揺れる、振れるのは当然で。

だからこそ、俺は彼女達の代わりに今こうして立つことにしていた。

三人と、俺は……正しい意味での男女関係は、とうに崩れ去ってしまったことだから。

 

互いを支え、互いに寄り掛かり。

歪な……それでも尚、成立している関係を。

再びに取り戻すために。

 

「先ず……先輩の言う”どうにか出来なかったのか”に関しては明確な答えがあります。

 ”三人の勇者ではどうにも出来なかった”という、残酷過ぎる答えが」

 

「聞かせて」

 

一度首肯し、話を始める。

 

純粋な人数の問題。

バーテックスと戦った場所は常にあの橋の付近。

橋に仕込まれた陣を利用し、一定時間耐えきることで対岸沿い……『元いた場所』に返す術式。

そして、少なくとも……御役目を始めた当初、それらを倒す手法は見つかっていなかったこと。

 

「恐らく、察してるとは思いますが。

 銀の腕と足も、この御役目で負った大怪我を未だに引きずっている結果です」

 

「……命を賭した役割、って言葉に嘘偽りはない訳ね」

 

そうですね、と。

ぶるり、と震えたのが分かった銀を後でフォローしようと脳裏にメモしながら。

話を……『敵』の存在に関しても伝えていく。

 

現れたのは西暦から神世紀に移るまでの間際。

奉火祭に寄って内と外を区分し、嘗ての神話を再現して以来。

つまり、人類にとっては知識が決定的に不足しており。

同時に、移り変わった結界内での影響の大きさで……想像が追いつかない部分も存在していたこと。

 

(……ただ、問題は。 この結界の手法……そして若葉さん達が眠っていた結界の構築。

 彼女達が初めて行ったわけじゃない、って言ってたことはまだ不明瞭なんだよな)

 

話しながらに気になったことが一つ浮かんだが、それはそれ。

一旦端へと寄せて、目前の相手との話に集中し直す。

 

……奇妙なほどに永く。

一手間違えれば、恐らく何方かが暴発するか消えない傷を負う。

 

それを何処か確実視するように感じながら。

疑問点を答え、踏み込んでほしくない場所を避け。

けれど、乗り越えねばならない過去を改めて提示する。

 

「……つまり。

 人数が足りていれば何とかなった、って問題だけでもないのね?」

 

「そうですね。

 特に……俺と先輩の家族に影響が出た二つの事故。

 これらが大橋市に発生した原因は、何方もバーテックス由来です」

 

最も――――俺は、地震のほうは目視した訳でもないのだが。

 

もし見ていたら……どうしていたのか。

もし、先輩と同じような態度を三人へ向けていたら。

恐らく、碌な結末を迎えていなかったことだけは確か。

 

「……ねえ、葦原」

 

「はい」

 

「大赦は、なんで私達にその事を伏せた……と思う?」

 

身を震わせていた。

微かに、泣きそうなようにも見えた。

きっと、先輩は……泣くよりも先に怒るような人間だと思っていたのに。

 

今、そうしているのは……昔を思い出し。

今を見据えながらも立ち上がれない、一人の幼い少女のように見えた。

 

多分。

今までは『親の敵』と考え、自分を律してきていた先輩が。

その詳細と――――自分が巻き込まれた、()()()()()()()

そのことを、理解してしまったからなのだと思う。

 

「幾つか理由は浮かびますが」

 

これを話していいものか。

下手に言えば。

それこそ、色々な二の舞いに陥ってしまう。

 

しかし、そうして悩んでいるのも直ぐに気づかれたようで。

弱々しい笑みを浮かべつつも……良いから、と口の端から漏れた言葉に従うことにした。

 

それが、()()()になると半ばに理解して。

それをすれば――――また一つ。

いや二つ、重荷を背負うことを分かっていても。

少女たちが、『勇者』であるならば……俺は、その重荷を拾い集める。

 

「……言ってしまえば、多分()()()()()()()()()ってのはあると思います。

 無論、非関係者には何も言えない、って言うのもありますし。

 言わなければそれを利用出来る、と考えた可能性も十二分に」

 

……一番大きい可能性は下から上に、なんだろうな。

 

あの組織、内部のたかしーを利用しようとしている派閥。

自分達を神樹サマの眷属へと変える事を願い、そして結界外への影響力を高めようとする一派。

()()()()()()()()()()()()()()()――――恐らく、風先輩に伸ばされた手の一端は其処。

 

俺達のような、若葉さんやひなた……そのちゃん達を含んだ。

勇者としての役割を担ってきた存在と対立する派閥。

 

「……やっぱり?」

 

弱々しく笑い。

自分でも薄々気付いていたことを口にされ。

風先輩は……自分が利用されていたことを正しく受け止めたのだと思う。

 

ただ、その足元は崩れそうで。

たった二人の姉妹の、何方かに何かがあれば……均衡が崩れてしまうのは容易に想像出来ること。

 

「結局……利用される人生なのかな。 アタシも、両親も」

 

だから、そんな吐き捨てるような。

()()()()()()()()()

 

「違いますよ」

 

今、何かを言えるとすれば。

その気持ちを聞いてしまった俺達だけ。

彼女達を新たに迎える……子供達の作るような、小さな派閥のような集まり。

だからこそ、真っ直ぐに言えることがある。

 

「それを知って、聞いて。

 これからどうするか……どうしたいか。

 絡め取る蜘蛛糸を排除した上で、先輩はどうしたいのか」

 

何かに、誰かに与えられた上での意思でなく。

勇者としての役割を除いた上で。

()()()()()()()()()()

 

俺が聞くのは、その部分。

 

「……アタシがしたいこと?」

 

「はい」

 

後ろから集まる、再びの視線。

以前にも感じた、縋るような色合いの目線。

 

――――それを、振り払うこともなく。

 

「俺は、それを支えます」

 

それを役割として認識しているから。

俺が出来る、精一杯の力添えとして。

 

「……アタシは」

 

微かに唇が、揺れた。

 

「その、やりたいことを見つけるために生きていきたい……かな。

 樹と……()と」

 

その瞳の奥が、水面のように揺れた。

深い深い感情の波が……正しく、俺を捉えたのが分かって。

 

今更ながらに。

幾度目かのそれを、受け入れた。




・重荷ホイホイ。
・大赦ぶっ壊す系の地雷解除。
・代わりに周囲に手が伸びると笑顔でバーサークする。

・……原作の大喧嘩とどっちがマシなんだろうね。

活躍させたいキャラ上位二名

  • 若葉様
  • ひなた様
  • ぐんちゃん
  • あんずん
  • タマ先輩
  • たかしー
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