葦原天理は巫覡である 作:氷桜
部屋の中がしん、と静まり返った。
廊下から反射して聞こえる音が、扉越しに微かに聞こえ。
先程までの態度とは全く異なり……三人の表情は酷く沈んでいる。
泣きそうなほどに暗く。
震えを隠さない程に静かに。
自らの腕と足に触れながら、目線を伏せ。
嘗ての……俺の親類が死んでいった時と同じ顔を映し出している。
「……葦原が?」
「まあ……見て分かると思いますけど」
言葉にはせずに、三人を見回して貰う為に二呼吸ほど時間を空ける。
「それ、心の傷としては最上級なもんですから」
彼女達が、以前よりも俺に接するようになった理由の一端。
罪滅ぼし……自分達が守れなかった事での影響を、常に目の当たりにすることへの代償行為。
これだけ頑張ったんだから、なんて責任転嫁は……彼女達はしない。
自分達がもっとやれていれば、と常に……未だに、心の奥深くで悔やみ続けている。
他の誰かにも気付かれずに。
心の仮面をまた一枚、決して剥がれないようにと貼り付けて。
親にも、同級生にも……その奥の悲嘆の表情は映さない。
「ですから、俺が代理として話します。
……先輩と同じく、被害者の立場で。
事情の一端を背負い続けてきた、『巫覡』として」
「ふ、ふげ……?」
首を傾げる先輩を他所に。
一度だけ、背中側に……庇うような立ち位置になってしまった三人へと目線を向けた。
やはり、その瞳の色は以前のものへと逆行し。
癒え始めていた……表面を取り繕い始めていた傷口の瘡蓋が再びに開かれたのは確か。
そして、相手は『それを叫ぶ資格を持っている』『先輩/後輩』。
……揺れる、振れるのは当然で。
だからこそ、俺は彼女達の代わりに今こうして立つことにしていた。
三人と、俺は……正しい意味での男女関係は、とうに崩れ去ってしまったことだから。
互いを支え、互いに寄り掛かり。
歪な……それでも尚、成立している関係を。
再びに取り戻すために。
「先ず……先輩の言う”どうにか出来なかったのか”に関しては明確な答えがあります。
”三人の勇者ではどうにも出来なかった”という、残酷過ぎる答えが」
「聞かせて」
一度首肯し、話を始める。
純粋な人数の問題。
バーテックスと戦った場所は常にあの橋の付近。
橋に仕込まれた陣を利用し、一定時間耐えきることで対岸沿い……『元いた場所』に返す術式。
そして、少なくとも……御役目を始めた当初、それらを倒す手法は見つかっていなかったこと。
「恐らく、察してるとは思いますが。
銀の腕と足も、この御役目で負った大怪我を未だに引きずっている結果です」
「……命を賭した役割、って言葉に嘘偽りはない訳ね」
そうですね、と。
ぶるり、と震えたのが分かった銀を後でフォローしようと脳裏にメモしながら。
話を……『敵』の存在に関しても伝えていく。
現れたのは西暦から神世紀に移るまでの間際。
奉火祭に寄って内と外を区分し、嘗ての神話を再現して以来。
つまり、人類にとっては知識が決定的に不足しており。
同時に、移り変わった結界内での影響の大きさで……想像が追いつかない部分も存在していたこと。
(……ただ、問題は。 この結界の手法……そして若葉さん達が眠っていた結界の構築。
彼女達が初めて行ったわけじゃない、って言ってたことはまだ不明瞭なんだよな)
話しながらに気になったことが一つ浮かんだが、それはそれ。
一旦端へと寄せて、目前の相手との話に集中し直す。
……奇妙なほどに永く。
一手間違えれば、恐らく何方かが暴発するか消えない傷を負う。
それを何処か確実視するように感じながら。
疑問点を答え、踏み込んでほしくない場所を避け。
けれど、乗り越えねばならない過去を改めて提示する。
「……つまり。
人数が足りていれば何とかなった、って問題だけでもないのね?」
「そうですね。
特に……俺と先輩の家族に影響が出た二つの事故。
これらが大橋市に発生した原因は、何方もバーテックス由来です」
最も――――俺は、地震のほうは目視した訳でもないのだが。
もし見ていたら……どうしていたのか。
もし、先輩と同じような態度を三人へ向けていたら。
恐らく、碌な結末を迎えていなかったことだけは確か。
「……ねえ、葦原」
「はい」
「大赦は、なんで私達にその事を伏せた……と思う?」
身を震わせていた。
微かに、泣きそうなようにも見えた。
きっと、先輩は……泣くよりも先に怒るような人間だと思っていたのに。
今、そうしているのは……昔を思い出し。
今を見据えながらも立ち上がれない、一人の幼い少女のように見えた。
多分。
今までは『親の敵』と考え、自分を律してきていた先輩が。
その詳細と――――自分が巻き込まれた、
そのことを、理解してしまったからなのだと思う。
「幾つか理由は浮かびますが」
これを話していいものか。
下手に言えば。
それこそ、色々な二の舞いに陥ってしまう。
しかし、そうして悩んでいるのも直ぐに気づかれたようで。
弱々しい笑みを浮かべつつも……良いから、と口の端から漏れた言葉に従うことにした。
それが、
それをすれば――――また一つ。
いや二つ、重荷を背負うことを分かっていても。
少女たちが、『勇者』であるならば……俺は、その重荷を拾い集める。
「……言ってしまえば、多分
無論、非関係者には何も言えない、って言うのもありますし。
言わなければそれを利用出来る、と考えた可能性も十二分に」
……一番大きい可能性は下から上に、なんだろうな。
あの組織、内部のたかしーを利用しようとしている派閥。
自分達を神樹サマの眷属へと変える事を願い、そして結界外への影響力を高めようとする一派。
俺達のような、若葉さんやひなた……そのちゃん達を含んだ。
勇者としての役割を担ってきた存在と対立する派閥。
「……やっぱり?」
弱々しく笑い。
自分でも薄々気付いていたことを口にされ。
風先輩は……自分が利用されていたことを正しく受け止めたのだと思う。
ただ、その足元は崩れそうで。
たった二人の姉妹の、何方かに何かがあれば……均衡が崩れてしまうのは容易に想像出来ること。
「結局……利用される人生なのかな。 アタシも、両親も」
だから、そんな吐き捨てるような。
「違いますよ」
今、何かを言えるとすれば。
その気持ちを聞いてしまった俺達だけ。
彼女達を新たに迎える……子供達の作るような、小さな派閥のような集まり。
だからこそ、真っ直ぐに言えることがある。
「それを知って、聞いて。
これからどうするか……どうしたいか。
絡め取る蜘蛛糸を排除した上で、先輩はどうしたいのか」
何かに、誰かに与えられた上での意思でなく。
勇者としての役割を除いた上で。
俺が聞くのは、その部分。
「……アタシがしたいこと?」
「はい」
後ろから集まる、再びの視線。
以前にも感じた、縋るような色合いの目線。
――――それを、振り払うこともなく。
「俺は、それを支えます」
それを役割として認識しているから。
俺が出来る、精一杯の力添えとして。
「……アタシは」
微かに唇が、揺れた。
「その、やりたいことを見つけるために生きていきたい……かな。
樹と……
その瞳の奥が、水面のように揺れた。
深い深い感情の波が……正しく、俺を捉えたのが分かって。
今更ながらに。
幾度目かのそれを、受け入れた。
・重荷ホイホイ。
・大赦ぶっ壊す系の地雷解除。
・代わりに周囲に手が伸びると笑顔でバーサークする。
・……原作の大喧嘩とどっちがマシなんだろうね。
活躍させたいキャラ上位二名
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若葉様
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ひなた様
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ぐんちゃん
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あんずん
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タマ先輩
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たかしー