葦原天理は巫覡である 作:氷桜
あ、日常回です。
その後の数日は、各々の調子を整える数日だったと言って良い。
彼女達の場合、肉体的な負荷よりも精神的な負荷の方が重く影響する。
それは、下手をすれば当人よりも俺のほうが良く見知っていること。
だからこそ、出来る限り接する時間や頻度を増やし。
そしてそれを受け入れて、見方によっては甘えるような態度を隠さない。
車椅子での移動、歩く訓練の際の密着頻度。
昼食時の提供割合、世話をする頻度。
眠る際の密着度、その他『何をしてもおかしくない』と思われているが故の自由自在。
周囲からすれば『どうしたのか』という疑問より。
下手をすれば『やっとか』みたいに思われている気もするのだが……。
それでも、周囲よりも大事にしたのは
そんな中で、更に一人。
距離を置いていた友奈が再びに近付き始めてくれたのは行幸と呼んで良いのか。
無論、その代償として俺へ向けられる目線は極寒度を増したが。
多分今更何を言っても、何をしても度合いが変わるだけで立場は変わらない。
もう諦めて今の感じ……遠巻きにされているような感覚に慣れたほうが早い気もする。
クラス内の集団行動、ともなればどうせ近付いてくるのはいつもの顔触れだろうし。
男女が別れた一部の体育とかは……まあ、何をしても目立てる程の運動神経が在るわけもない。
(男子の幾人か、っつーか半分くらいは女子の方に目が向いてたりするんだけどな……)
多分気付かれてるぞ、とは言ってやらない。
無論、ただ単純に全員を見ている奴等だけでもないのも確か。
幼馴染や彼氏彼女、或いは純粋に気になる相手を見つめては目を離す甘酸っぱい感じのやつ。
そんな悲喜こもごもが繰り広げられているのも、今の俺のクラスの特徴なのかもしれない。
……そんな事を思い浮かべるのも、また単純で。
「やっぱ結城って足速いよなぁ」
「身体の使い方がわかってる感じすげーする。 陸上でもいいとこ行けただろうに」
「しかたねーだろ、最後は自分のやる気次第なんだし」
少しだけ離れた場所からのクラスメイトの声。
確か、所属は陸上部だったか。
惜しそうな声色であるのは間違いなく、そして勘違いなのか別の成分も僅かに。
「…………よいしょーっ!」
「友奈ちゃん頑張ってー!」
そしてそんな声や声援を背中に。
全力疾走で身体から熱を放ち、肢体を上下に揺らした初めの幼馴染殿。
記録を聞いて嬉しそうにしているように見えるのは、根本的に『応援される』事を好む仮面だからか。
それとも――――その次に並ぶ、黒髪の少女の声援が一際大きかったからだろうか。
平日最終日、六限目。
我がクラスにとっての最終授業は何の因果なのか体育。
伝え聞く話では、夏にもなれば一つ前の授業と組み換えて水泳が入るとか入らないとか。
そんな男どもにとっては、ある意味欲望を抱えた授業の一端……というわけでもないのだろうが。
今日の授業内容として、女子は短距離走の測定。
男子は球技……サッカーとそれを眺めて応援する、二極化した形。
前回はこの担当が逆だったのだから、まぁ何方が優遇されているとかは無いのだろうけれど。
「あー、アタシも走りたいなー」
「卒業するまでには走れんだろ」
「そう言う問題じゃないわけ。 分かる?」
隣で色々と文句を言う、もう一人の幼馴染に相槌を返しながら。
体操服姿の……普段は制服で覆われているあちこちや地味なスタイルの良さ。
そして運動をすることで垂れ落ちる汗を気にもしていない友奈に冷や汗が浮かぶ。
「まぁ分かるよ、分かるけど……今直ぐに運動してもひっどい数値しか出ないだろ」
「ほら分かってない」
「何がだよ」
唯一、明確に体育の授業は常の見学を許可されている銀。
その階段の上下や面倒見は普段から近くにいる俺達の誰かに任されることが多い。
今回の場合……と言っても、自由参加の球技の際は大概見学することにしているのもあるが。
急な体調の変化や移動、開始/終了時の挨拶のための集合の手伝いなんかのお付きとして傍にいる。
小学校とかなら誂われ混じりに夫婦、とか呼ばれていたかもしれないが。
今となってはそれも否定しきれないからちょっと困る。
「いやだってさ、ずーっと友奈見てるじゃん?」
「いやずーっとは見てないが」
「みーてーるーぞー」
見てるとか見てないとか、そんな言い合いが軽く続く。
……多分、こういう事やってるからなんだろうけれど。
学校では出来るはずもなかったから、なんだか少しだけ楽しさを覚えなくもない。
「……まあ一万歩譲って見てるとしてだ」
「なんで百倍も譲ってるんだお前……」
「別に良いだろ。 で、何だよ」
はぁ、と漏れたのは溜息。
仕方ないなぁ、という態度を全面に示したからか。
笑顔で太腿を拗られ、痛みを感じながらの会話が始まる。
「いや、ただじーっと見てるのが許せなかっただけ」
が、直ぐに終わった。
「おいコラ」
「多分須美も園子も同じこと言うけどなー」
そんな言葉を聞いて、次の順番待ちをしている女子集団へ目を向けた。
一番左側に美森ちゃん、その隣の列の次がそのちゃん。
此方が見ているのに気付き、小さく手を振られてしまったので軽く振り返しつつ。
「そのちゃんはあっても美森ちゃんは先ず無いだろ……。
さっきの友奈への応援聞いてたか……?」
「いや、
「なにそれこわい」
そんな戯言を話題にした会話。
確かに、今の彼女ならやりかねないという感覚。
ふと顔を持ち上げれば、胸元に持ち上げられた体操服姿の彼女が。
にっこりと笑っているのがわかったから、余計に恐怖心が煽られてしまった。
「……殺されないよな?」
「大丈夫だろ……多分」
「保証してくれない?」
「だったらさ、
「それ言ったら余計に火に油注がないか?」
「バレた?」
「おい」
そんな、どこにでもある日常の中。
雑談を繰り広げながら、今しかできない時間の浪費を続けられていると感じながらも。
――――ほんの少し、平穏から外れるまで。
残り時間は、着々と減少を続けていた。
東郷さんに着せるならどれ?
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白無垢
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ウェディングドレス
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巫女服