葦原天理は巫覡である 作:氷桜
「まず、これは今までに手に入れてる情報や経験から考えた内容だ。
実際には神樹サマの御心一つになるだろうし、隠れてる情報があるかもしれない。
だから
得ている情報自体が欺瞞だったら。
全てをひっくり返す手立てがあるのなら。
もっと早く言えよ、というのは扨措くにしろ……考えの前提自体が崩壊する。
故に、信じるにしても七割か八割くらいが丁度いい。
二人は、少しだけ態度を変えた俺に一歩引くような姿勢を見せ。
けれどそれだけ真剣なのか、と思い直してくれたように姿勢を正す。
(正直、俺が神樹サマについて語るのも変な話なんだけどな……)
それ自体を信仰しているわけでもない、というこの世界においての例外。
公言してしまえば……特に今の立場であれば即座に排斥されるであろう在り方。
多少なりともそれを知っている友奈からすればおかしい事しきりだと思う。
ただ――――何を利用してでも。
救えるものを救おうとするのは、俺が自分で定めた
見えている範囲……残りの顔触れからも何かしらの熱視線が飛び交う中。
正直勘弁してくれないかな、と思わなくもないが……説明を開始する。
「さっき風先輩から出た『勇者』って言葉の意味。
もう少しその適正についての意味を説明するなら、『神降ろしの器としての才能』ってことになる」
「か…………かみ?」
ぽかん、とする表情が三つ。
まぁ……ただ単純に適性云々って言っても分からないだろうし、風先輩の話を聞く限りじゃ説明もされてない。
先代勇者達のときでさえ『適性』と言う言葉一つで流された、それをそのまま受け取る事もできる単語。
けれど、その深い意味を掘り下げていくと少しばかり変わった目線が浮かんでくる。
「友奈、神樹サマの成り立ちについては知ってるよな?」
「それは……うん。 神様達が私達を護ってくれるために……ってやつだよね?」
俺が知る中で、今この場で無条件に最も神樹サマを崇めているのは友奈だと思う。
それは無意識に縋る対象を求めた、という意味でもあり。
神樹の内側にいる彼女の影響を受けている、というのも間違いなくあるはず。
『何度見ても思うけど……結城ちゃん、私にそっくりだよね』
編みぐるみから聞こえる声へは、今は返答しない。
「勇者、ってのはその神樹サマの中の幾柱かの神々に好まれる少女のことだ。
そしてその才能の多寡は、力をどれだけ受けられるかの容量で決まる」
現人神、或いは化身と呼ばれる存在がいる。
前者は『生きたまま神のような力を放つ人』であり。
後者は『神が現実世界に降り立つ際の器』を指す、日本以外での神話に由来する存在。
神使、などと呼ばれる神が動物へと成り代わり/言葉を借受ける存在……と呼んだほうが正しいか。
俺の持つ役割はその神使に酷似している部分があり。
そして勇者達もまた、神の代理と呼ぶべき類似点を持つからこそ総量の多寡が発生する。
精神性唯一点を以て選ばれる勇者がいれば。
肉体と精神性の類似……
「え、それで……私が選ばれるかが半々、っていうのは」
「一定の器の総量はあるのは間違いない。
ただ、最終的に誰を勇者に選ぶのかは神樹サマの御意志一つ。
ついでに言えば……
そんな中で、優先的に選ぶ理由が不明だから半々って話だね」
ただ……友奈との関係性がある以上。
まず間違いなく選ばれるとは思うが、それを口にするのは彼女自身が決意してからにしたい。
そして、今までの事を鑑みれば。
恐らく人間側……というよりも大赦側である程度選ぶことは出来るのだろう。
最低限度の基準を満たしさえすれば、戦いに向いているか否かを無視して。
その力を人に降ろす際に濾過する機能さえあれば、その存在は勇者へと変貌できる。
この能力を先天的に持ち合わせていたのが、恐らく古代の神降ろし術者。
そして、神具と巫女という二重の選定基準を以て選んでいたのが初代勇者。
その点を鑑みれば……現代なら勇者適性者が一定以上にいるという事柄にも頷けてしまう。
代を重ねることで精神性の浄化を図り。
同時に天の神への対抗手段として、新たな武具や機能を開発し。
きっと、その中の行動……或いは人の欲の何らかが神との誓約を破るに至った。
三柱との相談。
こっそり調べていた過去の神話。
塗り潰されていた……知ることが出来る範囲での文書。
それらを以て、空いた時間で話し合い。
一定の理を持つ想定として整理した、隠された裏事情。
――――今は、彼女達はこんな薄汚い真実は知らなくて良い。
「なら、私は?」
「お前は……何と言えばいいかな。
『友奈』って存在として生まれて、同時に色んな都合上先ず確実に選ばれると思って良い」
「名前?」
「そう」
詳しくは――――知らないんだろうな。
ただ、生まれた時に行った行動で『そう』名付けられるという風習が存在するのは事実。
その伝聞は三好さんと亜耶から、同時に別ルートを介して耳にした。
逆手打ち……天の神への呪詛、呪い、恨み。
負の感情を意味する部分もある行為を執り行うことで
多分、巫女以外の誰にでも分かるようにした神からの情報伝達。
「……じゃあ、まあいい加減アタシからも聞きましょうか。
葦原、アンタはなんでそんなに詳しいわけ?」
混乱する二人に対し。
はぁ、と溜息が一つ。
今までの話を聞いていた風先輩から……ついに来たか、と。
そう思わざるを得ない質問が飛ぶ。
「こないだ聞いたわね。
東郷に園子、それに銀も経験しているって。
それに、『巫覡』って言葉も聞いた」
以前は誤魔化した。
「でも、
こんな、大赦の職員でも知らないようなことを並べて。
アンタの目的は、何?」
経験、という便利な言葉一つで――――お互いの事を何も知らなかったから。
けれど、今此処に至ってはその情報を伏せる理由は何もない。
寧ろ、伏せることで疑いは増すばかりだろう。
だからこそ。
「……勘違いしないでほしいんですけど」
「ええ」
「この世界をどうこうしたい、とかそういう目的は欠片も有りません。
ただ――――しなければならない事が二つ。
その為の大前提として、力を求めている状態でした」
「成る程。 で?」
多分――――ただ単純にこれを伝えただけでは勘違いされるのは分かる。
対話があまり上手くないからこそ……端的に理由を言うために。
唇を一度舐め、その言葉を口にする。
「荒御魂と化している神樹サマの和御魂化。
唯敵を打ち倒す、という状態からの修正です」
少なくとも、最初は。
そんな事を口にすれば。
絶句する少女が三人。
平然とする……知っている側と知らなかった側で、またしても起こる断絶。
これを為し、正しい意味で力を借り受ける手段を構築する。
人の身で……或いは僅かな力のみで打ち倒せるような相手ではなく。
全てを振り絞ることで漸く手が届くであろう、『神退治』の神話。
更に言葉を重ねようとした、そんな折。
「……天理さん、話の持って行き方が真っ直ぐ過ぎますよ」
少しばかりくぐもった声色。
隣の部屋とを遮っていた障子戸が横に引かれ。
待機していた四人が顔を出す。
「え…………え?」
「誰?」
混乱に、混乱を重ねる中。
そんな状況を引き起こした、黒髪の巫女の片割れは。
「其処からは私達も混ぜて話すべきだと思います」
そうでしょう、と。
赤く濡れた唇が。
酷く落ち着いた、だからこそに恐ろしさを混ぜる声色で。
初めまして、と挨拶を口にした。
・神使:動物が神の代理として何かを告げる時に呼ばれる名。
一例を挙げるなら山の神の代理としての大蛇。
或いは猿や猪などの山の主と呼ばれる存在が該当する場合もある。
『人』を獣と定義するのなら。
勇者もまた、神使に該当する可能性がある。
東郷さんに着せるならどれ?
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白無垢
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ウェディングドレス
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巫女服