葦原天理は巫覡である 作:氷桜
「あ、包丁借りていいですか?」
「これ切り終わったら交代しましょうか」
台所から聞こえる幾つかの声。
立ち慣れているような、ほぼ等間隔で聞こえてくる何かを切り落とす音。
目線を向ければ、普段見ることもない/何処か見慣れた背が幾らか見受けられる筈。
(慣れる程来て貰った経験も無い……筈なんだけどなぁ)
よ、っと両手に抱えたモノを支え直しながら廊下を進む。
何方かと言えば、招くよりも家に向かう経験のほうが多い。
そうして食事を貰う、という回数が一番多いのは……多分美森ちゃんで。
だからこそに、舌に覚えている懐かしい味が少しずつ変わったと思うのは昔と同じ。
「……しっかし、千景さんも此方側だったとは」
「言うつもりもなかったのだけど……ね」
「いやいや、いつまでも隠せるわけもないとタマは思うのだが」
「千景さん、そういうところあるから」
少しだけ開かれた扉の奥。
眼の前で行われているのは、先程押し黙っていた一人の少女への尋問。
風先輩は笑みを浮かべているが、どうにもその圧力が強く。
謝る……うん、一応謝りはしたからと。
それ以上にどう対応して良いのか分からないから口数も減って。
タマ先輩と杏さんがそれを押し留めている光景。
(なんだかんだ互いに交流は出来てそうだよなー)
明らかに救助を求めている視線を一つ感じるが。
先程の仕返しとばかりにそれを振り切り、少しだけ先の……電気さえもついていない部屋。
既に一度上の階とを往復したから、二人分は置かれている埃を被っていたもの。
恐らくは両親が仕舞っていたのだろう寝袋が二つ、そして今運んできた布団が更に二つ。
壁沿いに折り畳んで置き、ほんの僅かに滲んだ汗を袖で拭う。
(さて、後一踏ん張り)
上の階で手伝ってくれている一人の元へともう一度足を運ぶ。
ぎしり、ぎしりと音が鳴る。
(……そういや)
ふと、廊下に備えられた窓越しに外の庭を覗き込んだ。
少しばかり暗くなり始めた外に、同じような金の髪の少女が二人。
壁に手を付きながら、ゆっくりと歩いている我が家の住人が一人。
そしてそれを見つつも、最も運動能力が低いだろう勇者を基準にしようと。
樹ちゃんが飛んだり跳ねたりと、走る体力を除いた部分を確認されている姿。
(ああいう部分まで調整出来るのかね、乃木家……)
実際、『大体のことは教え込まれたんだ~』とか冗談交じりで言ってたのは確かだが。
何を扱えるかも分からないから、という前提で
だからこそ名家……の中でも二大と言われるだけはあるのか。
実際、そのちゃんの父親も剣技は身に付けてるとか聞かされたもんなぁ。
そんな事を思いつつ、普段は使用もしない部屋。
押入れ、物入れとして設けた一室へと再びに入り込もうと顔を覗かせ。
「よ、っと……」
壁沿いに開いた押し入れの中で、奥と手前側の荷物の入れ替えを行っている友奈の背中が目に入る。
既に暗くなっている現状。
次いで言えば明日は休日、ということも有り。
極近所、具体的には友奈と美森ちゃんを除いて泊まり込み。
明日早朝からお試しをしてみようという案が通った。 通らされてしまった。
無論俺は反対もしたが、同時に暗い中で女の子を帰す事に一抹の不安があったのも確か。
まず巻き込まれることはない、と分かっていても。
それでも万が一……を考えれば俺が全員を送っていけば良いのだろうが。
『効率』という言葉が通ってしまうのは……警戒心が薄すぎやしないだろうか。
「悪いな、本当なら俺一人でやるべきことなんだけど」
夕食を作ってくる、とひなたと美森ちゃんが立ち上がった時に止めれば良かったのか。
それとも各々が動き出した時点でどうにか出来たのだろうか。
そんな内心の疑問を胸の内へと秘め、まずは友奈へと感謝の意を告げる。
「ううん、体動かしてたかったから」
足元に幾つか出ていた荷物の大半は既に仕舞われ。
手前側に寝袋を仕舞うスペースのみが残っている。
こんなに集団が集まるとは想定してなかったはずだもんなぁ、両親も。
「そう言って貰えると助かるといえば助かるけど」
よいしょ、なんて言葉に出すのはどこか友奈らしくもない。
何となくにその背中を追い掛け、押し入れを閉ざすまでを追い掛けてしまう。
「それにさー」
「うん?」
くるり、と此方に顔を向け。
その顔色は、僅かに明るさを取り戻していたかのように思う。
それこそ、何処か
再会を果たし、学校に共に通う事を知ったときのような色。
懐かしむと同時に、何か――――深い感情を滲ませた色合い。
普段の友奈だけを知る人間であっても、何故か目を惹かれる……そんな顔。
「天理くんが、私に答え言えなかった理由も分かったし」
具体的に何、と言わずに。
分かるよね、と極めて当然に言ってくる状態。
今の彼女ではなく、昔の……当たり前に隣にいた頃のような言い方。
「分かってるなら言わなくても良いのか?」
「言って欲しい、って言ったらそうしてくれるの?」
互いに同じことを、反対側から見る状態。
反対側から言い合う状態。
少し前と違うのは。
見ている風景と、目の色の違い。
「一応俺も色々は考えてたんだけど」
「考えてはくれたんだ」
そっかぁ。
そんな単純な言葉が、狭い部屋の中で響いて聞こえる。
何となく、そう
今の会話は他に聞かれたくなくて。
他の皆と同じように、一対一で話すために……後ろ手で扉を締める。
途端に外からの音の割合は減り。
唯の板間、洋室の床に二人立つだけの状況。
ただ……座ろう、とも。
何とも言い出せないのは、互いに同じだった。
・ちょっとだけ小悪魔モード。
東郷さんに着せるならどれ?
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白無垢
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ウェディングドレス
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巫女服