葦原天理は巫覡である 作:氷桜
「……なぁ」
「……ね」
そんな、どこか心地よさがある沈黙の中で。
言葉を放ったのもまた、二人同時。
今までに経験してきた幾度の……本来あっちゃいけないこういう経験の中。
気分が軽い、というのはひょっとすれば初めてかもしれない。
それは、今までの重圧をすべて吐き出した直後だからと言うのも有り。
それは、此処が自分の城……自分の心を支える拠点の内側だからというのも有り。
お互いの感情を理解した上で。
お互いの状況を知った上で。
外周を埋め、そうして言葉を発したことで。
そうするだけの理由を見出だせる、そんな普通の感情が残っているのなら――――。
「……友奈からでいいぞ」
「ううん、天理くんから聞きたいなぁ」
どうぞどうぞ、と譲り合い。
あいも変わらず……と呼んで良いのか、自分のことを後回しにするのが友奈だが。
今この場のみだけで言うならば、普段の彼女の習性は通用しない。
既に先んじて口にしている言葉。
それに対する回答を述べるまでは、俺は正直友奈に頭が上がらない。
「さっき言いかけたし、ね?」
それも、こう言われてしまうと。
答えてからでなければ、彼女の質問を聞く権利が無いとでも言われている気がしてしまう。
「図太くなったよなー」
「え、太った!?」
「違う、って言うか分かって言ってるだろ」
いやまあ、視線は脇腹の辺りに向けたが。
何となくに背筋に冷たいものが走るのは……美森ちゃんのせいだろうか。
もう、と頬を膨らませながら。
それでも……視線だけだからか。
或いは俺だからか、と自惚れを脳内に浮かべては振り払う。
「女の子にそういう事言うのってどうなの?」
「冗談じゃなきゃ言わないぞ」
「冗談でも言ったら不味いって分かるでしょ」
まあ、はい。
正直、もう少し肉を付けたほうが良い……と思う相手はいないわけじゃない。
身体が細く、抱き寄せやすいのは間違いないのだが。
体調を崩しやすい程に細すぎる、という印象を何処か背負ってしまっているのもまた事実。
そんな相手もいる中で……友奈は健康体と言うか、筋肉質と言うか。
少し前の銀を思い出す感じ。
だから、細身にも関わらず付く場所にはしっかり肉が乗っている女の子。
……絶対恥ずかしくて口にできない。
「……で?」
話を少しだけ逸らした言葉を元へと戻し。
外の暗闇を引き込み始めた、部屋の空気の中で首を傾げる姿。
それは何処か、あの日の夕方の銀の姿と重なって見える。
……うん、やっぱり俺は。
何処か二人を、同じように
多分それは、勇者としての特性にも近い……と言うより。
在り方がそれに近いから、俺自身の人生に大きく影響した相手だから。
「……あー」
はぁ、と漏れたのは溜息。
そして同時に、逃げようとしてしまう俺自身の弱気を吐き出すための吐息。
他の……共に分かたれる時までを誓った幾人か。
彼女達を脳裏に浮かべてしまうのは、もう当然に日常的に起こってしまう現状。
ただ……それでも。
今は、思考の端へと移動した。
「えー、と、さ」
「うん」
どう伝えるのが良いのだろう。
どう伝えるのが正しいのだろう。
答える答えは既に決まっているのに。
その方法と、当人の目線を合わせると。
僅かに緊張と、戸惑いが先に出て。
「返事、するよ」
何処か、引っ掛かるような回答になってしまった。
話し始める前、考えていた時。
ほんの数秒前までは何とも無かったのに。
その数秒の情報と、理解とで。
何かに差し止められてしまうように、言葉を引っ掛けてしまう。
「……聞かせて?」
ああ、と言った筈。
うん、と答えが聞こえた筈。
何処かふわふわとした感覚と違和感と。
正しく自分自身を捉えられていないのは……もしかすれば。
緊張というよりも、頭を妙に回したからの疲労故なのだろうか。
幾つかの理由を浮かべ。
「俺がさ、言えなかったのは……さっき話した通り。
万が一があれば、俺は簡単に死んで……離れ離れになるから」
「……うん」
勇者と巫女/巫覡。
何方が死にやすいのか、と言われれば……今の精霊を利用した防御手段を加味した場合。
護る手立てが一切存在しない、護られる側でしか無い俺達の方が圧倒的に死にやすい。
特に、勇者達の捧げる贄を負担する以上。
そして精神体を人から別の生命体に置き換えが起こってしまう以上。
『俺』が別の何かになってしまう可能性は、その試行回数の分だけ肥大していく。
ひょっとすれば……既に元の俺の原型なんて残っているのか、どうなのか。
けれど――――そんな事は、全て飲み込んで決めたこと。
「それを考えたら、変なことは言えなかった」
彼女達を贄になんてさせたくなかった。
けれど、それは彼女達も同じこと。
それを正しく知るのは、俺や誰かが倒れた病室で。
こうして仲を深める度に、畏れを覚える俺が何処かにいる。
「……でも、私は選んだよ」
「そうなるだろうから言いたくなかったんだよ」
言えば、彼女は間違いなく。
勇者へと、自分自身から願って……役割へと就くだろう。
人のため、という最も大事な才覚を以て。
そうして欲しくない、なんて。
事情を知る側からの――――願ってはいけない願いを、顧みることもなく。
「……そっか」
ほんの僅かに和らいだ笑顔。
それを前に……少しだけ加速した心音の前で。
「……俺もさ」
こうなってしまえば一蓮托生。
関わる以上は、全てを話す。
そんな当たり前のことは後回しで良い。
「友奈の気持ちに、答えたいと思う」
お互いがどうしたいのか。
既に沈んだ底無し沼。
振り払うのか……共に沈むのか。
それを選ぶ権利があるのは、地上に残った女の子達だけだから。
「……ちゃんと、言ってくれる?」
「言うよ」
下の声色が少し増した。
多分、直ぐにでも声を掛けに何方かが上がってくるだろう。
だから。
「……好きだよ、友奈」
その前に。
思いだけを、口にした。
「……うん」
そう、たった一言で安心したような表情は。
「――――ずっと、離さないから」
その下に、埋もれた何かを指し示すように。
蠱惑的な何かを、確かに宿していた。
他メンバーもメイン回でこういうの欲しい?
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よこせ
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いらん
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全員やれ……!