葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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幕間2-42

 

ぱちん、という物音。

手元の感触と頭上の灯りが同時に(とも)り。

狭いながらも作り上げた秘密基地の中。

どうぞ、と手招きして少女を招き入れる。

 

「……思ったより、綺麗にしてるのね」

 

「なんで誰も彼も似たようなこと言うんだろう……」

 

入口、通路沿いに設けられたキッチン。

水や電気も通しているから、何日か暮らすことだって可能な状況下。

普段は使わないので覆いを被し、そうでない部分も鏡面のように反射する台所に目をやり。

思わず、と言った具合に漏れた美森ちゃんの言葉。

 

その言葉は、以前に中を覗き込んで来た時の銀の言葉と同じ。

ついついに唇を尖らせながらに文句を返し。

 

「男の子って……どうしてもそういう認識があるから」

 

だから許して、と言われてしまうと何とも言えない。

 

正式名称アパート、俺個人の認識としては秘密基地。

その内部構造は、本来一室に一人から二人程度で過ごすことを前提とした広さを持つ。

俗に言う”1K、風呂トイレ別”とか言われる程度の広さ、幾つか備え付けの電化製品。

 

これが、もう少し中央や駅前に近ければそれなりに入居者も見受けられたのだろうが……。

場所が場所、というのも有り。

家賃を休めに設定していても現在では入居者は綺麗に零。

 

その内、風先輩や樹ちゃんが大赦に疎まれた場合。

支援の一環として部屋を幾つか貸し与えるつもりではいるのだが……。

実際のところ、同敷地内にある一軒家の住人達も幾らか部屋を持ち始めているのが実情。

 

(まぁ……ほぼ荷物置き場とかに使ってる感じみたいだし、別にいいんだけど)

 

電気を通していない幾つかの部屋の鍵を渡した時を思いながら。

()()()()()整えた一室の中、最も過ごすことになる畳張りの部屋へと二人で進む。

 

「荷物、そっちの隅に纏めてくれる?」

 

「うん」

 

指差したのは、カーテンを纏める両端側の左側。

俺が普段時間を潰す時に手荷物を置く場所。

 

壁沿い……というよりは窓沿い。

カーテンの側には古びたテレビが一つ。

少し古いゲーム機が繋げたままで置いてある。

中身は一世代位昔にヒットしたアクションRPGが入ってはいるが、殆ど遊んだ記憶もない。

 

対して入口側、壁に付いた押し入れには漫画本や小説本がそれなりの数積み上げられて。

合わせて、最近は時間もなく余り作れていない装飾品や編みぐるみの素材を纏めて置いていて。

その下には、少し大きめの布団が一セット畳んで置いたまま。

時折は洗濯も布団干しもしているけれど、黴臭さはどうしてもそのままに。

 

その中央部……極少人数用の卓袱台が敷かれ。

総じて『男らしい部屋』――――そう言われてしまえば、否定する場所もあまりない部屋。

 

「……天理くん」

 

「ん?」

 

この部屋で寝泊まりするのそういや初めてだなぁ、と思いつつ。

壁に背をつけ、日中の活動で溜まった疲労を少しでも拭おうとすれば。

当然のように隣に座り、同じような体勢を取りながら。

 

「……ごめんね。 此処、()()()()()()でしょ?」

 

二人だからこそ聞けることを、口にする。

……他の誰もが聞かないことを、問い掛けられる。

 

不安そうな瞳を、その顔に示して。

 

「そんな大袈裟な場所でもないよ。

 ……まあ、一人でいられる場所って意味じゃ間違いはないけど」

 

一番最初……つまり、秘密基地を設けた当初は兎も角として。

我が家に色々と招くようになり、日常的に異性がやってくる場所になったのは事実。

そして、それに慣れつつ……幾らかの日常的な物事を任せたりはしているけれど。

 

たまに、ふと。

俺一人で何かをしたくなる場所、として今この場所があるのは間違いない。

 

「だったら……」

 

自分がしたいこと。

嘗ては熱中し、けれど今は然程時間が取れないこと。

時間を気にせず、そういったモノに取り組める場所であり。

三柱と気兼ねなく話が出来る場所、という意味でも貴重ではあるけれど。

 

「でもさ」

 

お互いの中間で止まっている手。

身動きせず、ただ力を抜いて其処に置かれている手。

その身体に、自分の身体を重ねながら。

 

彼女が望み、俺が認めて。

そうしてやっと実現した、今日この時を否定する言葉を打ち消していく。

 

「……俺は、美森ちゃんと二人でいるのも大事だと思ってるよ」

 

一人で出来ること。

二人で出来ること。

 

その差異は頭数、と言うだけではなく。

泥沼のように沈んでいく思考から、お互いを解き放つ意味でも助け合える。

 

「何より……ちゃんとした、ってわけじゃないけど」

 

あれだけ強く、彼女自身の意思を伝えていたのに。

こうして二人きりになると。

もう少し正しく言うなら、『叶えられる直前』になると。

彼女自身の気質なのか、二の足を踏む……少しだけ迷ってしまう悪癖があるように思う。

 

それだけに注視し続けて、周りが見えなくなるような状態ではなく。

周りをきちんと見るからこそ、自分の意志を伝えつつも叶えて良いのか迷ってしまう。

 

ある意味で……そのちゃんと似た、そんな状態。

恐らくは、名家の一人娘……それに由来してしまう、自分の願いを覆い隠してしまう病。

二人切りだからこそ、表面に浮かび上がってしまう呪い。

 

()()()()()()()()()()()

 

その病の治療薬。

相手方――――つまりは俺自身から踏み込むこと。

 

照れ臭そうに。

というよりも、顔と頬を熟れた果実のように真っ赤に染めて。

目線を伏せながらも、重ねられた手は離そうとは決してしない。

 

六月の花嫁……そう呼ばれる由来は確か西洋のモノだっただろうか。

詳しい流れまでは知り得ているわけではないけれど、それに憧れる女性たちがいること自体は知っている。

その月に結ばれた二人は、生涯を幸福に暮らせる……そんな風に言われていることは、勉強した。

 

それを望んだ、和の少女。

外見上は既に女性らしさを全身で表し。

けれど、内面は少女らしさを大きく残した佳境の少女/女性。

 

「……」

 

ちらり、ちらりと目線が此方の身体を向いた。

女性からではなく、男性から何かを求めてくれることを求めていた。

大事な何かを、望んで良いのかを確かめようとしていた。

 

――――だから。

 

「美森ちゃん」

 

手を、強く引き寄せた。

 

逆らうこと無く、隣の少女が倒れ込み。

抱き抱えるように。

見下ろし、見上げる視線が絡み合った。

 

「……何して欲しい?」

 

そうね、と呟く口調だけは普段と変わらず。

何処か弱々しい姿は、須美ちゃんの頃を思い返させながら。

 

――――頂戴。

 

微かに動いた唇だけが、望むものを示していた。

 

いつだったか。

彼女の部屋で、互いの秘密を交換した時のように。

 

――――だから。

 

外から、何の音も聞こえない部屋の中。

内から、互いの吐息と声だけが漏れる部屋の中。

 

何時ぞやと、同じように。

望むものを、唇を介して――――交換し合った。




・精神的に一番安定してない子なので、言葉じゃなく行動を欲しがる子。
・そういう風に解釈しています。

・だから、他の仲間がしたことを望んだ。
・だから、置いていかれないことを望んだ。

・影に日向に、誰かと共に在ることを望む巫女。

他メンバーもメイン回でこういうの欲しい?

  • よこせ
  • いらん
  • 全員やれ……!
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