葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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髪を整えるだけの話。


幕間2-44

 

見惚(みほ)れる、見蕩(みと)れる。

 

美森ちゃんがシャワーから上がってきたときの格好を見て。

視線を其処で止めて、思考が固まってしまったのはそんな理由から。

 

脳内で色々と考えていた事が全て吹き飛んで。

何となしに付けていたテレビから流れる音声も右から左へ全て抜け。

視線と、思考と、意識全てが奇妙な程に引っ張られた。

 

(え、なんで…………え?)

 

本来――――と言うより、仮装、或いはそれ用の衣装はそれなりに見慣れている。

その原因自体はそのちゃんの趣味の影響、というのも在るのだが。

実際綺麗だとか可愛いだとか、その相手毎に衣装で感じる影響というのは違うのは分かってる。

 

それを扠措くとして……今日の、今の美森ちゃんの衣装。

巫(・)女(・)服(・)の(・)上(・)だ(・)け(・)、というある意味で手抜きであり。

ある意味で無駄な妄想を抱かせる格好。

 

そして、それに似た格好自体は彼女以外でもそれなりに見ているし。

同時に『巫女』という属性を持つ少女達との触れ合いも増えているからこそ。

見慣れている……と、言い切って良いはずなのに。

奇妙な程に目が奪われ、言葉も視界も離せない。

 

「……て、天理、くん?」

 

「……ぁ、うん」

 

そう零すだけが手一杯。

相手もずっと見られていることに気恥ずかしさのほうが強いのか、身体を腕で覆い隠す。

前面の合わせ部分が少しだけはだけ、その奥面を微かに見せるような状態。

身体から昇る、極少量の湯気……風呂上がりの格好。

 

「……ごめん、綺麗すぎて多分見惚れてる」

 

多分、この原因は俺の嗜好だけじゃない。

 

巫女服自体に引っ張られている、というのは何処か在るのも間違いないとしても。

強く精神的に引っ張られている、惹かれているというのは以前には無かったこと。

 

つまり――――後天的に変動した部分。

勘違いや間違いを恐れずに言うのなら……恐らく、神に近付いたことで変わった部分。

清らかな存在、己のものだと何処かで思っているからこそに余計にそう感じている筈。

 

「…………そ、そんなに真っ直ぐ言われるなんて」

 

「いや、俺自身も驚いてる」

 

小学校の頃は然程でもなかったし、ひなたのそれを見ても余り感じなかったのも確か。

ただ……多分、今その姿を見れば引っ張られる部分はあるのだろう。

亜耶の普段身に纏う意匠に惹かれないのは恐らく単純に、『大赦』向けのものであるから。

 

其処から逆算するなら、汎用的な神々……引いては天地何方とも関係なく。

集合し、習合された『神樹サマ』という形態を崇める大赦のものへは感じる部分は極めて薄く。

それより以前、扱いとしては更に旧式。

俺の先祖が持つ起源(ルーツ)……神道に於ける神々へのモノに強く惹かれる、ということだろうか。

 

(……神に近付く、ってたかしーは言ってたけど。 こんな事で強く感じるって、俺って……)

 

自分自身への軽い(軽いか?)絶望。

極力それを表に出さないようにしながら、未だに幾らか残る水滴を認める。

手招きするように近付けさせながら、どうせ使うだろうとそれなりの数持ち込んだバスタオルを一枚手に。

 

向こうも若干慌てている様子を隠さず。

隣に座った彼女の背の側へと少しだけ移動し。

 

「触るよ?」

 

「……え、あ、はい」

 

正しく状況を受け止める前に、そう話しかけて纏めてしまう。

実際、女の命……とか言われる髪に触れるなら許可は必須だし。

それ程までに重要視される部分が割と好きなのは、もしかすれば。

霊(・)力(・)を(・)蓄(・)え(・)る(・)、とか言われる理由が所以なのかもしれない。

 

根本から毛先まで。

挟み込むように髪の水分を少しずつ拭っていく。

無理に拭き取るようなこともせず、飽く迄挟むことで余計な水分を拭うだけ。

まぁ――――どうしても長髪の少女だからか、時間は掛かってしまうのだが。

 

「……天理くん、慣れてる?」

 

「慣れてる、ってのもなんか変な話だけどね」

 

ああしろこうしろ、と教えこんできたのはヒメだった。

 

『男子のものと違い、きちんと……丁寧に扱いなさい。

 その方法は教(・)え(・)込(・)み(・)ま(・)す(・)の(・)で(・)』

 

せんちゃんを助け上げ、同居を始めた頃のこと。

嫌とは決して言わせない口調。

そこそこ行われる光景ではあるが、ワカは当然に口を出せず。

そしてその練習台のように、初恋の女性相手に何度もやらされたのはある意味苦い思い出。

 

だからなのか。

アレからまだ半年ちょっとではあるけれど、個人個人の違いは触れば分かるようになり。

そして交流手段の一つ……或いは互(・)い(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)の(・)褒美のように行われるそれ。

 

流石に今となっては毎日、というわけではないけれど。

ある程度互いの意思が噛み合ったときには、銀やせんちゃんに行っているのもまた事実。

そのちゃんや美森ちゃんに披露するような事は……巡り合わせか、今まで無かったのだが。

 

「こういうの、割と好きでさ」

 

「……でしょうね」

 

「え?」

 

「髪。 目が行ってるのは知ってたから」

 

身体よりもね、と背中越しに囁かれ。

無意識に目線が下に落ち、首を大振りで左右に振る。

その一瞬で、持ち上がった部分と……それを支える女性特有のそれ。

色合いまでもが目に入りそうになったからこそ、意識から掻き消すように追い払う。

 

それを恐らくは――――感じ取ったからなのか。

くすくす、と笑う声色は何処か楽しそうで。

この数時間だけで、彼女の色々な側面を見ることが出来ていると……そう思う。

 

「……余り婦女子の身体は見ないものよ?」

 

「そういう事言わないでくれないかな……」

 

「将来を誓った相手以外は、ね」

 

髪油は……これから眠ることを考えれば軽く整える程度か。

既にシャンプー、コンディショナーと髪自体を痛める幾らかを行った後。

つまりはそれを補う保湿やらが最優先。

 

そんな幾らかの雑談、と言うには重たい会話を行いながら。

 

「普段使ってるの、ある?」

 

「少しだけ」

 

何を、と直接的に言う必要もない。

 

今行っている行為と。

欲しているものは、必然的に結び付くものなのだから。

 

「ね、天理くん」

 

「うん?」

 

拭い終えた布を片隅へ。

櫛と、たった今示された保湿剤……クリーム状の小分けにされたそれを手元に引き寄せながら。

 

「……もし、私が望んだら」

 

ずっと、こうして……髪を任せても良いのか、と。

そんな事を、微かな声で呟く美森ちゃん。

 

首元が微かに赤く染まった少女へ、顔を互いに見せずに一言。

 

「――――もし、そうなれば。 俺は、幸せかなぁ」

 

そう。

そうだよ。

 

掌でそっと伸ばし、髪に触れ。

全体へ均等に行き渡るように伸ばしながらも。

……それ以上は、互いに何も聞かなかった。

 

そうしよう、と。

お互いが、お互いに一つ約束をした。

 

ただ、それだけだったから。

他メンバーもメイン回でこういうの欲しい?

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  • いらん
  • 全員やれ……!
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