葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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やーっと次辺りで主人公目線での『勇者』の情報を出せそう。
後、中編ラスト回のヒロインアンケートしてます。


破-10

 

夜長月(くがつ)24日。

丁度週末に重なり、天候もやや薄雲が掛かるくらいで快晴と呼んで良い日。

 

ぺたん、ぺたんと。

未だに日も落ちない時間帯から、片手に母親の形見でもある布製の袋を携えて。

サンダル状の草履で石畳を叩き、幾度目かの友人宅へと出向く。

 

(……良くこんな服あったもんだ)

 

余り着るものに頓着しない、というのもあるかもしれない。

部屋の片隅に置かれた箪笥、その一番下。

いつ入れたのかも覚えていない、紺色の甚平一式を身に着けて。

 

道行く先々で似たような服装、店先に並ぶ(すすき)

否が応でも今日がそういう日だと思わせてくる陳列品。

 

(持っていけ、って騒ぐから一応買ったが)

 

袋の中に入った白玉粉と芒。

確かに月見、という名目が存在するのなら持っていてもおかしくはないが。

素材で持ち込むのはどうなんだろう、と考えるのは間違っているのだろうか。

 

芒は芒で、捧げる――――と言うよりは、()()()()()として持っているだけ。*1

太陽ではなく満月を利用する……遥か昔、西暦の時代よりも更に以前より続けられた風習の一つらしい行事。

神世紀になって以来、消えてしまった幾つもがあるのが残念だと今朝方愚痴っていた。

というより何処でそれを見ていたんだろうこいつらは。

 

(これに関しては何も言いやしないしな……)

 

漸く出来上がった各人に向けた装飾品。

以前の組紐よりも色やその他の素材に拘り、且つ時間を掛けた専用品。

これが本当に二人の言う通りの効果を発揮するのなら――――。

 

(保険として、と考えるなら……っと)

 

曲がり角を折れたところで、視界に入った姿に目を向けた。

以前に()()()()()が出迎えた、乃木家の巨大な門前。

玄関先にも芒が捧げられた其処で。

 

「てんく~ん」

 

髪色に良く似た、黄色で染められた高級そうな和服に身を包んだ少女。

大きく手を振る姿に、此方も小走りで近付いていく。

 

「そのちゃん。 何してるの?」

「丁度姿見えたから~。 その格好、似合ってるね!」

「ありがと。 そのちゃんも可愛いと思うよ」

 

多分、それが一番形容しやすい言葉だと思う。

こうしていると(普段から忘れているわけではないのだけど)名家のお嬢様らしい。

えへへ、と笑う顔が見られるだけ、親しくなれたのだと思いつつ。

 

「二人は?」

「もう中。 色々準備してるはずだけど……先に話済ませちゃう?」

「あー……いや、実は俺も伝えておきたいことがあるんだ」

 

だから、ある程度ゆっくり時間を取ってほしい。

そう告げれば。

 

「じゃ~……お月見しながらが良いのかな?」

「俺は良いけど……そういえばそのちゃんの家族は?」

「今日は帰ってこないよ。 ……というより、此処最近はそんなことばっかりかな」

 

一瞬、笑っていた顔が真顔に戻った。

直ぐに取り繕うように、苦笑に戻ったがその顔は見逃すには長過ぎて。

……両親と上手く行っていないのだろうか。

 

「ほら、話は後でも良いから~。 二人共着物だし、いこ?」

 

そんな俺の顔を見て、少しばかり引っ張るように。

俺の平熱よりもやや温かい程の体温を持つ手で、内側へ引き込むように入っていく。

 

(……変に逆らう理由もないしな)

 

そして、想像が正しければ彼女の状態は俺と同じようなもの。

何かを言える立場でもない、と弁えているから逆らうこと無く内側へ。

 

『将来は尻に敷かれてそうですね、天理は』

(一体何の話をしてるんだ、ヒメ)

 

やや呆れ口調の声色。

一体何を指して言ってるのかが分からないので、聞かなかったことにして中を見回す。

 

何度見ても立派な佇まい。

家、というよりは屋敷と呼ぶのが最も正しく思える。

家の中に池まであるし、こんなの誰が面倒見てるんだろうな。

 

「あ、そうだ。 一応俺も材料とか持ってきたから台所の場所教えて貰えると助かるんだけど」

 

以前と同じく、客室……ではなく、彼女の部屋へと案内される前。

言っておくべき事を告げれば、目を見開いてぐるんと顔が此方を向いた。

いや、今の動き方ちょっと怖い。

 

「え。 てんくん料理できるの!?」

「なんか失礼なこと言われてる気がする……。 簡単なものなら出来るよ」

 

というよりも、出来ないと料理が毎日毎晩固定化されてしまう。

 

きちんと食事は出るが、手を掛けてるというわけでもなく。

去年までに比べて『面倒を見ているという態度』が強まっている気がしていたので。

ワカとヒメの騒ぐ声を背後音声に、色々なモノに手を出さざるを得なくなったのが実情。

今年の頭から簡単なものには挑戦して……まあ、食べられなくはない程度にはなったつもり。

他人に出すにはまだまだだけども。

 

「……私も勉強しようかなぁ」

「火とかに気をつければしても良いんじゃないかなぁ。

 誰かに最初は教えてもらった方が良いだろうけど」

 

俺が知る限り、銀は家庭料理普通に出来る。

須美ちゃんは……あの牡丹餅の腕前を見る限りかなり出来る。

そういう意味ではまあ確かに、そのちゃんだけが出来ないわけだ。

 

「ねえ、てんくんは教えてくれないの?」

「教えるほど上手くないしなぁ……でも、十五夜だし。 初めて挑戦するなら良いかも」

「?」

「月見団子……白玉団子、って言ったほうが良いのかな? 作り方、簡単だから」

 

俺が知ってるのは餡とかが特に無い普通のものなんだけど。

他の家とかだとあんこが巻いてあったりする、と聞いて驚いた覚えがある。

 

「須美ちゃんもやってるだろうし、やり方勉強してみようよ」

「……! うん!」

 

やる気を出した時が一番だ、とも言うし。

……準備している着物姿を見てみたい、という気持ちは伏せつつ。

結局、手を繋いだままで――――二人、台所へと足を向けた。

*1
十五夜に用いられる芒は『稲穂の見立て』『神の依代』『魔除け』などの意味を持つ。

「わすゆ」中編パートに於ける最終話ヒロインあんけ~と

  • そのっち
  • 銀ちゃん
  • わっしー
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