葦原天理は巫覡である 作:氷桜
正しくお互いのことを認識しても、身体が動けるようになるまでは時間が掛かる。
普通、と定義して良いのかは分からないが……俺で数十秒くらい。
それに対し、せんちゃんが動き出すまでには十数分を余裕で消費する。
だからこそ、普通よりも早く起きるように心掛けては貰っているのだが……。
そう簡単に片付けば、問題は起きる筈もなく。
銀……或いは俺が声を掛け。
手伝える範囲で手伝わなければ、朝の時間は唯無駄に浪費されていくだけ。
(まぁ、こうするの嫌いじゃないけど……)
つい先日、美森ちゃんに実行したのとほぼ同じように。
けれど髪質に合わせ、手入れの手段を少しだけ調整し。
寝癖で数本が飛び出した妙な髪型を櫛で梳かしながら、それを受け入れるだけの状況。
正確に言うなら、今この瞬間も意識を覚醒させようと抗ってはいる筈なのだが。
傍目から見ると
他人がやっている姿を見たこともなく、させるつもりも起きないから。
多分俺達は、これで良いのだろうけど。
「んん……」
胸元に後頭部を擦り付けるような動作。
動物……猫とかそっちがする匂い付け、マーキングにも似た行動。
されるがまま、と言ったら良いのか。
頭にきちんと血液が回らず、だからこそ動物的な動作が目立ってしまう。
学校でこういう事しているわけではない、と分かってはいても。
されている側からすれば緊張し、下手な男相手だったら絶対勘違いさせるだろう仕草。
「早く意識醒ましてね……?」
互いの事がきちんと理解できても。
いや、理解できているからこその行動なのだろうか。
「……分かってるわよ」
「本当かなぁ」
唯でさえ皆を先に行かせているんだし。
多分向こうは向こうで、せんちゃんの朝の弱さを理解しているとは思うが。
絶対に良い気分にはならないだろうしなぁ。
「体質なんだから……仕方ないでしょ」
「ま、今は特にね」
以前に比べれば大分健康的な生活をしているはず。
こうして集団生活を始め、ついでに言えば俺も早く眠る癖が付いている。
基本的に、遅くとも22時には布団に潜る習慣が身に付いてきたというのも有り。
同室、或いは同衾するに当たっても隣で眠る少女達もそれくらいの時間帯。
物事が全て済み、高校生から大人になればもう少し夜更かしも考えるけれど……。
起きていても隣の相手のことばかりを考えているのも……まぁ不健康だろうし。
そんな言い訳を幾つも頭に浮かべながら。
柔らかさを感じる髪への櫛入れを其処で終え、一度小さく頷く。
「はい、出来たよ」
「……終わり?」
「終わり」
……多分、後で羞恥に悶えるんだろうなぁ。
そんな確信と、絶対に外では見られない光景を見られているという独占欲。
少しばかり暗い喜びを覚えてしまう俺自身がいることは、どうやっても否定できない。
実際問題、俺自身が直接話に混じるわけではないのだが。
所々で伝え聞こえてくる声色で、特に今の三年の中では密かな人気を誇っているらしい。
曰く、『ミステリアス』とか『神秘的』だとか。
……まぁ、まだ噂で済んでいる話ではあるのだけど。
これが実際の行動……告白だとかそれを断るだとか、そういう話になるとまた面倒なことになる。
特に――――彼女に対しての直接的な干渉だけは絶対に避けないといけない。
(……俺がクソ野郎だって噂も、逆に作用しちゃうだろうし)
『良心』からの介入。
向こう側からすればそれは正しく、間違ってはいない正義。
大衆的に見ても明らかに不利な側は俺達。
ただ、
それを良く知っている……体験してきたのが彼女だからこそ。
どうにかしたいと足掻くのに、それに手を伸ばせない俺がいる。
たった一人を選べていれば――――きっと、こんな事は悩ませなかった筈なのに。
「まー、くん?」
「うん?」
そんな動揺……戸惑い、混乱。
そんな幾つかが、背中越しに彼女にも伝わったのかもしれない。
その声色は、先程までの曖昧な言葉とは違って。
もう少しはっきりと……そして伺うような色合いを秘めていた。
「……大丈夫?」
顔は、見えない。
互いに見ない。
彼女が正しく起き上がったら、直ぐにでも部屋を出て……その間に着替えて貰う。
流石に其処まで手を出せる程勇気もなく、そして必要性もない。
それこそ――――完全に意識を失っている時でもなければ。
だからこそ、当たり前に取り繕って返事をした。
次へ次へ、と思考を進める為に。
「大丈夫」
「嘘」
けれど、極当たり前のように否定の言葉。
「……今度は、何を悩んでるの?」
体を動かさない。
つまり、無理に振り落とす形にでもしなければ動かない、ということか。
「其処まで変な……せんちゃんが心配することでもないよ」
だから、と告げようとすれば。
更に背中を押し付けて、黙るようにと無言で告げられた。
「貴方の言葉の真偽くらい、もうとっくに見分けられるのよ」
高嶋さんには出来なかったけれど。
表面を取り繕うのが上手かった……そして、当時の心境は今ほど安定していなかった。
そんな二つのお互いの都合で、すれ違いを起こした名前を告げながら。
「勝手に悩んで、勝手に考えを押し付けて。
……そんなに、私は信用できない?」
「誰もそんな事は」
「言ってるのと同じなのよ」
身体が、声が、話の合間の空白が。
それらが全てを伝えてくる、と小さく囁き。
「隠し事――――昔から苦手だったものね」
ね、教えて。
幾度も、幾度も繰り返される言葉。
押し付けられる身体と、浮かんでしまった彼女についてのこと。
それをそのまま伝えるのは……どうにも、今の俺には厳しいこと。
「教えてくれるまで、動かないからね」
……でも、そんな言葉の圧にはどうにも押し勝てず。
「……言うから、扉越しの話にさせてくれる?」
深い深い溜息と共に。
顔を真っ赤にし、転がるような……嫉妬心を。
その当人に伝えざるを得なくなった。
……着替えながら。
つまり、顔を見合わせながらでないだけ。
ほんの少し、救われたのかもしれない。
他メンバーもメイン回でこういうの欲しい?
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よこせ
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いらん
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全員やれ……!