葦原天理は巫覡である   作:氷桜

192 / 249
遅れましたが評価ありがとうございます~


幕間2-47

 

「それで遅くなった……と」

 

「それだ(・)け(・)では無いんですけど……まぁ、大雑把には」

 

「千景さんの朝の弱さは良く見知ってはいますが……」

 

結局、皆と合流したのは数十分後。

先んじて家を出ていた四人に遅れること凡そ十五分。

 

こればっかりはどうしても足の差が出てしまう部分。

だからこそ、遅れても良いように少しだけ早く動き出している実情が無くもない。

 

その分、現地で待ったりすることもなくはないのだが……。

どうしても昔からの癖なのか、遅くなったり巻き込まれることを前提にしてしまう。

多分、こればっかりは銀の影響を大きく受けていると自認してしまう部分。

 

「朝から何かあったのかと心配しましたよ?」

 

「それは……まぁ、申し訳ないかなぁと」

 

「実際に何か有りましたし……」

 

到着したときには、既に全員が走り始めており。

俺達の姿を目視した先頭……若葉さんは不機嫌そうな顔つきをしていた。

 

それに続く、顔を知る勇者達……。

特に事情と状態を知らないタマ先輩と杏さんも、それに引けを取らずに機嫌が悪そうで。

結局のところ、全員に心配を掛けたのと同量くらいに機嫌の悪化を齎したという状況が発生した。

 

……心配そうな目線を向けてくれたのが友奈と樹ちゃんぐらい、というのが泣ける。

 

「皆さんも見ての通りでしたから」

 

その理由は、多分深く掘り下げないほうが俺の為になる筈なのだが。

其処から逃れられないのが俺の今の在り方というやつか。

 

「……ひなたさ(・)ん(・)も?」

 

「はい、今の呼び方で更に」

 

「ごめんなさい」

 

だったら言わないでください。

そんなため息混じりに許してくれた、年上の女性の一人。

数少ない巫女としての資格を持つひなたの隣に佇んで、走る光景を眺めている理由も極めて単純。

 

(ちょっと無理しすぎたかねぇ……)

 

追い付こうとしてそれなりの速度で走っていた訳だが。

途中、つい昨日まで無かった段差に引っ掛かって転んだから。

 

当然手を付き、彼方此方擦り傷程度で済んだ自爆事故でしか無かったのだが。

今日一日は走るな、と複数人に強く言われてしまったからには身動きが取れるはずもない。

 

「然し珍しいな、天理が転ぶとか」

 

「いつぶりだろーな、多分お前に追い回されてた頃振りだと思うが」

 

「追い回してなんかないだろ!?」

 

車椅子から支え杖へ切り替わる途中の銀。

当然片腕を正しく動かすリハビリ中だから、誰かが見ている時でも無ければ常に車椅子。

だからか、こうして誰かといる時は好んで自分で立とうとしている彼女。

それに寄り添うように右側に佇み、その反対側をひなたが眺める。

 

少しずつ少しずつ、明るくなる街中。

時計を見れば、後十分もすれば全(・)員(・)分(・)の(・)朝(・)食(・)を準備し始める時間帯。

 

誰かに完全に任せる――――という事もなく、ほぼ交代制での準備として動き始めたばかりだから。

どうしても、ぎこちなさやミスも発生するがそれはそれ。

自ら志願し、必ず参加するようになったひなたや美森ちゃんがきちんと見届ける以上。

火傷や指を切るとか、酷い失敗は起きていない。

 

……これ花嫁修業じゃなかろうか、と思ってしまう部分があるのは否定しない。

 

「……仲が良いですね」

 

「まあ……小学校の頃からの付き合いなんで、どーしても?」

 

「付き合わさせられてた、って言ってくれるか?」

 

ぽつり、と漏れる言葉。

当然のように反応する銀に俺。

ただ、その漏れた言葉には何処か小さな熱が籠もっているように思えた。

何故か、という理由に関してまでは……深く追求することはなかったのだが。

 

「幼馴染、でしたか。 お二人も」

 

「一応……と言っても物心付いたときから、とかじゃないんですよね。

 ひなたさんは……若葉さんと、そうだったって言ってましたっけ?」

 

「ええ、若葉ちゃんと……ずっと、小さい頃から一緒でしたね」

 

雑談、嘗ての話。

戻ることは出来ない、既に薄れ切った血を継いだ子孫しか残らない今。

其処に取り残されながら、友人達と過ごす日々。

それに対する感情は――――想像でしか、測ることは出来ないのだけれど。

 

「だから……一人でなくて良かった、とは。 常々思います」

 

そんな、有り得ない仮定の中。

極自然な、当然の会話の中。

各々が、走る誰かへと目線を向けている。

 

先頭を走る若葉さんを。

中間上位、色々なものを揺らす美森ちゃんにそのちゃんを。

中間下位程で、息苦しそうに走るせんちゃんを。

後方、応援しながらに並走する友奈と杏さん……そして樹ちゃんに風先輩を。

 

「今こうしているからこそ、見られているものがあるのは確かですから」

 

「あー……千景さんの真っ赤な顔とか?」

 

「それは……友奈さんと話をしている時に幾らか見かけましたので。

 恐らく千景さん自身は気付いていないとは思いますが」

 

「……千景さん、割と表情豊かだよな?」

 

「ワカやヒメの影響……って言ってたぞ、当人」

 

塀の外側、一軒家を含めてアパートの周囲を回るだけでそれなりの距離。

コンクリートの道路を走ることで身につくのは基本的な体力のみ。

そして、だからこそ――――俺やひなたも同様に必要になる能力。

散々に経験したからこそ分かる、俺(・)達(・)に(・)こ(・)そ(・)必(・)要(・)に(・)な(・)る(・)能(・)力(・)。

 

それを鍛える一日、という時間を無駄に浪費したこと……させたこと。

俺の擦り傷の治療で、気付けば走り出すタイミングを失わせてしまったこと。

その何方も合わせて考えれば、申し訳無さばかりが浮かび上がる早朝の時間。

 

雑談、という会話の合間合間にこそ。

それはどうしても湧き出てくる。

 

「でも」

 

心の奥の重圧。

俺一人では何も出来ないのに、周囲に掛ける迷惑の重み。

いつしか、当然のように俺の中に巣食っていた影。

 

拡大し、縮小し。

決して消えることはない、感染して広がる呪いのように。

表に出さないようにしているにも関わらず、浮かんでしまう現象。

 

少しずつ、少しずつ。

目線が下がり、走る少女達の姿が視界から消える中。

隣から聞こえた声に、少しだけ顔を持ち上げていた。

 

「?」

 

「こうした感情を抱ける余裕が出来たこと、という意味では。

 ――――若葉ちゃん達が足掻いた結果は、残っているんですよね」

 

秘めた思いさえ、外に明かすことを禁じられていた嘗て。

そもそも……抱く余裕がなかった、抱く程外部と接する機会がなかった。

そういう意味合いでは、現在の巫女と共通する部分が存在する言葉。

 

「ん~……ひなたさん、多分違うと思う」

 

「違う、ですか?」

 

「そう。 アタシ個人の考えだから合ってるかは知らないけど」

 

本来なら、誰かが言うべきだった言葉。

それを正しく受け止めるだけの活動をしてきたのだから。

当然の報酬として、受けるべき言葉。

 

「ひなたさんを含めて、皆が頑張ったから。

 知らず知らずに自分除外してません?」

 

あっけらかんと。

何も考えていないように口にした、急所に刺さる問い掛け。

 

「…………」

 

顔を真っ赤に、ぱくぱくと口を開閉し。

今までに見たこともない表情を見せ。

 

今、言うべきことではないし……思うべきことでないのは分かっているが。

そんな顔を、魅力的だなぁなんて。

他人事のように感じている俺がいるのも確か。

 

「……あれ、アタシ変なこと言った?」

 

そして、言った当人はその意味を正しく理解していない。

 

「何も考えずにそういう事言えるの、ホント尊敬するわ……」

 

「バカにしてない?」

 

「してねーよ」

 

横からちょっかいを掛けてくる行動から逃れつつ。

絶対に言ってやらないことを、心の中で思う。

 

……こういうことを言えるから、人の心を救える勇者って呼ばれるんだろうなぁ、なんて。

恥ずかしくて言えるか。

 

そんなじゃれ合いの中で。

気付けば――――。

 

妙な重圧も、少しだけ。

薄れていた気がしたのも、確かだった。




・お互いの事情を聞いている段階で血が薄まっている理由については聞いています。

・戦闘能力を除いても『他人の心を救える』勇者の資格を持っている少女達だからこそ魅力的なんでしょうね。

他メンバーもメイン回でこういうの欲しい?

  • よこせ
  • いらん
  • 全員やれ……!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。