葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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破-11

 

「はい、出来ましたよ」

「おー。 やっぱ須美、手慣れてるよなー!」

「白玉はそんなに難しくないんね~」

 

濃い緑色の紬(つむぎ)を着込んだ銀。

薄紫色の牡丹をあしらった小袖(こそで)を身に着けた須美ちゃん。

 

たった一人でさえ華やかに見える少女たちが、色取り取りに三人。

にも関わらず、ある種の統一感が屋敷と噛み合って。

絵画のようにも見えてしまう空間が出来上がっていた。

 

『褒めてあげましょうよ、天理』

(これ以上は嫌だ、恥ずかしすぎる)

 

そのちゃんの時もそうだったが。

二人を見てもやはり一瞬思考が止まる程の衝撃を受けた。

 

可愛い、綺麗、似合ってる。

三者三様に褒めたいのだが、恥ずかしさと言葉が浮かばないのと。

色んなことが脳裏を掻き乱して、頬に熱を持ったまま目線を逸らすのが精一杯。

そんな姿を見て相手も目線を逸らすものだから、何とも言えない時間が数分あったりした。

 

それを知った上で、ヒメは褒めろと言っているのだから悪意に満ちていると判断する。

 

「では、芒と合わせてこれを飾って……後は夜を待つだけですね」

 

縁側に木製の台と花瓶。

団子を積み重ね、芒を差して形を整えて完了。

 

「準備はこれで終わり、だよな?」

「はい。 ですから……そのっち、端末で連絡してきた件ですけれど」

 

銀の言葉に頷きつつ、須美ちゃんが口にし。

ああうん、と改めてそのちゃんが自分の部屋を指差した。

 

「私の部屋なら、外から聞かれることも無いだろうから~」

 

全員で頷き、廊下を北側へと滑るように進む。

木面が反射する程に磨かれた道を進みながら。

自分の中での想定と、俺自身が伝えることをもう一度整理し。

からり、と音を立てて目的の場所へと全員で入り込む。

 

「相変わらず……」

「お、サンチョが増えてる」

 

妙な伸びた猫が以前に比べて一つ二つ積まれている。

……というか、この猫は本当にサンチョという公式名でいいのか。

仲間内だけでそう呼んでるんじゃないかという疑惑が未だに晴れない。

 

「ちょっとだけ顔が違うの~」

「どれどれ……お、ほんとだ。 なんかとぼけた顔してる」

「…………天理くん、分かる?」

「ぜんっぜん分かんねえ……」

 

あの二人だけで共有する概念でもあるのか?

多分深く考えすぎると俺まで呑まれる気がするので一旦考えないことにする。

 

「ごほん。 えーっと三人共」

 

此方に視線を集める意味も兼ねて、空咳を一度。

それで二人のサンチョ話は止まり、俺へと目を向ける。

 

「楽しむ前に話終わらせちゃいたいんだけど……先に色々聞いてもいいか?」

「あー……園子?」

「うん。 分かってるよミノさん」

 

これに関しては私から言うことだから。

姿勢を正しながら、此方に向けて腰を下ろす。

 

自然体、なのに芯が一本立ったように綺麗な姿勢。

普段と何ら変わらないはずなのに、それだけで周囲の空気が変わった気がした。

それに習って、俺達も腰を落ち着ける。

……と言っても、綺麗な姿勢を取ったのはそのちゃんと須美ちゃんだけだったけれど。

 

「覚悟は出来た~?」

 

全員の視線が合致したのを見た上で。

そんな切り出し方で、言葉を放つ。

 

「覚悟がいる話なのか……」

「うん。 …………多分、てんくん以上に。 私達が、ね」

 

ある程度予想はしていたけれど、という意味合いを込めて呟けば。

三者三様に、更に一歩真剣な表情へと移り変わる。

其処から始まるのは、少女達が選ばれた御(・)伽(・)噺(・)。

 

神樹様に選ばれた無垢なる少女達。

最も高い適性、及び性格面や運動能力面を加味して名家から選ばれた世界を護る役割。

『お役目』と呼ばれる、外敵――――四国の外からやってくる怪物を撃退する仕事。

 

『勇者』、『巫女』、そして『バーテックス』。

命を賭して行う……当たって欲しくなかった想定と一部が合致してしまう。

 

(…………まだ、小学生だぞ?)

 

そんな言葉が漏れそうになり。

唇の端を強く噛み締めて、口の中へと言葉を飲み干す。

 

年(・)齢(・)が(・)問(・)題(・)で(・)は(・)な(・)い(・)、というのは俺自身が分かっている。

だから、これは俺自身の我儘に過ぎない。

 

自分が何も出来ないのは分かっているのに。

親しい少女達を見送るしか無い、という事に。

場合によっては、永遠の別れも覚悟する必要があるという事に。

 

『……勇者、とは良く言ったものだな』

『全くです。 嘗ての意味とは異なっているのに、表面だけは同じとは』

 

そして、聴こえてくる二人の侮蔑的な言葉。

 

(……どういう意味?)

『今女子達が言った、『勇者適性』とは裏の意味があるということよ』

『神(・)降(・)ろ(・)し(・)の(・)器(・)と(・)し(・)て(・)の(・)適(・)性(・)。 肉体への負荷を無視できる上限、でしょうね』

 

――――目を、見開きそうになり。

立ち上がろうとしてしまい。

両肩に、三つの手が重なる。

 

「…………だから、覚悟がいるって言ったでしょ?」

「私達は、それを受け入れてこうしているんです」

「……そんな心配するなよ。 まあ、嬉しいけど」

 

三者三様の、言葉。

当人にそう言われてしまえば、俺が何かを言えるような状態でも無くなる。

 

深い、深い溜息を漏らして。

…………悪い、と言葉に出した。

 

「ううん。 今ミノさんが言ったように、心配してくれて嬉しいかな」

「そういえば……さっきそのっちが言っていましたけど。

 天理くんも言いたいことがあるとか?」

 

若干強引にも思える話題転換。

だが、他の二人も乗るようにそちらへと話が移り。

 

「ああ、うん」

 

今、この場でするべき話から変わってしまう。

 

「天理からするなんて珍しいな」

「どんな話なんです?」

 

……後で。

個別に、問い掛けるしか無いか。

 

聞いてしまえば――――関係性が壊れる可能性さえあると分かっていても。

覚悟を踏み躙る、質問だとしても。

俺は。

三(・)人(・)が(・)、(・)三(・)人(・)共(・)に(・)大(・)事(・)だ(・)と(・)認(・)識(・)し(・)て(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)。

 

「…………なんでもな。 俺は、巫覡と呼ばれる存在らしい」

「ふ……ふげ?」

「一言で言えば……そうだな」

 

そうして告げる。

ワカとヒメ、と呼ぶ二体の人形。

依代として用いているその中身との結び付き。

 

「神樹様以外の。

 合集しなかった土地神様の声が聞こえる、そんな人間なんだ」

 




※変更点
・この時点で「バーテックス」と呼ばれる呼称を引き継いでいる。
・但し、十二体の大型バーテックスの存在を神託で受けていない。

・『勇者適性』という呼称の意味合いを、主人公は正しく知ってしまった。
・『巫覡』という存在を、当代勇者たちは知ってしまった。

「わすゆ」中編パートに於ける最終話ヒロインあんけ~と

  • そのっち
  • 銀ちゃん
  • わっしー
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