葦原天理は巫覡である 作:氷桜
そんな話がこんな話でいいのかちょっと悩みますね。
大赦の職員、神官、巫女。
所属としてその組織の名前を名乗る人物達は、少なからず過去の隠された歴史を学ぶ事になる。
それに付随して理解する、『名家』が何故そう呼ばれることになったかの理由。
その大元――――遥か、と言うには数百年という明確な昔。
世界が未だ西暦、と呼ばれていた時代。
その頃に立ち向かい、自らの命を賭して世界を守り抜いた存在……勇者達の名前。
その名前を口にして、口にされて。
取る態度は、大きく分けて二つになるだろうと俺自身も思っていて。
そして、その通りに二人の態度は明確に分かれて見える。
「…………失礼しました」
その名前自体が存在するわけがないと分かっていても。
万が一を信じ、頭を下げ平伏してしまう人。
「…………天理くん、いや、
存在するわけがないと分かっているから。
それを口にした当人を嘘だと断じ、そして口にさせた相手を罵倒する人。
「三好さん。
信じられないのは分かってるけど。
……乃木の名前を名乗った上で言うけど、ご先祖様だよ」
「同じく。 東郷……鷲尾を代してでも構いませんが、真実だと認めます」
「アタシは別にいいよな? 真実だって分かってるんだし」
「一応名家って名乗っとけよ……。
葦原、或いは
ただ、そう言われるのは分かっていたから。
此方の秘密兵器が信じられるとは思っていないから。
常、最初からずっと見ていた少女達の……名前の持つ重みを借りて。
席を立つことを防ぎ、話を続行して貰えるように誘導する。
それだけ――――有り得ないことだから。
そして、俺の話がそれだけ薄っぺらいと分かっているから。
こればっかりは……年を重ねでもしないとどうしようもない部分。
そして、俺が大嫌いな政治の主体部分。
花本?と。
首を傾げているのは銀とそのちゃん、そして安芸先生。
それ以外は全員知っているか、何処か納得している様子がある。
「……真実、と言ってもな。
それを信じたとして、どうやって――――って話になるのは分かるだろ?」
まあ、立ち上がろうとしていた腰は再びに降ろしてくれた。
こうなれば全てを話す他無いのだが、その前に。
「無論全部伝えます。 ただ、その前に約束してくれますか?」
「聞くだけは聞くよ」
「大声で言える内容ではないので、現在は外に話を広めるのは辞めてください。
それを納得させる手段自体は……
神樹サマを介する方法。
何も知らぬ巫女からの神託。
現人神……とはまた違う存在ではあるが、神へと成った少女の復活。
俺自身の在り方を、神樹サマの中心と更に重ねることで出来ることを増やす。
そうしてしまえば、唯でさえ人より離れている霊体は更に一歩距離を取る。
けれど……そうなれれば、更に勇者達の力になれる。
何処まで踏み込めるのか、踏み込んで許されるのか。
それを知るのも、俺の親代わりと化している二柱次第。
「……?」
目の前の男性の不思議がる顔。
周りの少女達……更に言えば目前の巫女の少女も合わせ。
酷い重力と言うか、圧力に似た視線を強く受けてはいるけれど。
必要だから、というのは分かっているからなのか……それ以上には踏み込む様子はない。
ただ、うん。
互いに顔を見合わせて頷き合うのだけは辞めて欲しい。
寒気を我慢している背筋に更に氷柱が突き立つ。
「取り敢えず、説明します」
「……そうだね、お願いできるかな。 ”上里さん”」
奇妙な合間。
どう説明していくか、と悩んで口を開こうとする直前。
目線を一度向けられたような気がしながらも……ひなたが小さく口を開く。
それに相対し、やはり真偽半々という態度は崩さずに。
何を言うのかと聞く体制を取る三好さん。
俺の代わりに、と動いてくれたのだろうか。
ならば何か補助的に口を開けば良い、と判断し。
ふぅ、と小さく深い息を吐く。
そんな姿を、心配するような……それでいて何かを伝えたそうな目線で見る亜耶の眼。
その少女の前からは、逃げるような真似だけはしたくない。
……いや、何かしら想ってくれる少女達の前なら、か。
虚勢を張るのが気付けば日常となっている今。
そんな風に想ってしまうのもまた、常となっているらしい。
(……やっぱ、年上相手に納得させるのは苦手だ)
理論武装を整える事自体は好き。
その為に色々動くのも問題はない。
唯、最後の決めの部分……言葉なり何なりで納得させる、という行為自体がどうにも苦手。
眼の前で繰り広げられている舌戦を見ていれば強くそう思う。
今までの出来事。
嘗ての出来事。
自分達の自己証明。
そんな一つ一つ……そして、一つでも取り零せば。
致命的な結果が出るだろうと分かるのに。
表情を、言葉を、態度そのものを武器にして。
上から押し付けるだけではなく、相手への同意をもぎ取る手管。
俺には決して出来ない、と思ってしまいながらも。
視界を降ろすことが出来ないのは――――多分。
そうしている理由が、自分達だけでなく……俺のためでもあるからこそ。
(……いっつも迷惑ばっかり掛けてるなぁ、俺は)
心の内の苦笑い。
そんな事を誰も気にせず。
「……何とか、飲み込みました」
「飲み込めるだけ強いと思いますよ」
「お気遣い無く。 ……天理くん」
はい、と言葉にしながら。
時間は直ぐに、話は確かに進んでいる。
「――――君は、僕たちに何を求めるんだい?」
俺が、聞きたかった部分へ。
お互いの折り合いをつける、最低の線まで。
深い感謝を。
そして自分への叱咤を確かに思いながら。
重い、重い口を開いた。