葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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遂に200話。
そんな話がこんな話でいいのかちょっと悩みますね。


幕間2-56

 

大赦の職員、神官、巫女。

所属としてその組織の名前を名乗る人物達は、少なからず過去の隠された歴史を学ぶ事になる。

それに付随して理解する、『名家』が何故そう呼ばれることになったかの理由。

 

その大元――――遥か、と言うには数百年という明確な昔。

世界が未だ西暦、と呼ばれていた時代。

その頃に立ち向かい、自らの命を賭して世界を守り抜いた存在……勇者達の名前。

 

その名前を口にして、口にされて。

取る態度は、大きく分けて二つになるだろうと俺自身も思っていて。

そして、その通りに二人の態度は明確に分かれて見える。

 

「…………失礼しました」

 

その名前自体が存在するわけがないと分かっていても。

万が一を信じ、頭を下げ平伏してしまう人。

 

「…………天理くん、いや、()()()()。 何の冗談ですか、これは」

 

存在するわけがないと分かっているから。

それを口にした当人を嘘だと断じ、そして口にさせた相手を罵倒する人。

 

「三好さん。

 信じられないのは分かってるけど。

 ……乃木の名前を名乗った上で言うけど、ご先祖様だよ」

 

「同じく。 東郷……鷲尾を代してでも構いませんが、真実だと認めます」

 

「アタシは別にいいよな? 真実だって分かってるんだし」

 

「一応名家って名乗っとけよ……。

 葦原、或いは()()として血に従って言いますけど、本当ですよ」

 

ただ、そう言われるのは分かっていたから。

此方の秘密兵器が信じられるとは思っていないから。

常、最初からずっと見ていた少女達の……名前の持つ重みを借りて。

席を立つことを防ぎ、話を続行して貰えるように誘導する。

 

それだけ――――有り得ないことだから。

そして、俺の話がそれだけ薄っぺらいと分かっているから。

 

こればっかりは……年を重ねでもしないとどうしようもない部分。

そして、俺が大嫌いな政治の主体部分。

 

花本?と。

首を傾げているのは銀とそのちゃん、そして安芸先生。

それ以外は全員知っているか、何処か納得している様子がある。

 

「……真実、と言ってもな。

 それを信じたとして、どうやって――――って話になるのは分かるだろ?」

 

まあ、立ち上がろうとしていた腰は再びに降ろしてくれた。

こうなれば全てを話す他無いのだが、その前に。

 

「無論全部伝えます。 ただ、その前に約束してくれますか?」

 

「聞くだけは聞くよ」

 

「大声で言える内容ではないので、現在は外に話を広めるのは辞めてください。

 それを納得させる手段自体は……()()()()()()()()ところなので」

 

神樹サマを介する方法。

何も知らぬ巫女からの神託。

現人神……とはまた違う存在ではあるが、神へと成った少女の復活。

俺自身の在り方を、神樹サマの中心と更に重ねることで出来ることを増やす。

 

そうしてしまえば、唯でさえ人より離れている霊体は更に一歩距離を取る。

けれど……そうなれれば、更に勇者達の力になれる。

何処まで踏み込めるのか、踏み込んで許されるのか。

それを知るのも、俺の親代わりと化している二柱次第。

 

「……?」

 

目の前の男性の不思議がる顔。

周りの少女達……更に言えば目前の巫女の少女も合わせ。

酷い重力と言うか、圧力に似た視線を強く受けてはいるけれど。

必要だから、というのは分かっているからなのか……それ以上には踏み込む様子はない。

 

ただ、うん。

互いに顔を見合わせて頷き合うのだけは辞めて欲しい。

寒気を我慢している背筋に更に氷柱が突き立つ。

 

「取り敢えず、説明します」

 

「……そうだね、お願いできるかな。 ”上里さん”」

 

奇妙な合間。

どう説明していくか、と悩んで口を開こうとする直前。

目線を一度向けられたような気がしながらも……ひなたが小さく口を開く。

 

それに相対し、やはり真偽半々という態度は崩さずに。

何を言うのかと聞く体制を取る三好さん。

 

俺の代わりに、と動いてくれたのだろうか。

ならば何か補助的に口を開けば良い、と判断し。

ふぅ、と小さく深い息を吐く。

 

そんな姿を、心配するような……それでいて何かを伝えたそうな目線で見る亜耶の眼。

その少女の前からは、逃げるような真似だけはしたくない。

……いや、何かしら想ってくれる少女達の前なら、か。

 

虚勢を張るのが気付けば日常となっている今。

そんな風に想ってしまうのもまた、常となっているらしい。

 

(……やっぱ、年上相手に納得させるのは苦手だ)

 

理論武装を整える事自体は好き。

その為に色々動くのも問題はない。

唯、最後の決めの部分……言葉なり何なりで納得させる、という行為自体がどうにも苦手。

 

眼の前で繰り広げられている舌戦を見ていれば強くそう思う。

 

今までの出来事。

嘗ての出来事。

自分達の自己証明。

 

そんな一つ一つ……そして、一つでも取り零せば。

致命的な結果が出るだろうと分かるのに。

表情を、言葉を、態度そのものを武器にして。

上から押し付けるだけではなく、相手への同意をもぎ取る手管。

 

俺には決して出来ない、と思ってしまいながらも。

視界を降ろすことが出来ないのは――――多分。

そうしている理由が、自分達だけでなく……俺のためでもあるからこそ。

 

(……いっつも迷惑ばっかり掛けてるなぁ、俺は)

 

心の内の苦笑い。

そんな事を誰も気にせず。

 

「……何とか、飲み込みました」

 

「飲み込めるだけ強いと思いますよ」

 

「お気遣い無く。 ……天理くん」

 

はい、と言葉にしながら。

時間は直ぐに、話は確かに進んでいる。

 

「――――君は、僕たちに何を求めるんだい?」

 

俺が、聞きたかった部分へ。

お互いの折り合いをつける、最低の線まで。

 

深い感謝を。

そして自分への叱咤を確かに思いながら。

重い、重い口を開いた。

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