葦原天理は巫覡である 作:氷桜
にゅわー、とか良く分からない叫び。
全く目が笑ってない笑み、とか。
上から下まで食い尽くそうとする動き、とか。
そんな露骨な怒りを見せる数人と。
どうしましょうかね、と顔を見合わせる数人。
そして事情が分からず、右往左往している数人。
そんな異空間の中でどう動いていいか分からないまま。
喫茶店を離れ、個室で借りて予約した焼肉系の食べ放題にやってきた俺達。
ある程度怒りを見せるとは思っていたが、此処まで酷くなるとは思っていなかった。
「あー……取り敢えず時間制だし食べながら話しない?」
先んじて頼んでいた大皿から何枚かを取り、鉄板の上へ。
じゅう、と煙と共に匂いが立ち上る中。
のろのろと動き出す幾人かを目で追う。
「信じないのは分かってたけど……けど!」
「そのっち、この怒りは後で返しましょうね」
「いや、分かってたんだったらもう少し落ち着かない?」
海鮮類の皿を頼み、肉よりも野菜やそれらを重点的に焼いている彼女達。
白米とか、そっちの方向性は頼まず。
それ以外で腹を満たそうとしているのが彼女達のグループ。
「野菜多めにしておきましょうか」
「栄養バランスは大事だからな……」
「しみじみ言うこと?」
「千景、特にお前は大事にしたほうが良いと思うが」
特に何、という基準で選ばずに栄養バランスを主体とする彼女達。
タンパク質、脂質、ビタミン類。
確かにこういった場所で『焼く野菜』はある種の定番だからか、幾つも注文が飛び交う。
「お肉!」
「い、良いのかなぁ……お姉ちゃん」
「呼ばれたから良いんでしょ。 それよりお腹いっぱい食べなさいよ?」
そして、あの会場にはおらずに後から合流した彼女達。
手に吊るされた幾らかの袋が膨らんでいることから察するに、全員で買い物だろうか。
五人組……そして趣味も少しずつ違っている少女達。
何を買っていたのかは少しだけ気になる。
「はい、これ天理くん」
「此方もどうぞ」
「あ、はい……ありがとうございます……」
そんな最初と二番目の間。
つまりは現場にいた二つの集団の間に座り、地味に少しずつ焼いているわけなのだが。
隣に座った黒髪巫女ズが妙に世話を焼いてくるせいで、皿にどんどん積もり積もっていく。
……いや、それ自体は有り難いのだけど。
自分の分優先して貰って良いんだぞ?
上から少しずつ崩し、そんな事を思いながら噛み締める。
肉の脂、焼かれた玉葱の甘み、海老の旨味。
先に飲んでいた珈琲の味を打ち消すように、どんどんと胃に放り込んでいく。
こういった店だと余り値段を気にしないのに……と思ってしまうのは。
妙にケチくさいからなのか、それとも中学生男子の肉への欲求故なのか。
「それで、天理さん」
「んむ?」
口元で飲み込む寸前に投げ掛けられた言葉。
周囲は色々な話し合いだったり自棄食いになってたり。
体重計、って言葉を発したら生きて帰れないような気がするのは勘違いだろうか。
そんな光景を細目に見ながら飲み込み、再度隣の……ひなたの方へと目線を向けた。
「先程の話ですが……恐らくもう少し交渉できたと思います。
あの条件で良かったのですか?」
「あの条件でも十分だったと思うよ。
特に、皆のことを考えたら余り強く言いすぎると後が怖いし」
あの場で口にした条件は大きく分けて三つ。
一つ、『名家としての立場を望まないから、戸籍の人数分の用意』。
一人分……つまりはせんちゃんの分に関してだけは何とか成っても。
他の、追加で四人というのも一概に行えるものではない。
ある程度以上の権限を持ち、裏から手を回せる人へ依頼する最低限の部分。
正直たかしーの事を考えて後数人分追加、というのも言うか迷ったのだが。
実際に成功してから――――或いは増えてから、という形に落ち着き。
そして、向こうからしても波風が余り立たない形を了承し。
この件に関しては、一旦お互いの意思が一致したと言って良い。
二つ、『夏休み終了……九月頃までの遅延の依頼』。
ただ、これに関しては出来れば程度。
ついでに言えば其処まで早急に動くとは思っていないから、飽く迄相手が性急な場合。
元々夏休み中にある程度の成果は出し、目に見える形で言い張るつもりではあった。
それが明確に期限が切られてしまった、と言うだけのこと。
そして……その事に妙に発奮したのが我が背達だったりするのも余談。
三つ、『勇者候補達との接触の機会』。
これは二つ目……神樹サマへの工作が成功した上で、という大前提が存在するのだが。
無闇に外に出るような行為が防がれた場合、それこそ彼女達の立場は宙に浮く。
勇者としての力を分配すれば、それだけ与えられる力は減少する……ということを鑑みるなら。
何かしらの部分で妥協するなり作戦を立てるなり、そういった部分は絶対に必要になる。
その取っ掛かりを用意して貰う、という事。
それに――――もし計画が消えた場合。
その計画の中枢部分に座し、話を聞かされている亜耶の立場がそれこそ危うくなる。
そういった俺個人の欲望を可能な限り伏せてはいたが、恐らくはバレバレだったのだろう。
苦笑と生温かい目線とを向けられるのは、妙に恥ずかしかった。
「ですが……」
「絶対に通さなきゃいけない立場の構築は通ったんだし、喜んでいいと思うんだけどな」
現状、体調を崩したとしても病院に駆け込むなんてことも余り出来ていなかった。
いや、必要があれば当然それを実行したことは何度もあるが。
ただ、それも今後は出来るようになるし。
学校にだって行こうと思えば行けるようになる。
唯一、せんちゃんが先行して持っていた立場を皆にも得ることができた。
これからの人生を再度作り直していくのなら、必ず必要になるだろう部分。
それを何とか納得して貰えた――――そういう意味では、権力を保持していて正解だったのだろうが。
胃の辺りに鈍い何かを抱え続けていることは変わらない。
タレの味で食べている、という気にもなる玉葱、ピーマン、玉蜀黍。
減っては増えて、増えては減る皿の上。
妙に重ねられた注文皿の枚数は見なかったことにしておこう。
「それにさ」
「?」
「大赦に借りを作るのも、好きじゃないだろ?」
更に一切れを飲み込んで。
多分、その部分は此処にいる全員に共通する部分。
そして、特に嫌っている気がする彼女の事を慮る気持ちの発露。
「……そう、ですね」
周りからすれば分かり易いらしい、俺の表情。
それを読み取ったのか――――察してくれたのか。
微かに笑みを、頬には紅を浮かべながら。
有難う御座います、と微かに聞こえた。
当たり前のことだよ、と微かに返して。
反対側の脇腹を、指で摘まれ引っ張られた。
目線を向ければ、
はは、と浮かんだのは苦笑いで。
両側から更に積まれ。
それを崩し、代わりに皿に積み。
そんな行為を繰り返しながら、両側から声が交互に届いた。
「……私達の、ですからね」
「……他の子達には、目移りしないでくださいね」
他の子、とは一体。
そしてこの重圧の理由は一体。
――――多分、文字通りに。
この場にいない、或いはこれから加わらない相手達なのかなぁ、とか思いながら。
「その前に俺が死ぬんじゃないかな、その場合」
冗談にもならない言葉を口にして。
再度、横から強く引っ張られた。
頬と脇腹、ヒリヒリと痛む。
……そんな、平和な休日だった。
・にっこり笑顔を浮かべながらの守護陣構築。
・既に分かっていることでしょうけど、くめゆの展開は開始の大前提時点から大きく狂っています。
・色々と引っ掻き回されすぎてる受け身の立場、でもある。