葦原天理は巫覡である 作:氷桜
前-1
「私は解放されたわ!」
「夏休みの宿題とかありますけども」
「お姉ちゃん……恥ずかしいよ……?」
ばばーん、と奇妙なポーズを取っている風先輩。
一部はそれを見て拍手を重ねているが。
何方かと言えば大多数側なのは白けた目と、それを恥ずかしがる目。
期末試験終了後、然程時間を置くこと無くやってきた終業日。
明日より夏休みに入る、ということを踏まえてのテンションの高さなんだろうけれど。
俺個人としては此処までの期日、周囲に意識を向けっぱなしの日々だった。
(……半ば想定はしてたけど、男女間での評価が違いすぎるんだよなぁ)
せんちゃんが告白された、と述べた日よりそれとなく調査を続けていたわけだが。
その中で気付いたのは、俺が常に助けられていると感じている少女達。
日常より感じていたそれが、思ったよりも広範囲に広まっていたことだった。
今いるクラスでの扱いは……実際、そう悪くはない。
多分それ自体は、周囲ともそれなりには交友関係を構築していたというのが半分。
後は銀に対する全員の接し方と、休憩時間に於ける集団での過ごし方。
それに加えて半ば雑用係として成立している勇者部としての活動があるからだと思う。
それに対し、他クラス……中でも一番酷かったのは同級生組の男子。
『侍らしている』
『手に掛けている』
『複数を同時に相手している』
どれも側面を切り取れば事実だし、自分でも自覚している部分。
ただ、それだけを以て俺以外に声を掛ける理由にするのはどうかと思う。
言うだけならば俺に――――そう口にすることの無意味さもあるから。
話を伺う、耳を尖らせるだけに留めてはいたのだが。
話が広まる、という事自体はどうやっても抑えることは出来ない。
……せんちゃん達の今後を考えれば、明らかにマイナスな行動。
それに対応できないことを理解し、歯噛みするしかなかったのは俺だけの秘密。
ただ、女子生徒側は余り悪い評判が広まっていない事は意外でもあった。
理由は単純な話で、勇者部の少女達の雑談を交えた
恐らく無意識でやっているのが友奈と銀。
恐らく意識してやっていたのが美森ちゃんとそのちゃん。
その差は、多分は生まれと学んできたもの。
幾らかでも理解できてしまうのは、彼女達に対してのある種の信頼故からだろうか。
……それはともかくとして。
結局、半分は生暖かく。
残りの半分は
女子生徒からの排斥やそれに近い行動をせんちゃんが取られないのもそれが理由。
部活と根回し、その二輪が他と曖昧に距離を取っていた少女を守っていた……そんな話。
(……男子側の意識を完全に塗り替えるのは無理。 もうそれは諦める)
だから、せめて大多数……とはいかなくとも。
今のクラスのような状態を保てるのが後少し増えてくれれば、対応できなくもないんだろうが。
それは今後の学校での立場作りと、親の方から見た俺の立場とで動くしか無い。
そう結論付けるに足る日々だった。
「で、物思いに耽ってる風味の黒一点」
「せめて名前で呼んでくれません?」
そんな雑な呼び方で意識を浮上させ。
全員から目線を向けられていることに気付きながらも、この場で最も力を持つ相手へ目を向ける。
恐らく――――何人かは、何を考えていたかに気付きつつも。
現に、美森ちゃんの目が僅かに細くなり。
せんちゃんの口から溜息が漏れたので。
「話聞いてる聞いてないは良いけど、これからの予定だけとっとと話しなさい。
考えてないとか言ったら殴るわ」
「物理的手段に頼りすぎてません?」
……いやまぁ、物理的な力ってどうなんだろうと思わなくもないが。
間違ってはいないので、苦笑を浮かべる他無いのだが。
「って言うか、勇者部に関しての予定を俺が言って良いんですか?」
「この夏休みはどうしてもアンタ優先になるでしょ。
……と言うより、今後の人生全部?」
「やめましょう。 周囲の目が殺意に満ちるので」
冗談でしかないのは分かってる。
ただ、その瞳の色はどうにもそれだけではなく。
次いで、その言葉を口にした瞬間周囲の空気が重くなった気がする。
……うん、嬉しいけどそれは逆効果じゃない?
こほん、と一度空咳をすることで意識を此方に向けつつ。
色合いの強い、意識の強い少女達の目線を集める。
「あー……何度か言ってるけど、改めての確認。
残りは一軒家側で。
一室を結界として囲み、身を清めた上で全員が顔を合わせ。
常に身に着けるように傍にいる、
ワカ、ヒメ、それにたかしー。
それらの声を聞こえる側とそうでない側、幾人かが補助しながらの相談を行う。
その事自体は昨晩にも確認しているから、改めては口にしない。
「差し当たっては絞った幾つかの依頼。
特に友奈と風先輩の大会応援が次の日曜日。
その間、俺達は出来る限り部室に顔を出してパソコンでの依頼確認・対応」
そして、七月中に夏休みの宿題の片付け。
それなりに量はあるが、互いに教え合ったりすれば片付く部類。
一応日常を記録する日記みたいなのも無くはないが、その大半は俺達全員で過ごす事になる。
本番は八月に入ってから。
その意識が固まっている以上、前提となる知識は共有済み。
幾度となく相談し、打ち明け。
そうして内側に取り込んだ犬吠埼姉妹、という新たな仲間もいる。
だからこそ。
「……結局暫くはやること変わらないけど。
体調崩したりには互いに注意して、上手くやっていこうか」
どうせ明日も学校には来るのだし。
うん、ええ、そうだね~。
色取り取りの声色を耳にして、互いに目を合わせて頷いて。
その上で……無事に用件を済ませる。
それは、