葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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前-3

 

既に日は沈み、暗闇が周囲を支配する中。

人工の明かりの中に男女が一室に集っている。

 

若干息苦しささえも感じるだろう、窓さえも開いていない密室。

そんな中で、高く、低く。

一つの声が終わりを告げるごとに、隣の声が一つ増える。

 

「~~~♪」

 

言葉になった祝詞。

言葉にさえ成らない唄。

それを隣で聞きながら、伝える言葉を想って更に告げる。

 

累計三つ。

それは巫覡として、巫女としての才能を持つ者たちの輪唱。

 

唄という概念は、唯それだけで()()()()()()意味合いを持つ。

 

言葉が理解できなくとも。

文字が理解できなくとも。

何となくに快・不快という二つの印象を与える原始的な広報手段。

 

つまりそれは、特殊な才覚……或いは才能を持たない人へも影響を与え。

たった一人では大したことが出来ずとも。

 

範囲を狭め。

同じことを複数人で行い。

その身を清め。

 

遥か昔に執り行われていたような儀式をそのまま引き摺り出したような。

厳かな雰囲気と、現在有り得てはいけない雰囲気。

二面性を共に広げながら。

壁に当たり、返ってはまた響く。

 

そんな事を、三度繰り返す。

 

一度目で嘗ての神域のような空気へと代わり。

二度目でワカとヒメ、神々の気配を周囲へ漏らし。

三度目で目の前の人形が軽快に動き出し、俺の肩へと張り付く。

 

(…………まあいいか)

 

する意味もないのだが、口にするのは野暮というもの。

そして意味がないことを理解できるのも、この面々だと数が限られるのも在り。

周囲の声が静まり返るのに合わせ、皆の顔をもう一度伺う。

 

周囲の様子を伺い、心配そうに見つめる姉妹。

既に幾度も経験し、目の前の資料を確認する友人達。

俺達の変化を伺い、何かがあれば動こうとする先祖と子孫。

 

各々の性質であり、気質の通りにしながらも。

恐らく、最も違和感を感じているのは友奈だと思う。

 

周囲をきょろきょろと伺いつつも、二度目の変異で俺から目線を外さなくなり。

三度目の……肩に乗った行動で目を疑うように擦りつつ、何かの言葉を漏らすのが分かった。

 

「あ」なのか、「え」なのか。

何かに気付いたのか、純粋な疑問なのか。

考え込むことが大前提となりつつも、自身との何かを感じた故なのか。

僅かに立ち上がりそうになった、その時に。

唄は終わり、俺達は改めて落ち着きを取り戻す。

 

「あー……あー、聞こえる?」

 

「……ああ、聞こえているぞ。 友奈」

 

「……うん、若葉ちゃん」

 

今に至るまで、直接的に対話を行ってこなかった二人。

 

それは、末路を看取れなかったという後悔も大いにあったのだろうと勝手に思い。

必要になるまで――――或いは直接願われるまではするつもりもなかったのだが。

結局今に至るまで互いに求めなかったのだから、奇妙な程に頑固……とでも言うべきか。

 

「……あれ? 私の声?」

 

「近いけど違うぞ。 ……いやまぁ、近くなる理由もあるんだが」

 

「えー、なにそれー」

 

疑問符を頭に浮かべているように首を傾げている友奈。

まぁ、()()()()()()()神樹サマが……って普通は考えるはずもない。

寧ろ知っている俺のほうが例外と言うか、異常と言うか。

口を濁した俺に文句を言おうとするも、それを一旦横に置く。

 

「取り敢えず、これで聞こえるようにはなった……よな?」

 

『何方かと言えば此方の方が向いておるのかの、天理には』

 

『どうでしょう。 陣を身に着けるまでには確かに時間が掛かっていましたが』

 

「あー、あー。 今は何も聞こえないからな!」

 

俺自身には普段と変わらないから、聞こえていない筈の側。

現状、縁を深く結べていない……そんな言い方をすると悪いか。

樹ちゃんに風先輩の二人へと確認するように聞けば、横から二柱の声。

しかも嘗てを煽るような羞恥が浮かぶ声で大声を出し、苦笑と生暖かい目が複数向けられた。

 

やめろ、絵の成績は其処まで良くなかったんだよあの頃……!

散々やったから成績が上向きになったのは思わぬ副産物だったけども!

 

「あー、聞こえてる聞こえてる。 けど面白い事聞いちゃったわねー」

 

「お姉ちゃん……」

 

「面白くもなんとも無いんですけど!?」

 

俺にとっては、という前置きが付くが。

 

思わず反応してしまうからこそ弄られているのは分かっていても。

()()()()が残っているからか、反射的な行動が強く出てしまっている。

 

「ふーみん先輩、その辺にしてあげて~」

 

「ずっと続けられそーな気がするもんなー……これ」

 

やいのやいの、言い合ういつもの部室での状況が繰り広げられ。

ある程度のところで面白がっていたそのちゃんとタマ先輩の介入。

……出来ればもう少し早くしてほしかった、というのは流石に贅沢なんだろうか。

 

「ほら、天理くん。 話が進まないわよ?」

 

「ええ……此処でも俺が進行役かぁ……」

 

「一番事情を理解しているのは天理くんですから」

 

ほんの僅かに空いた空白。

其処を狙っていた……いや、そう考えるのは良くないよな、うん。

両隣を固める巫女達のそんな言葉に現実逃避をする。

 

言っていること自体は間違っておらず。

結局は俺がしたほうが早いということも分かっているから。

我儘でしか無く、唯浮かんだ……そんなことだからこそ正しく意識を戻し。

こほん、と喉のつかえを取るように一度咳を漏らした。

 

「じゃあ改めて。

 今のこの部屋は神様の力……まぁ、俺に力を貸してくれてる神様達に護られてる。

 樹海化、とまでは言わないけどその手前……みたいなもんだと思ってくれ」

 

半数以上には伝わり、一部には分からない説明。

うん、単純に『結界』って言っても分かるか曖昧だったし。

 

風先輩はその内言葉の意味も学ばされると思うが、俺からもどっかで説明しておこう。

ただ、それは今ではない。

 

「確認ですが、つまり……”バーテックス”の名前を出しても大丈夫、と?」

 

「少なくとも、外の世界とは断絶してるはずだ。

 二重に結界を抜いて確認できる可能性自体は否定できないけど……。

 ワカの存在が多分上手い迷彩になると思う。 良くも悪くもね」

 

内容を理解できない会話。

ただ、その安全を確保しなければ成立しない会話。

 

幾度目かのそれを……再びに、始めようと思う。

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