葦原天理は巫覡である 作:氷桜
「改めてになるけど、本格的に動き出すのは八月に入ってから。
各々の予定の調整は頼んでたけど、どうなりそう?」
周囲……特に学生の身分を持つ少女達へ問う。
言ってしまえば、救い出した少女達は現状柵を何を持たない。
つまり何をするのでも、此方の動きを最優先にすることも可能ではあるが。
親に養われる――――ある種の立場を持つ少女達ならばそうも行かない。
その為の理由も用意はしてあるのだが、ある程度調整は必須。
これは名家の子女としての立場を持つ三人の共通認識でもあった。
「私も樹も基本は大丈夫。
ただ……登校日のことも考えてよ?」
「樹ちゃん、小学校の方の登校日いつ?」
「七月の終わりと……八月の、お盆前です。
確か……12日くらいだったかな?」
後でカレンダーを見せて欲しい、と頼んで快諾を受け。
手元に用意していた大きめのカレンダーに仮予定として書き込んでいく。
取り敢えずの日程として必要なのは三日、としているが……。
長くなることは合っても短くなることは先ず無い。
一週間とは言わないが、それなりに空く期間は必須と言っても良い。
俺達中学校の方でも、同じくらいの日程では合った筈。
手元を確認する限り……うん、七月の29と八月の12か。
基礎教育として統一している……というのは簡単に考え得ることではあるので。
取り敢えずは同じ日程として考えておく。
「そのちゃん達は?」
「あ、私は一日にお父さんが帰ってくるから無理だって。
二日以降でお願いして良い?」
「私は二日に鷲尾の家に呼ばれてるわね。
……そのっちは?」
「七月末かな~?
多分わっしーのお家と調整したんだと思うけど」
なんだろう、背筋が凍る寸前と言うか。
当たり前のことを話しているはずなのに、ちょっとだけ嫌な予感がするような錯覚。
「あ、アタシは特に大丈夫。
昨日電話で話したら『元気でやってるなら良い』ってさ」
妙にチラチラと此方へ向けられる視線を問い質そうと口を開き。
けれどそのタイミングで銀の声が聞こえて切っ先を失う。
そうか、と漏らすのが精一杯。
……何となくだが、此処で流さないほうが良い気がするんだが。
仕方ないので後で個別で聞く。
「そうなると……三日以降、十日くらいまでってところか。
念の為に聞くけどせんちゃん達も平気だよね?」
「ええ……気が乗らないのは事実だけれど」
「たかしー、亜耶は?」
『ちょっと待ってー……………………うん。
絶対に外せない神事はその期間無いって』
ならほぼこの期間内か。
凡そ一週間の間、結局は
既に手紙を経由してやり取りの前提は済んでいる、凡そ大きな迷惑は掛けないで済む筈。
「あの、天理さん」
「ん?」
「結局細かい内容は後で……としか聞いていないのですが。
神樹様への対応として何を、どう為さるつもりなのですか?」
後で電話越しにやり取りしないとな、とボールペンを何度かカレンダーに押し付けながら。
ああでもないこうでもない、と脳裏に浮かべながら考え込んでいれば。
いい加減話せ、と強い非難にも似た意思がビシバシと伝わってくる。
……此処まで話せなかった、というのも分かってくれてるだろうし。
飽く迄ポーズなのだと信じたいのだが、本気な気もする。
「あー……杏さんなら何となく分かってると思うんだけど」
言葉を選びつつ話し始める。
唯でさえ薄着の状況、それにスタイルの良さがそのまま出るような状態だ。
少し近付かれるだけで困ってしまう男子である以上、迫られないように注意したい。
変な話、蔑まれるような目で見られたら羞恥で死ぬ。
「私、ですか?」
唐突に出た名前。
ただ、何となくに呼ばれた理由は気付いていそうな声色。
「この間、たかしーに引っ張られて一度
「……ええ、助けられたときのことですね」
客観的にその光景を確認できた仲間がおらず。
同行していた俺を除いた二人でもなければ理解して貰い難い感覚ではあるのだが。
あの時、たかしーは『時間間隔が内側と外側で違っている』と言っていた。
そして何より、同じ体験をしていることで。
それが俺一人が言っているだけではないことである、という理由付けとしても成立する。
「あの時は内部時間で一週間にも満たなかったけど、それでも時間は気付いたら数分は経ってた。
対応に向かったとして、内部でどれだけの時間が掛かるか分からない以上。
内外差をできるだけ広げられる人に対応して貰うしか無いけど」
其処でたかしーへと目線を向ければ。
以前に聞いた通りに返事を返す。
『完全に時間を止めるのは無理……って言うか、なんて言うのかな。
肉体毎入るから記憶は持ち帰れるし、肉体的な変異は発生しないはずだけど。
私は神樹様本体でもないから、多分掛かった時間次第では一日二日は経っちゃうと思う』
「……ええっと?」
質問に答えているようで答えていない。
ただ、この前提を踏まえでもしないと数日無理にでも空ける理由に結び付かない。
ので、続ける。
「何度か説明してるけど、神樹サマの和御魂化……。
正常化の為に必要なのは、此方の世界の神樹サマ本体ではなく精神的な方。
もうちょっと言うなら霊的な存在に干渉する必要がある」
「はい」
「その為にしなきゃいけないのは、精神世界への突入。
これ自体はたかしーが協力してくれるから良いんだが、問題は
失敗した場合、ということは考えないで良い。
もしも、なんて機会は二度もないのだから。
挽回する方法も手法もない以上、成功することを前提として。
俺は、自分の存在そのものを削り取って成功させる。
「向かう際は神社から入ることになるとしても、だけどさ。
数時間後に、唐突にそんな場所に現れて疑われないとは思えない」
現実的に考えて有り得ないことだから。
それこそ――――樹海化現象でも起きていれば別だけれど。
それに対抗する手段を公的に持っていない今だからこそ、余計に疑われるのは確実。
「……その対策、ですか?」
「そう。
丁度神道の関係の神社を管理していて、此方の事情を少なからず知っていて。
序でに言えば俺が招いても然程問題はない場所が一つだけある」
……その場所に最初に思い当たったのもまた。
目の前の……封じられていた巫女だった。
「まさか……
「そう。 俺の本家筋……と言って良いのやら。
まあ上里寄りに染まってはいるけど、神職としてはそっちが正当の筈だからね。
少し遠いけど
内部で多少苦労はしそうだが、恐らくは造反神サマ付近に降りることにはなるだろうし。
……前回のことで、縁を結ばれているはずだから。
「以上、現実的に立てられる目を逸らす方法。
具体的な方法は今回と同じように、巫としての力を利用しての土地の掌握と沈静化。
やり方自体は……三柱が近くにいるし、まだ時間はあるから練習してからだな。
……どう思う?」
……呆れているのか、どうなのか。
少なくとも。
その場で、反対するような意見が出ることだけは――――無かった。
使えるものは何でも利用する系主人公。