葦原天理は巫覡である   作:氷桜

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あ゛ー、と口の端から言葉が漏れる。

 

少なくとも俺くらいの年齢でするような声とは思えない声。

額、両目を片手で覆うようにしながら椅子に腰掛け天井を見上げ。

妙に疲弊した気がする頭と目を閉じ、僅かに癒やしの時を得る。

 

(特になにかした訳じゃないのに妙に疲れてる……)

 

昼間に予定を話して。

夕方……夜半手前くらいにも予定を合わせて。

夕食を済ませた後に各自解散、風先輩と樹ちゃんを送ってから全員で帰ってきただけ。

 

そんないつも通りの、ある種の規定行動を行っただけなのに。

妙に精神的にも肉体的にも疲労が生まれ、居間でぐだぐだと居座っている。

 

室内には微かに電子音。

何も無い無音に近い状態というのも引っ掛かって、適当に回した番組だったが。

どうやら歌謡番組……音楽系の番組だったのか。

余り耳にしない類のアイドル曲が流れているのが耳に入る。

 

『……疲弊しておるなぁ』

 

『なんでだろうな……』

 

半ば呆れたような声色が脳内に響き。

姿勢を崩すこともなく話を続ける。

 

もしかすれば――――こんな格好を続けているのも。

誰かに見つけて欲しい、なんて甘えた理由が混じっているのかもしれないけれど。

 

『理由は単純でしょう?』

 

『そうかぁ……?』

 

『祝詞の輪唱と神との対話、その波及。

 精神的にも肉体的にも消耗して当然の行為です』

 

それだけかなぁ、と気が抜けたような脳で思う。

 

濃厚な時間、多種多様な香り、吐き出せるだけ吐き出した情報。

そのどれもが、両面から俺をヤスリで掛けるように削り取ったのは想像が付く範疇で。

ザラザラになってしまった脳裏では、薄ぼんやりと浮かぶ言葉をそのままに吐き出してしまう。

 

『その後にあった事も理由の一つだったりしねーかな……』

 

浮かんだのは部屋の封が解かれた後。

色々と食事の準備をしている最中でそのちゃんと美森ちゃんに問い掛けたこと。

 

『二人共、ちょっと聞きたいんだけど』

 

先程の話の時の違和感。

後、奇妙な視線と寒気の理由を聞こうとして。

 

『あ、丁度良かったぁ。 私もてんくんにお願いがあってね~?』

 

『そうね、帰り際に言おうと思っていたけれど。

 今済ませられるならそうしちゃいましょうか』

 

ある種の答え合わせ、そして逃れられない罠のような感覚。

ニコリ、と笑っているはずなのに妙に嫌な予感がし続けている状態。

例えて言うなら……何かに絡め取られているような。

 

『な、何を?』

 

『大したことじゃないんだけどね~、ただ来て欲しいって言われちゃうと。

 聞かないわけにもいかないし』

 

『表向きは夏祭りの協賛などに関する相談と、久々に顔を見せる事の要求。

 ただ……出来れば天理くんも一緒に来て欲しい、って内々に言われてね』

 

そう問い掛ける、表向きは唯の相談。

しかし裏向きにしてみればほぼ強制。

 

……今までにも色々と呼ばれ、出向いたことはあったけれど。

二人にした事、望まれたことを考え……そしてそれを知られた、と考えると。

何を言われ、迫られるかは半ば分かっていながら頷く以外無く。

其処でもガリガリと精神を削られた……気がする。

 

いや、もう色々と理由がありすぎて多寡の判別が付かなくなっていたと言ってもいいけど。

 

『遅かれ早かれ……ではあるんだろうがのう』

 

『貴方達の関係性は特殊、我が父のようなモノを求めているようなものですからね』

 

『……証拠があれば何か違うのかなぁ。 例えば――――()()()

 

ぶつぶつと脳内の言葉を垂れ流していれば。

各々の感想……の中に交じる、少しだけ淀んだ声。

女としての情念が混じったような……彼女達と触れ合う中で幾らか聞いた声。

 

だからこそ、そしてそうしてしまったと思うからこそ。

触れずにいられる時間はそう多くないだろうな……と理解しつつ。

 

「何だか、色々と負担が増えてきた気がする……」

 

「――――何の話?」

 

「うぉ!?」

 

何の気無しに口にした言葉。

それは周囲に誰もいないことを前提にした愚痴のようなつもりだったのに。

唐突に聞こえた、聞き慣れた声色に思わず焦りの声が浮かぶ。

 

「疲れているようだったから……声を掛けるかは悩んだのだけど」

 

手を頭部から少しだけ逸らし、薄目を開けて入口側へと目を向ける。

声から予想できていた通り、黒髪の……少しだけ年上の女の子。

我が家に住まう、たった二人の異性の片割れの顔。

その声と表情に浮かぶのは、心配の二文字。

 

「あぁ……いや、やらなきゃいけないことが積もっていくなぁ、って」

 

「……そうね。 やりたくもないことも、やりたいことも。

 生きていく以上は色々と増えていくものね」

 

この年頃になると思う、或いは患うらしい妙な病。

その断片っぽいよなぁ、と思う冷静な自分が何処かにいるのを感じながら。

普段ならば表に出さないような愚痴、言葉を話している。

 

「やっぱり、そういうものなのかな」

 

「――――昔だってそうよ」

 

とすり、と軽い身体が隣に座る。

ほんの少しだけ離れて、接することはなく。

それでも、身体を引っ張られて少しずつ傾いていく。

 

「誰かに認めて貰えるから。

 失ってしまった、殺されてしまったクラスメイトの復讐の為。

 お互いを、お互いが護りたいから。

 ……自分が、やれることをやろうとしていたから。

 私達だって、そんな理由で戦っていたんだもの」

 

されるがままにされていた。

気付けば、彼女の腿へと頭が横倒しにされていて。

安心させるかのように、耳元へと手が置かれていた。

 

望んで得たもの、望まずに課せられたモノ。

その差は然程存在せず、何をしたいかで考える。

……そんな、分かり難いアドバイスのような言葉。

 

ただ――――小難しいことは考えたくもなく。

そのまま、引き込むような眠気に負けてしまいたい欲求に苛まれ。

 

「……良いのよ。 おやすみ、まーくん」

 

幼い頃の、まだ彼女が見えていた頃を思い出すかのように。

そのまま……静かに、意識を手放していた。

 

まだまだだなぁ、だなんて。

当たり前のことを、思いながら。

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