葦原天理は巫覡である 作:氷桜
応援部の応援作業が終わった後。
その翌日は流石に疲労もあるだろう、ということで。
表向きの用事のため……という言い訳を込め。
全員で
――――最初は、それで良かった。
「うへへへ…………」
「なぁ友奈、風先輩遂に頭にまで
「聞かないほうが良いよ、天理くん」
集まった後、移動中からか。
定期的に何かを思い出したかのように奇妙な笑いを浮かべている。
無論全員が不審がってひそひそと相談を続けているわけだが。
そんな俺達にも気付かない程、何か幸福な記憶にでも浸ってるのだろうか。
流石に当人に聞くのは怖すぎるので控え。
銀を含めた嘗ての勇者三人組が服を選びに行くのに合わせ。
俺達は俺達でまた別の店を見て回っていた。
……いや、俺も新しい下着だとか
序に最近作れていない編み物系列の素材も買い足したけれど。
少し前に夏用の服を買っていた友奈にせんちゃんは追加は控え。
そして風先輩と樹ちゃんの服に関しては……こう。
三人が向かった店よりは、もう少しお買い得感がある店の方が好みとか何とか。
色んなところで節約意識が強いのかなぁ、なんて思いはあるけれど。
それを口に出さないだけの分別は、俺にもあった。
「お姉ちゃん……昨日帰ってきてからずっとああなんです」
そんな中で漏れた言葉。
唯一事情を知るのだろう友奈が
多分聞かれることはないと分かっているから、口に出したような気もする。
「……ずっと?」
「理由は聞いてみたんですけど……良く分からないことばっかりで」
浮かれポンチにも程があると思うのだけど。
不安そうで、けれど呆れている感じで。
まぁまず何かしら自慢になる種を見つけた、ということなのだろうけど。
「なぁ、樹ちゃん」
「はい、どうしたんですか天理先輩」
「斜め四十五度で叩くのと垂直で叩くの、どっちが治ると思う?」
「多分余計に変なことになりますから……」
こういうときは衝撃を与えれば一時的に良くなるものと相場が決まってる。
ただ、どっちが効くかは人によるので妹に聞いてみたのだが。
少し呆れた目で見られてしまった。
「いやぁ、だってさ……。 折角樹ちゃんだっておめかししてきてる訳だし。
それなのに姉がアレってのも苦労するんじゃない?」
「……い、良いところもいっぱいありますから」
夏らしさ、と表現するには俺の表現力が足りない。
白を基調としたワンピースに日差しを遮る小さな帽子。
草原、或いは花畑なんかに立っているのが相応しそうな想像を思わせる格好。
……何というか。
俺の周りにいるのはどっちかと言うと活発か冷静沈着なイメージが強く。
居間の樹ちゃんの格好が当人に一番似合っている、という当たり前の事実を当たり前に思う。
いや、俺も自分自身で何言ってるんだろうとは思うが。
それ以外に言えることがないんだから仕方ない、ということにする。
多分夏のせいで茹だってるんだろう、脳が。
「む~」
「……なんだよ」
上から下までを幾度か往復していれば。
多分柱にだって話しかける気がするくらいに浮かれているパイセンをせんちゃんが見張り始め。
気付けば直ぐ横にいた友奈が珍しくむくれている。
「樹ちゃんばっかり褒めてるなぁ、って」
「いや、まぁ……今の風パイセンがあれじゃん?」
そうなる理由。
前もって用意していた言い訳でも在りつつ、実際の理由でもある。
いや実際問題、外見
全員が全員、出掛けることを意識した外行きの格好。
しかも外がそれなりの暑さを保っているから薄着寄り。
俺以外の……要するに通り掛かりの男性や少年がちらほら皆に目を向けているのは気付いていた。
「ああ……うん、言いたいことは分かるけどさ。
それでも、っていうのはあるんだよ?」
「まあ……うん、言いたいことは薄っすらとは分かった」
「ちゃんと分かって欲しいんだけどなぁ」
曖昧な、お互いにはっきりと口にしない会話。
正直に言えば、俺達の間では珍しいと言えば珍しいそれ。
ただ、そうなってしまう理由を思えば。
深く追求する気も起きず、寧ろ俺自身が申し訳無さで埋もれていく。
何しろ……友奈から
それに対しての返事をして、あの部屋で過ごして以降。
色々とタイミングやらすべき事が積み重なっていたとは言え。
二人で何かをした、という覚えがない。
内心申し訳ないとは思っていたし、内側に潜った後で何かしようと薄っすらな計画はある。
ただ、それをきちんと口にした訳では無いし。
今の関係性を出来れば大赦の側には知られたくない、という目論見もあった。
嘗て、ということ自体は問題ない。
調べようと思えば出てくることだし、隠す理由もないこと。
ただ、今現在――――これから勇者として
それに変なコブがついていれば、と思う相手は必ずいる。
故にこそ、表立って連絡も控えて……嘗ての幼馴染っぽく振る舞っていたのだが。
直接伝えたことはないからこそ、今こうして噴出している。
「…………今度、二人で。 ってことでいいんだろ?」
「……うん」
だからこそ、本当に分かっているか不安そうな頭を一撫でし。
他に聞こえないように呟けば、小さく呟くのと首肯するのがはっきりと分かった。
その光景を見ていたのは……直ぐ近くに佇んだままの樹ちゃんくらいのもので。
俺達を見て、頬を微かに染めつつ何か感心するような顔をしていたのが不思議だった。
一体何を学習させてしまったのか……それが怖い。
「取り敢えず、三人と合流しない?」
咄嗟に口にしたのは、そんな焦ったような内容。
各々が頷いたり、理解する中。
少しずつ平常へと戻り始めたパイセンを横目に見ていれば。
袖の辺りを樹ちゃんに引っ張られ、何かを伝えたそうにしてきた。
少しだけ体を屈め、耳を近付ければ。
「……
悪戯っぽい表情。
恐らく、特に何も考えずに言ったのだろう言葉。
ただ、それは――――ある意味で。
(……姉も妹も、どっちも相手を手玉に取るタイプだなぁ)
そんな確信を、俺に抱かせるには余りある発言だった。