葦原天理は巫覡である 作:氷桜
登校日。
ほんの一週間しか経っていない夏休みだと言うのに、その印象は結構変わるもの。
部活で努力したのか、黒く焼けたやつ。
少しだけ浮かれて、隣の女の子と手を繋いでるやつ。
机に突っ伏して魂が抜け落ちてるようなやつ。
まぁ、喜悲交々ってとこなんだろうけど。
……この使い方で合ってたっけ?
そもそもこんな言葉存在したっけ?
「……うむむ」
「なんかまた変なこと考えてる気がする……」
あ、そうだ前後が逆か。
悲喜交交だっけ、と思い当たって何か納得しつつ。
冷めた目で、けれど何処か疲れを隠せていない銀が此方を見詰めている。
「またって言われるほどなんかしたか……?」
「してるじゃん。 風先輩とか樹ちゃんとか」
その二人の名前が彼女の口から出て。
ブスッとした表情、内心を隠そうともせずに。
単純に言えば、嫉妬しているのを分かりやすく見せている。
「変なこと……変なことなのかアレ!?」
「あの二人に取っちゃそうだろー」
と言われましても。
銀が文句を言っているのは、つい先日。
あの買い物から帰っての翌日。
普段通りに学校に集まっては部活動、兼宿題片付けをやっていたわけだが。
『……ね、ねえ葦原』
『はい?』
『あの時言ってたことだけど……』
……と、まぁ。
いつだったかの、心が弱っている時と言うか二人きりの時と言うか。
物珍しい先輩の姿へと変わっていて、また何かあったのかと全員で疑う事になったり。
将又。
『お姉ちゃん、あの変な笑い方しなくなったので良かったです』
『そ、そっか……』
『天理先輩が何とかしてくれたんですよね?』
と、俺自身が理解していない事を俺の成果のように言われて。
そしてそれ自体が樹ちゃんの悪戯……というか、それに近い言葉だったりして。
全員から冷たい目と、呆れた目と、嫉妬の感情と。
後
「帰ってから説明もしたし、色々好き勝手してくれたじゃねーか」
「あの程度で済ませるほどアタシは優しくないんだけど?」
「いや、其処は優しくして欲しいっていうか自重してくれ。
俺だって無限に耐えられるわけじゃないんだから」
「其処でハシゴ外す?」
「外すわ!」
いや、まぁ。
太腿への摩擦による痛み……要するに抓り上げる行為であったり。
脇腹への捻り上げであったり。
後ろから抱き着きながらの力と圧力だったり。
二人きりになっての、何らかの証拠を求められたり。
各個人個人の性格はよぉく出てる拷問に近かったと俺は思うぞ?
うん、声には出さないけど。
なんかやらかした感はひしひしと感じていたし。
「でもさー、実際……明日だっけ? 園子の家行くんだろ?」
「あー……らしいな」
「他人事じゃん」
「なんで俺がそんな立場に付いてるのかが疑問なんだよ、今でも」
この間言っていた実家帰りの話。
気付けば極当然、自然に俺も二人のそれぞれに付き合う事になっていた。
当然ながら、その理由を問い質せば。
そのちゃん曰く、『一人暮らしを問題なく出来ているのか君の目から教えて欲しい』。
美森ちゃん曰く、『須美が無事に暮らせているのか、困っていることがないか教えてくれ』。
どっちにしろ、異性の俺に聞くことじゃないよなぁ……と。
既に十回以上は疑問に思うそれを彼女達当人越しに依頼され、付き従う事になったから。
まぁ、乃木家に向かう以上は若葉さんが残していたらしい幾らかの資料とかを漁れるとは思う。
ただ……当然ながら、隠した当人でさえも後世の扱いがどうなっているのかが分からない。
一応そのちゃんが話を通したらしく。
『友人に手伝って貰う』という形で倉庫までは若葉さんも来るらしいのだが。
……絶対、ひなたも着いてくるよな。
一人きりにするとは思えないし、何処かに潜んでいたかのように現れる予感が凄いする。
だったら当初から……と、結局四人。
それに対し、美森ちゃんは身軽なもので俺達二人。
それはそれで何かをなし崩しに成立させようとしている悪巧み感を感じる。
まあ……小学生の頃からずっと仕掛けられてきたことだし。
実際、『一人』という俺と彼女達が否定する部分を除けば、認めても全然構わない。
彼女、という立場から――――婚約者、許嫁。
そう呼ばれる立場に変わるだけ、と言えばそれだけの話。
表に出れば多分ボッコボコにされるだろう逆玉のような事象。
……うん、口付けの回数とか少しでも漏れたら多分死ぬな。
「なんで七面相してるんだ?」
「それを言うなら百面相じゃないか?」
「同じようなもんだろ。 それで?」
「いや……名家の圧に関して考えてた」
「あー…………園子と須美?」
頷く……素振りを、誰かに見られている気がした。
故に大きく動くのをやめ、眼球の動きだけでそれを伝える。
また変な目を向けられたが仕方ないだろ。
男性陣からこれ以上マイナス評価受けるのも厳しいんだし。
「其処まで警戒することでもないと思うけどなぁ」
「一応、一応警戒してるだけだからな?」
「あー、はいはい」
呆れるように、どうでも良さそうに言葉を放り投げられ。
むっとした悪感情が浮かぶのは一瞬。
けれど。
「アタシの為の時間はいつ作ってくれるんだろーな、彼氏様?」
そんな言葉の前に。
待っている、とはっきりと告げている目に。
最も直近で、本来なら休日としてゆっくりしようと思っていた日。
友奈が家族と過ごす、と告げた八月初日。
それを捧げることで、何とか機嫌を取ろうと……気付けば懇願し始めていた。