葦原天理は巫覡である 作:氷桜
乃木家であり上里家であり、四人で一家族であり。
そんな感じの会話です。
七月末。
気付けば当然のように彼女に付き添う形となり。
そしてそれに付き従う形で顔を隠した二人がくっついて。
合計四人で帰ることになった、日帰りでの顔出し。
「しかし……気付かれないものなのかね?」
「雰囲気で疑われる……可能性は、まぁ……無くもないだろうが」
「大丈夫だとは思うけどね~」
少しだけ不安が残る俺。
それに対し、どうなのかと考え込み始める若葉さん。
唯一気楽に、そして喜ばしそうにしているそのちゃん。
三者三様の光景を、ニコニコと見守っているひなた。
電車の中、大橋市へと向かう一本の内側。
横並びに座りながら、何処か居心地の悪さを感じている。
多分それは、左右を少女達に囲われているからだと思うのだ。
いい加減毎回毎回こんな事、こんな状態に立たされて。
日常生活でならば慣れも見えてきて、普通に対応できるけれど。
まるで
俺も人並みに緊張し続けている、のだと思い込みたい。
決して。
決して、普段と違う私服の格好と。
妙に距離が近い事で、触れ合う肌とか。
微かに漂う何かの匂いだとか、そういうモノに惹かれているわけではない。
そう自分に言い聞かせている。
「ふふ」
ただ、何となくだが。
全員に気付かれている気がするのは気の所為だろうか。
今までに比べ、俺自身が過敏になっているから……ならばいいのだけど。
「然し、迎えを断って良かったのか?」
「あ~……うん。 前までだったら当たり前に受けてたかも~。
でも、そういうものじゃない……って、勉強したから」
そうだよね、と話を振られ。
そうだね、と半ば反射的に返す。
当時……と言う程俺も年月を重ねたつもりもないのだけれど。
それでも、三人と出会ってからの年月はそれだけ重く濃厚で。
それより前の――――友奈との出来事や、実の両親との微かな記憶。
そしてせんちゃんとの淡い思い出を除けば、塗り潰されて更新するかのような勢い。
……これだけははっきりと言える。
三人と出会えたことで、多分俺は生まれ変われたのだと。
「……羨ましいな」
ぽつり。
いつぞやにも聞いた言葉。
「でも、そういうのを守るために頑張ってたんですから」
「そうだな――――でも。
膝の上に置かれた手に重ねるようにしながら。
自分に言い聞かせるようにしながら。
そんなことを口にするひなたに、返す若葉さんの答え。
「私達は……私達で、自分の身を守るしか無かった。
それは、変えようのない事実だろう?」
「…………そう、ですけど」
「何、全てを否定するわけでもない。
そうしてしまえば、私達だけでなく……。
全員の犠牲をも受け入れない、子供の癇癪になってしまう」
恐らく。
これを、近くで聞いている人がいたとすれば。
まるで劇か、或いは想像での話に近いと判断するだろう。
見た目の歳に似付かわしくない、何処か老成化したような言動。
そしてそれを支えるようにする、黒髪の少女。
見る人が見れば……何らかの深い関係だと察するに余り有る光景。
「それでも……と。
ずっと、そう思ってしまうだけなんだ」
そして。
同じ言葉を、幾度も幾度も聞いている俺は。
今だからこそ、はっきりと言っておくべきだと愚考する。
たった一人だけ、戦い続けた過去に縛られ続け。
そして、今も尚。
精神を天の神と一部を同期して。
故に、
(――――許して貰えるかね)
ただ、それを口にする場合。
唯でさえ泥沼に腰まで浸かっている俺は、更に深みに沈む。
序でに言えば、これから向かう先での想定される出来事と。
今のそのちゃんの感情を鑑みれば、許可を取る必要くらいはあると思って。
視線を、彼女の方に向ける――――直前。
「むぐ」
頬を指で突かれて、向く事自体を拒否された。
「てんくんの好きにして良いんよ」
問おうとしたことを、先回りして。
けれど、此方を向かないでほしいと懇願された。
「わかちゃん……御先祖様も、多分私と同じようなものだから」
隣りにいて、その言葉は全員に聞こえている筈なのに。
誰も口にしないのは……全員の心を慮ってなのだろう。
自分よりも他者を。
支えるべき相手を。
そう思ってしまうのは、ある意味で。
勇者であり、巫女としての最も基礎的な才能なのだから。
「でもさ~……その前に、教えてくれる?」
「何を?」
「……ず~っと、ず~っと前に聞いたこと。
ず~っと前に、重ねた約束」
一拍の間が合って。
聞こえる声は、いつだったか。
共に歩むことを望まれた時のそれに、近いと思った。
「私だけを、置いていかないよね?」
「……今更だろ?」
そして、こういった部分は似たりよったり。
たった一人を拒絶する。
知る前ではなく。
『今』を知ってしまったからこそ。
それだけは嫌だ、と口にする。
――――何故だろうか。
いつだったかに見た、彼女一人だけで眠る夢。
失ってしまったモノへと手を伸ばし。
けれど其処に辿り着くまでに積み重ねなければならないのは数多の苦痛。
そんな彼女の顔と、重なって見えたのは。
電車の中の、ガラス越しに反射した
「……寧ろ、俺からお願いしたいとは思ってるよ。
捨てないでください、って」
ああ、そうだ。
言ってしまえば終わりだと、理性的な部分が囁いていた筈なのに。
言おうと思ったのは……結局、感情に流されたからか。
「そのちゃんにも……ひなたにも、
がたん、ごとん。
電車の振動の中で。
そんな、良く分からない会話に浸り続けていた。
――――嘗ての、第二の故郷までは、未だ遠く。
少女達の温もりだけは、共に。